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挑戦の力
#AYANA
ONOZUKA_
MOUNTAIN SKIER

世界の頂点を極めた後も、
新たなスノースポーツの道を
滑走し続けるチャレンジャー

PROFILE
小野塚彩那 / AYANA ONOZUKA
マウンテンスキーヤー
1988年新潟県南魚沼市生まれ。専大卒。アルペンと基礎スキーの選手だったが、2011年に種目を転向。2014年ソチ五輪で銅メダル。ワールドカップでは2度の種目別総合優勝。2017年世界選手権は金。2019年「X Games」を機に、ハーフパイプ競技を引退。フリーライドに転向する。

やらないで後悔するなら、
やってみて後悔しよう。
結果、涙が出るほど悔しかったけど。

2019年1月の「X Games」を機にハーフパイプを引退し、フリーライドに転向された小野塚さん。転向してすぐ「FREERIDE WORLD TOUR」への参加となりましたが、いかがでしたか。

右も左もわからなくて、正直に言って何にもできなかったですね。今シーズンは転向したばかりで、山について勉強しながら作品を撮影していこうと思っていた段階だったので、招待していただいたときには正直迷いました。でも、周りの方々に相談して「出られるんだったら、一回出てみたら」とアドバイスをいただいたんです。そもそも自分も、普段から「やらないで後悔するなら、やって後悔しよう」と思うタイプ。だからチャレンジしてみたけれど、いざ出たらやっぱり結果を残したかった。涙が出るほどものすごく悔しかったけれど、すごく良い経験になりましたね。このタイミングで世界最高峰を観れて、「ここまでやらないとダメなんだ」という先を感じられたのは、良かったと思っています。

スキーヤーのご両親を持ち、幼い頃からスキーに親しんできた小野塚さんですが、プロとしてスキーでやっていこうと思ったのはいつだったのでしょうか。

大学生のときですね。それまでも、手応えは感じていました。でも2014年ソチオリンピックで、ハーフパイプが正式種目になってからは、すごく充実した選手生活を過ごすことができました。応援してくれる人やサポートしてくれる人がいて……、好きなことをそんな風にして職業にできることもあまりないと思うので、すごく恵まれていたし、天職だったと思っています。

ご自身が活躍できている一番の強みは何だと思いますか。

やっぱり、努力はしてきましたから。あとは、成功するための「正解」はないと思うのですが、私にとってのハーフパイプの場合、コーチやトレーナーと話し合うなかでうまくいったことが多かったように思います。フリーライドはまだ始めたばかりで、「こうしたら良い」と判断するところまでいっていないので、毎日ひたすら吸収するだけ。ステップアップもできている時期だとも思えています。

ハーフパイプ引退後、進路にフリーライドを選んだのはどうしてだったのですか。

アルペンスキー、ハーフパイプ、そしてフリーライドと、私のスキー人生においては3種目目の挑戦になります。これまでの経験の中でも、フリーライドは、憧れていたけれどやってこれなかったものなんです。選手として現役のときは、競技が仕事ですから、他の理由で怪我をするわけにはいけない。フリーライドは、人工雪でもなければ、決められたコースがあるわけでもない。自然と立ち向かうものです。その、スキーの真髄である「山」というものを私はこれまで何もわかっていなかった。ずっと挑戦したいものでもあったし、大会に出て成績を出すこと以外で、スキーを使って人を魅せられることは何かと考えたときにフリーライドだったんですよね。もちろん大会でも成績を残したいですが、良い作品も残していきたい。そして純粋に、うまくなりたいと思っています。
別にその他のスキー競技が嫌いになったわけではないんです。ハーフパイプでは2回オリンピックに出て、獲るものも獲れたという実感がある。その時に「メダルが獲れたからやめる」というのは簡単だったけれど、その当時は今のままじゃ自分より下の世代の選手に残せるものがないなと思って、ワールドカップで世界一になるまでやろうと思っていました。最後、オリンピック直前に脳しんとうを起こして感覚が全て変わってしまったときに「もう続ける理由がない」と感じ、その頃にはナショナルチームもできていたし、自分が作り上げたものは下の子たちに対して残せていると思えたんです。だから今年、「X Games」に招待してもらって、未練なくやめられることができました。

「誰かに勝ちたい」ではなく、
超えなくちゃいけないのは
いつも自分だから。

大きな大会で成績を残し、またその大会に挑戦することには大きなプレッシャーが伴うように思うのですが、それはどう乗り越えてきたのですか。

あまりプレッシャーって感じたことないです。「誰かに勝ちたい」ということが問題でなはなくて、超えなくちゃいけないのはいつも自分だから。プレッシャーは気にしてこなかったですね。いつも「いくしかない」と思っています。

「いくしかない」という気持ちは、フリーライドにおいても変わりないものですか。

まさに始めたばかりの今だからこそ「いくしかない」と強く思っています。「FREERIDE WORLD TOUR」でも、スキーのうまさだけでいったら他の選手にも全然負ける気がしないのに、全く勝てない。ラインの読み方や、クリフを飛ぶスピードなど、全然わからなかった。それに恐怖もありました。経験値が圧倒的に足りなくて、全く歯が立たなかったです。日本と海外では全くフィールドが違うし、外国人の選手に勝つには海外のフィールドでどんどん滑っていかないとだめですね。命がかかっているから、ただがむしゃらにやればいいというものではないけれど、それでも今は「いくしかない」です。

「いけない」と思うことや挫折したこと、辞めたいと思ったことはありますか。

何度もありますよ。今は、ないですね。成績が出ない時には思い悩みました。オリンピックも、ワールドカップも、出るだけだったら出ない方が良い。獲れないと意味がない。でも、その気持ちがあったからこそ、成績が出せたんだと思います。辞めたいと思うことがあっても辞めなかったのは、これ(スキー)しかなかったから。スキーは生涯スポーツですが、アスリートとしての終わりはいつかやってくるので、それがいつになるかはわからないですけれど、そのときにどう感じるのかも今は全く想像ができないですね。

フリーライドの魅力は、どんなところにありますか。

決まりがないところ。めちゃくちゃ自由なところですね。ハーフパイプだったらグラブをしなきゃいけないとか、高さを出さなきゃいけないとか、回らなきゃいけないとか、求められるスタイルがあるけれど、フリーライドにそういう決まりはないですから。雪崩を始め、様々なリスクがあるのはもちろんですが。あとは、自分の足で山に登って、時間をかけて滑る一本の重みが好きです。登るのも、嫌じゃない。いつか面倒になるのかもしれないけれど(笑)。

フリーライドではどういう滑りをしたいですか。

女性らしからぬシルエットを出したいと思っています。やっぱり「彩那はうまいな」と思わせたい。撮影のときも「彩那を連れて行ったらできるんじゃない」と選ばれる人物でありたいです。


  • Freethinker Jacket(NSW51912)¥61,600(税込)
  • Purist Bib(NSW51911)¥66,000(税込)
  • Photo / Chikashi Suzuki
  • Movie / Yu Nakajima
  • Illustration / White mountain, 130 x 130cm gouache on canvas, 2014 EOMYUJEONG
  • Interview / Rio Hirai
  • Cooperation / Moojin Lee