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23歳の若きフリークライマー・中嶋徹。4歳でボルダリングと出会った彼は、8歳で本格的なクライミングを開始し、15歳の若さで単身渡英。以降、世界をフィールドにさまざまな高難易度のルートを完登し、数多くの最年少記録を打ち立ててきた。そんな若き新星は、人類未踏のルート開拓へ情熱を注ぐ一方で、京都大学の大学院生として地質学の分野でヒマラヤ山脈の研究にも出精しているという。その飽くなき探究心は、どこから湧き出てくるのか。彼を突き動かす、力の源泉へと迫る。

単身渡英で掴んだ小さな成功体験

中嶋さんがクライミングに傾倒するようになった
きっかけを教えてください。

最初は、父親がいつもトレーニングしてるボルダリングの室内練習場に連れて行かれて遊んでました。その後、僕が8歳の時に兄が真面目にクライミングを始めて、それに影響されたのがきっかけですね。当時は岩場に登れば登れるほど周りの大人が褒めてくれたので、楽しくなって夢中でやっていました。

それから単身渡英をして、
高難易度のルートを次々と完登していくわけですね。

その頃は成長期を迎える前だったので、ボルダリングだと身体的な面では大人に太刀打ちできないっていう壁を感じてたんです。そんな時、イギリスの最先端のクライミングを収録した映像作品『Committed』を偶然観て、トラッドクライミングにすごく惹かれて……。その作品をきっかけに、トラッドクライミングが盛んなイギリスに一人で行くことにしたんです。イギリスではほとんどずっとテント生活でしたね。

イギリスで一人テント生活というのは相当苦労したのでは?

イギリスでは人づてに紹介してもらった人と一緒に登ったりしてたんですが、あまり英語を喋れないのもあって、かなり人見知りしました。それが一番辛かったかもしれないです。
ただ、その時に『Committed』に出演しているクライマーと一緒に登れる機会があったんです。多分僕はめちゃくちゃな英語だったけど、「明日はどこに登りに行こう」とか、共通の好きな話題があったので、なんとかコミュニケーションを図ることができた。憧れを抱いていた人と話して一緒に登った経験というのは、今でもよく覚えてます。

研究とクライミングを結ぶ、
未知への探究心

その年齢で自分のやりたいことをしっかりと実行できるのはすごいことだと思います。

僕はとにかく自分の好きなことに夢中になってただけなんです。高校生になる頃には、純粋に自分のクライミングへのモチベーションに突き動かされ、どんどん探究していっているような感覚でした。でもそれは、周りの友達が遊びやスポーツに熱中していたことと、本質的には変わらないと思います。

クライミングに対するモチベーションが下がることはないのでしょうか?

しょっちゅうありますけど、そういう時は素直にちょっと距離を置いてみます。普段の学生生活に集中したり、クライミングの別ジャンルに挑戦してみたりとか。そして自分のやるべきことを終わらせたら、またクライミングに戻る。これまでそうやってうまくクライミングとの距離感を測ってこれたので、これからも長く付き合っていける自信があります。

クライミングの最中に心が折れることもあるのでは?

もちろん難しくて登れない時には心が折れますよ。それは実力的な敗北でもあるし、精神的な敗北でもあるから。ただ、難しいルートに取り組む時って、何ヶ月、何年と時間をかけてやるんです。完登に3年かかったらその一瞬は「成功」と言えるかもしれないけど、あとの3年は全て失敗の積み重ね。クライミングは失敗が当たり前の世界なんです。

それでも挑戦を続けることができる、
クライミングの魅力はどこにあるのでしょう。

クライミングの魅力……一言で表すのは難しいですね。そもそも、僕は「未知のものに触れること」が好きなので、未知の部分が多ければ多いほど楽しい。もちろん完登した時は感動しますが、知られてない岩を探す段階や、ルートを観察している瞬間も好きです。完登に至るまでにたどる一つひとつのプロセス、その全てに創造的な魅力を感じています。

クライミングこそが、
自分の成長を確かめるツール

そういう意味で、「研究」もまさに未知の領域を解き明かしていくことですよね。自分の中では「新しいものを見つけたい」というモチベーションがすごく重要なんだと思います。

フリークライマーとして実績を上げる一方で、
地質学の研究を始めた理由は?

中学の理科の授業で地質学を知って、普段僕が触れている岩でも調べればその歴史やいろいろなことがわかるということに惹かれました。山に行って岩や自然を見る目も変わりましたし、自分が活動する自然というフィールドについての理解も深まったと思います。
それまで勉強とクライミングは完全に別のものとして考えてたんですが、今は岩や自然に対する関心が、僕の中の大きな軸になっています。今後、この軸がブレることはないんじゃないかなぁ。それくらい、今は両方に熱中していますね。

自然と都市を行き来する中で、両者に共通する点はありますか?

僕は普段都会で生活しているので、アウドドア=自然は非日常の世界。だから自然の中では新しいもの、都市にはない部分にフォーカスしていますが、人によっては都会でも新しいもの見つけることはできるはずです。もしかすると、都会と自然との間に大きな区別があるわけではないのかもしれません。「お、このビルは登れそうだな」と思うこともありますよ(笑)。

クライミングの際に絶対に準備していくものはありますか?

最近、大会にはほとんど出てないんですけど、小学生の時に初めて優勝した大会の景品としてもらった小さなマットは今でも愛用してます。岩に登る前の準備として靴の汚れを落とすためのもので、海外遠征にも必ず持っていきますね。クライミングの道具は消耗品ばかりなので、昔からずっと使い続けてるものが一つでもあると安心できる気がするんです。

最後に、自分をより高めていくために行っていることを教えてください。

クライミングは自分の成長をすごく感じやすいスポーツだと思います。「岩」という形が変わらないものを相手にしているので、弱くなること、つまり「岩が登りやすくなるということ」は基本的にありえません。だからこそ、昔登れなかった岩に登れるようになれば、成長を感じることができる。自分を高めていくためには、自分自身の成長を感じることがとても大切です。僕にとって、クライミングそのものが、自分を高めてくれる存在なのだと思います。

中島 徹
クライマー

1993年生まれ、長野県出身。4歳でクライミングに初めて触れ、8歳から本格的にクライミングをはじめ、国内外問わず数々の高難易度を登っている。国内で経験と実績を積み、15歳のときに単身渡英したことをきっかけに活躍の場を世界に広げている。 「Paint it Black V15」「The Story of Two Worlds V15」などを完登。

1993年生まれ、長野県出身。4歳でクライミングに初めて触れ、8歳から本格的にクライミングをはじめ、国内外問わず数々の高難易度を登っている。国内で経験と実績を積み、15歳のときに単身渡英したことをきっかけに活躍の場を世界に広げている。 「Paint it Black V15」「The Story of Two Worlds V15」などを完登。