Journal.03 PREPARATION FOR
SNOWY MOUNTAINS

PROFILE.

布施智基

アメリカ、モンタナ州のスキー留学を皮切りに早期から海外の山を転々と渡り歩き、現在の白馬を拠点に活動。 COLOR SPORT CLUBに所属し、バックカントリー・スノーボードのガイドを務めている。 その他にも自身が山に入った際に撮影したコアな滑り手目線による写真で数々のフォトコンテストに参加するなど、 フォトグラファーとしての顔も持つ。夏には踏み入れないエリアを滑るという自由度がバックカントリー

雪山に向けた準備

ウィンタースポーツを楽しむ上で忘れてならない下準備。
雪崩やその他の危険、持っていくべきギアなどは意外と知らない人が多いのではないだろうか。
ここでは雪山に向けた準備というタイトルを掲げ、白馬でガイドを行う布施智基に諸々レクチャーしてもらった。

雪崩のメカニズム

 まずは“雪崩”が起こる原因とは。「斜面に積もった雪は重力により落下しようとする力、 地面との摩擦力、雪粒同士の結合力がつり合うことによって支えられています。 ただこれがカキ氷の要領と一緒で、積雪が多くなり落下しようする力が大きくなったり、 人や動物が斜面を横切って雪粒同士の結合力が弱い部分を刺激してしまったりすることで、均衡が崩れて雪崩が発生するんです。

その雪崩も大きくわけると表層雪崩(※1)と全層雪崩(※2)があり、僕らが注意しないといけないのが前者。 さらにここで点発生と面発生に分けると、点発生は結合力の弱い雪で発生する雪崩。 木や岩からの落雪や人が滑ったスプレー(雪しぶき)など弱い刺激で発生します。低温で風の影響を受けずに降った雪。 握っても雪玉が作れない様な乾雪。サラサラで砂山が崩れ落ちるように発生します。 また気温の上昇や雨などによって雪が十分に濡れると雪の結合力が失われ、点発生雪崩は起こります。 湿雪の場合、雪の重さが増加しているので、人を押し流すのに十分な力があり注意が必要。 続いて、面発生雪崩は雪同士の結合力があり板状の性格を持った積雪層が崩れることを言います。 雪の結晶は花びらのようになっていて、風を受けて転がると削られていき小さな粒になるんです。 その粒は結束性を持ち、板状の積雪層に変わります。この密度が高く結束力を持った雪が不安定な状態の積層の上に乗っていると、 ヒビが入る様に破断し広範囲に渡って破壊が伝播し大規模な雪崩に変化する可能性があります。 非常に不安定な層が形成された場合、人や動物が歩いた程度の力でもヒビが入って一気に落ちてしまう。 時速も100km〜200kmと言われているので非常に危険(※3)です」。雪崩という言葉はひとつだが、その中にも様々な区分があり判断は難しい。 初心者は必ずガイドツアーに参加してほしい。続いて、冬の山で起こりえるトラブルと対処法を教えてもらった。

雪崩以外に注意したい冬山の危険

 その言葉通り雪崩が全てではない冬の山で起こる危険。 「実際のところ雪崩には回避できるから遭遇する確率は少ないんです。 危険なコンディションだと思うならば斜度を落としたり、雪崩地形を通らないようにしたりすることによって雪崩を避けることができます。 過去10年の統計からのデータによると70%は遭難や怪我、20%が雪崩、残りがその他いろいろ。 割合が大きいふたつでいうと、遭難は地形を読まずの行動、急な天気の悪化で視界不良など考えられます。 いずれにせよ事前の準備が重要。道標や登山道がない雪山では地形図と山全体の地形を照らし合わせる判断力とスキルが必要です。 常に安全な地形を把握し自分がどういった状況に居るのか観察し続けなければなりません。 初めて行く場所であれば地元のガイドと同行することをお勧めします。続いて怪我の原因で多いのは転倒と衝突。 板を履いた状態での転倒は足や膝、関節の怪我を負う人が多い。 ただ、その状況になったとしても滑らなければ帰れない場所に居るのがバックカントリースキー。 最悪の場合を考えて応急処置の方法を勉強しておきましょう。仮に自力じゃどうしようもできない事態になってしまった場合、 人を雪の上で搬送するのはかなりの重労働なんです。遭難と同様ですが、常に最悪の場合を考えて行動することが大事ですね」。 無理は禁物という言葉があるように一線を越えてしまうと、自分だけではなく周りの人まで巻き込んでしまう結果となってしまう。 そうならないための山に入る前の場合の準備についても伺った。

冬山に入る場合の準備

 雪崩に始まり、冬山の危険を訴えかけてきたが、人の手が加わっていない雪の上を滑るという、 そこでしか味わえない経験はふるって体感してほしい。そのための準備とは。「まずは天気予報を見てください。 冬の雪山で行動するアウトドアスポーツですから、天気がその日の行動を左右します。 たとえ朝晴れていても下り坂だとか、急な気温の上昇や雨など、天候によってその日の行先や行動時間が決まります。 積雪のコンディションも天気によって多々変化します。雪崩の危険性も天候によって変化するということです。 あと、仲間同士で山に入る場合にお互いの道具の認識しておくためにもビーコンの動作、忘れ物がないかなど再度確認することが重要。 またリーダーを決めて実際に何かトラブルが起こった時にその人の判断で行動することで、スムーズな行動ができると思います。 持ち物でいうと水は最低でも500ccは持ちましょう。行動食も必ず余分に持つべきです。保温着も重要なアイテムのひとつ。 ダウンやフリースを余分にザックに入れておくようにお願いしています。特にダウンジャケットは気温が低下した時、 怪我してしまって長時間待機しなくなってしまった場合に役に立ちます。そういった装備も使わないでいいのが1番いいことですが、 準備は入念に行ってもらいたいです」。ゲレンデ外という未知の世界を探求した上で歩き、最高の1本を滑るためには危険の認知と最善の準備が必須だ。

※1 表層雪崩

すでに積もっていた雪と新雪の結合力が弱いと表層の雪が滑り出すのが表層雪崩。 表層雪崩の中でも面発生雪崩が危険で気温が低く、降雪が続く1月〜2月の厳冬期に多く発生し、巻き込まれると危険性は高い。 広範囲に伝播する特性を持つため、国内でも発生地点から2kmも離れた場所まで被害を出した例がある。 また、白馬においても午前と午後の天気によってコンディションが違うように、予測することは非常に難しい。

※2 全層雪崩

気温の上昇や降水により溶けた水で滑りやすくなった地表面上に積もっていた雪全体が滑り落ちるのが全層雪崩。 報道で雪崩注意報が出る際はこの雪崩だが、日中の気温がプラスになる春先や過去に雪崩が発生した斜面で起こりやすいのが特徴。 また、ゆっくりと時間をかけて崩れ落ちる場合が多く、亀裂が入っていたり、 土が出ていたりサインがあるので発見した場合は近づかないように注意してください。

※3 自分が雪崩に巻き込まれた場合

強烈なスピードとパワーによって、どんどん埋もれてしまうので、飲み込まれないようにとにかく抵抗し、 顔や手が雪面から出るようにするのが第一。この行動によって、捜索している仲間に発見してもらえる可能性も高くなります。 また、もし埋もれてしまうと窒息死の可能性が高まるので、まずは口に手を当ててエアポケットを確保。 可能ならば、体全体を使って少しでも多くの隙間を作りましょう。

※3 仲間が雪崩に巻き込まれた場合

巻き込まれたのに気づいたら、見失わないように流れていった方向を確認。 そしてチームリーダーの指示で、ビーコンなどを使い捜索する人、救出時の避難場所を確保する人、 警察に連絡する人など各自行動をおこなう。捜索する人は2回目の雪崩がないかを注意しながら、 残留物を確認しながら流れっていった方向に下りていく。また、パーティの人数によっても、 捜索方法が変わってくるために事前の打ち合わせは必須。

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