Forest, a Rock, and an Ocean:
The Landscape of Shiretoko

AUTUMN WINTER

THE NORTH FACE

In Pursuit of the Source
by Naoki Ishikawa

Drift Ice: A Primer

The Drift Ice Overstays Its Welcome
by Mizuhiko Ito

Snow and
Ink by Daichiro Shinjo

The North Face / Helly Hansen
Shiretoko

JP EN

Traversing
the Shiretoko Mountain Range
by Naoki Ishikawa

流氷のはじまりを追って

石川直樹

毎年、冬の終わりごろになると、ぼくは知床で沿岸に流れ着く流氷を眺める。流氷は、遠くロシアのシベリアからやってくると聞いて、そのはじまりがどうなっているのか、いつも不思議に思っていた。
水平線までびっしりと流氷で埋め尽された知床沿岸に立つ。この上を歩いていけばロシアまで行けないだろうか、などと真剣に考えてしまう自分がいた。長い旅をしてきた流氷の、そのはじまりを見てみたい。そう思うまでにたいして時間はかからなかった。

オホーツク海は、ロシアのアムール川から流れ出た大量の真水によって塩分濃度が低くなる上に、水深もそれほど深くない。そのため、通常の海よりも凍りやすくなっている。つまり、アムール川が、知床にやってくる流氷と密接なかかわりがあるといっていい。ただ、アムール川の河口そのものは冬に完全結氷してしまい、氷が流れ出すその瞬間は見られないという。

調べていくと、アムール川の河口よりもさらに北、シベリアのマガダンという街の沿岸に浮かぶ小さな氷や結晶が徐々に南下し、サハリンの東側を通過して北海道の沿岸にやってくるあいだに氷が大きくなって、それが流氷になるらしいのだ。

そうした風景を想像すると、どうしても自分の目で確かめたくなった。流氷が流れ出すその瞬間に立ち会いたい。その一心で、ぼくははるばるシベリアへ飛んだ。それも真冬の一番寒い時期に。目的はただひとつ、流氷のはじまりを見ることだった。


ヒマラヤや北極圏など、今まで寒い気候の土地を幾度となく旅してきたが、マガダンの冬の寒さは、ぼくの経験をはるかに上回る寒さだった。気温はマイナス20度を下回り、ひとたび風が吹けば体感温度はその倍近くまで下がった。目は意識して瞬きをさせないと動きが鈍くなってしまうし、耳を隠す帽子と分厚い手袋をしなければ、撮影など到底できる環境ではなかった。

マガダンの港は結氷していて、その上を歩くことができる。数人の男たちが散らばって、海上で氷に穴を開けてキュウリウオを釣っている。ここでは、完全に海が凍っているために流氷のはじまりは見られない。

港から離れ、岸沿いに車を走らせていくと、高台から、どろっとした氷の帯が浮かぶ海が見えた。あの帯が流氷のはじまりか。ぼくは興奮しながら丘の上に三脚を立てはじめたのだが、寒さによってすぐに現実に引き戻された。フィルム交換をする手が痛くなり、やがて関節が動きにくくなる。風が頬に吹き付けてきて、刺されるように痛い。長く車外にいると、まずい。ぼくはシャッターに手をかけながら、その先にある知床を想った。

この凍てつく寒さが、アムール川の水を含んだ海水を凍らせ、細かな氷の結晶が寄せ集まった小さな帯を知床への旅に向かわせる。やがて、その帯はどんどん大きくなり、その下に栄養分を蓄えながら、ウトロの沿岸を覆い尽くすまでに成長する。

そうやって知床の大地は潤っていくのである。ぼくは目で、肌で、身体で、流氷の息吹を受け止めた。

石川直樹 (いしかわ・なおき) 1977 年生まれ。写真家。東京在住。