海にたゆたう、希望の舟
- HELLY HANSEN × Atlantic Pacific Japan -

今もなお復興の最中にある岩手県釜石市。決して忘れてはいけない悲劇で、これほど忘れたいと思える記憶がそこにはある。民間のレスキュー団体Atlantic Pacific Japan(AP)は、英国式の人命救助を提供するほか、震災の記憶を伝える語り部の役割も果たす。ヘリーハンセンは、APに対してウェアを供給したことを皮切りに伴走をスタート。彼らの活動と忘れがたい記憶の一片を取材した。
PROFIEL

Atlantic Pacific Japan

Atlantic Pacific Japan

Atlantic Pacific Japan(アトランティック パシフィック ジャパン)は、2016年8月に釜石市で誕生した「ボランティアで成り立つ救命ボートステーション」。当時ロンドン芸術大学の教授を務めていたロビン・ジェンキンス氏の提案をきっかけに発足した「一般社団法人 根浜マインド」において結成。釜石の大槌湾にある根浜海岸に救命ボート「Lifeboat in a box」を設置するほか、レスキューの講習、震災にまつわる講演やワークショップを主な活動とする。

根浜マインドでAPチームを担当する三浦勝氏

根浜マインドでAPチームを担当する三浦勝氏にお話を伺った。

2011年の東日本大震災で壊滅的な被害を受けた東北沿岸水域

忘れ得ぬ10年目の記憶

2011年の東日本大震災で壊滅的な被害を受けた東北沿岸水域。尋常ではない揺れが三浦氏の住む釜石市を直撃したのは、出勤前に準備をしていたときだったという。家族の安否を確認したのち、海から1kmほどに位置する会社の様子を確認しに向かった。海へ近づくほど、人々の様子がおかしいことに気づく。慌てて丘へと上がる車の流れと逆行し、会社近くまでたどり着いた三浦氏が見たのは、想像を絶する光景だった。

2011年の東日本大震災で壊滅的な被害を受けた東北沿岸水域

津波の第一波によって周辺の地面が濡れ、河には大きな波が何度も流れ込んだ。駅前には、フロントを下にして多数の車が浮き、橋には車や瓦礫の山がそびえ、至るところで助けを求める人々の声がする。震災があったのは午後2:47。三浦氏が会社に到着したのは、午後3:30ごろ。タイミングが悪ければ、三浦氏もその波に飲み込まれていたかもしれない。

三浦氏は、もともと競技ヨットの選手として根浜の海で活動していた。道路も甚大な被害を受けていたため、根浜の海の様子を見に行くことができたのは震災から1週間が経った頃だった。ヨットを格納していた艇庫は、15隻のヨットもろとも跡形もなく消え、海辺の部落には家一つなく、瓦礫の間には転覆したヨットやクルーザーが挟まっていたという。悲惨な光景に唖然としたと当時を振り返る。親しくしていた人たちの多くが、消息を経っていた。

それからの2年は、海を見ることができなかったという。この機会にヨットもやめてしまおうと。しばらくして、地元の漁師や支援団体の後押しをきっかけにヨットクラブを再開することとなる。現在は、競技ヨットの選手として活動をしていた経験を生かし、若い世代の育成に務めている。

2011年の東日本大震災で壊滅的な被害を受けた東北沿岸水域
2011年の東日本大震災で壊滅的な被害を受けた東北沿岸水域

民間のレスキューという提案

津波に流される家屋や瓦礫に対し為す術なく陸で見ていた生存者
民間のレスキューという提案

2014年、芸術支援の枠組みで釜石を訪れていたロビン氏。震災当時の惨状を伝え聞き、大変衝撃を受けていたという。家屋や瓦礫の上に乗ったまま流されていった人々、 それに対し為す術なく陸で見ていた生存者のこと。ロビン氏の祖国イギリスでは、民間のレスキュー活動が古くから浸透していた。そのノウハウを日本に持ち込めないかと考えた。

津波に流される家屋や瓦礫に対し為す術なく陸で見ていた生存者

プロジェクトのハブとなったのは、ロビン氏が宿泊した宿、宝来館だった。自らも津波に呑まれ、九死に一生を得た女将さんのリーダーシップのもと、根浜の海にゆかりのある人々が集結し、APボートの受け入れ体制を整えるべく根浜マインドが結成された。ヨットクラブを再開させていた三浦氏も、それに参加してる。

決定当初は、これまでにない取り組みがどのように実現するのかイメージが湧いていなかったと振り返る。しかし、公的なレスキュー組織の枠を超えたサービスがあれば、助けられる命が増えるかもしれないという期待があった。

民間のレスキューという提案

ロビン氏の起案から2年後の2016年、イギリスから便りがあった。12mのコンテナを根浜まで運搬するという一大輸送プロジェクトがついに始まったのだ。提供されたボートは、ロビン氏の教え子たちがレスキュー用に設計したボートを、さらに日本向けに再改良したもの。日本では認可されていない形状のボートゆえに様々な難関があったが、ロビン氏の熱心な説得により、ついに根浜まで輸送することが叶った。

英国式レスキューボートの導入

英国式レスキューボートの導入

ボートが到着してからは、ロビン氏自らが講師となり、根浜マインドのメンバー他地元の有志に対して英国式のレスキューの講習を実施。多くの人が興味を持ち、参加した。丘でのロープワークや、海上でのロールプレイイング。夏期には毎週、コアメンバーによる海での訓練が実施されている。

英国式レスキューボートの導入
英国式レスキューボートの導入
プロフェッショナル向けのラインナップに刻印したAPのロゴ
プロフェッショナル向けのラインナップ
英国式レスキューボートの導入
英国式レスキューボートの導入
英国式レスキューボートの導入
英国式レスキューボートの導入
英国式レスキューボートの導入

根浜に提供されたボートは、ロビン氏の教え子によって起案された。水はけがよく、小回りが利く形状は、荒れ狂う海でのレスキュー活動に最適化されている。

ヘリーハンセンは2020年度からウェア供給を開始する。ヘリーハンセンの本国ノルウェーでは、2018年よりイギリスおよびアイルランド周辺の沿岸や海における救命活動を行う団体「Royal National Lifeboat Institution(王立救命艇協会)※以下RNLI」にウェアを供給していた。
日本国内でも、RNLI同様に人命救助活動を行うAPに共感をし、プロフェッショナル向けのラインナップを厳選したうえで、背面やベルト部分にAPのロゴを刻印した。

プロフェッショナル向けのラインナップに刻印したAPのロゴ
プロフェッショナル向けのラインナップ

根浜マインドはAPの運営に留まらず、語り部としての活動にも積極的だ。地元中学校などで、震災当時のエピソードやレスキュー活動についての講義をしている。震災当時のエピソードを思い返し言葉にすることは、被災者でもある三浦氏自身の心に相当な負荷がかかるはずだ。しかし、伝えなければ、知らなければならないと三浦氏は語る。復興が進み暮らしは日常へと戻りつつあるが、いつまた大きな地震が来るかわからない日本において、あの日起こったことを決して忘れてはいけない。そして助けられる命があったとき、行動するための知識と技術を身に付ける必要があると。APが掲げる「溺死者を0にする」という存在意義を全うするための、地道で大切な活動だ。

英国式レスキューボートの導入

釜石で始まったこの活動は、「救命ボートがないところに救命ボートを提供する」という国際的なプロジェクトへの発展の引き金となった。

世界各地で誰かが溺死の危機に晒されている。根浜での活動がこの大きな問題を解決するための第一歩としてスタートし、拡大していく様を、近くで支えていきたい。

救命ボートがないところに救命ボートを提供するという国際的なプロジェクトへ発展
救命ボートがないところに救命ボートを提供するという国際的なプロジェクトへ発展
救命ボートがないところに救命ボートを提供するという国際的なプロジェクトへ発展

Wears for Professional

Ocean Frey Jacket & Trousers

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防水透湿性のあるHELLY TECH® PERFORMANCEの2層構造の生地を使用した、HELLY HANSENの定番セーリングジャケットとトラウザース。2層の防水膜面はコーティング+ラミネーションで強度を上げ、ハードな着用シーンにも対応できる高い耐久性を備える。背面ロゴのサークルは人の字をもとに作られた“HITOBITの紋”を連ねたもの。人々が手を取り合い助け合う様子を描いている。「素材が柔らかでとっても着やすいです。前屈みになったり立ったりすることの多い仕事にぴったりですよね。また、襟が高くて海風をしっかり防いでくれるところも助かっています」(三浦氏談)

Dry Suit

Dry Suit
Dry Suit

HELLY TECH® PERFORMANCEの特殊な4層構造を使用し、過酷な使用環境に耐えるだけでなく海水への耐久性も追求したドライスーツ。海水を繰り返し浴びてもはっ水性が低下しにくい耐海水はっ水加工を施しており、さらには首元、袖口、本体と一体型のソックスにラテックスゴムを用いることで、海水の浸入を軽減した。
「左上肩から右下腰までの斜めフロントジッパーで、着脱が容易ですね。首元の密着度が高く、水が入り込まないようになっている点が特徴的だなと思っています」(三浦氏談)

Programs

Atlantic Pacific Japanに関するイベントやワークショップなどの最新情報をお届け。
  • 2021実施予定

    グローバルリーダーシッププログラム・サマーキャンプ

    海で安全に過ごす方法や英国式レスキュー、海洋汚染と海洋生態系について学ぶサマープログラムを 釜石で実施予定。
    (新型コロナウイルス感染拡大状況による変更あり)

  • 2020(実施済み)

    グローバルリーダーシッププログラム

    日本財団「海と日本プロジェクト」の一貫として、国内外の高校生・大学生を対象に海の安全と海洋 プラスチック汚染、釜石について学ぶバイリンガルのオンラインサマープログラムを実施。

  • 2016~2019(実施済み)

    プロフェッショナルトレーニング

    救命ボートの使い方の指導や、根浜の海に順応させた英国式レスキュー訓練の実施 海上保安庁や消防、ライフセービング団体を初めとするプロフェッショナルとの活動。