建築家・元木大輔の「遊び発見マニュアル」

vol.2 「ドアに乗って遊ぶ」

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  • 2021.9.22 WED

 建築家の元木大輔が、世界と子どもの関わり方を注視し、大人が思わず「やめて!」と言ってしまう行為に潜む遊具化の可能性を引き出していく連載。第二回は、いよいよ最初の提案「ドアに乗って遊ぶ」。子ども時代、ドアノブに掴まって揺れを楽しんだことありませんか? ドアノブが壊れたり、それによって落ちて怪我を心配したりして、親に怒られたアレです。

「遊具」とは、一度発見した楽しさを繰り返し・安全に楽しむための装置である

ヒントは「やめてー!」と叫ぶ時

 前回のイントロダクションで、「遊具」とは、一度発見した楽しさを繰り返し・安全に楽しむための装置であると説明しました。つまり、遊具としてデザインされていない状況は、安全性が確保されていないということです。そのため、子どもが遊具ではないもので思いきり遊ぶ姿を目にすると、大人は事故を想像して「やめて」と言ってしまうのでしょう。安全や迷惑を考え、危険を回避するための反応ですが、先回りして禁止することは、注意喚起看板と同じく遊びの可能性を狭めているとも言えます。

 そこで、これを逆の順番で考えてみようというのが今回の企画です。大人が「やめて」と思ってしまう子どもの行動を採取し、その瞬間を「子どもが環境を遊具化している」ととらえ直すところからデザインをスタートしようという「遊び発見マニュアル」です。

 この連載をはじめたことで、街などで子どもが自由に遊んでいる風景を見て楽しむことができるようになりました。大人がその先を想定して、「やめてー!!!」と叫びたくなるアイデアであればあるほど、原稿のヒントになるからです。第一回目の「やめて!」は「ドアに乗って遊ぶ」という光景をヒントに考えてみることにします。

基本の「ドアに乗って遊ぶ」

本来の機能を失った「純粋な何か」の状態を考えることから、「形式化される前の遊具」を考える

機能性を剥奪し、ものを純化する

 ドアとは、建物や部屋などの入口などにつけられ、開口部を閉じたり、外部と遮断する機能をもつ部分を指します。ドアを介してあっちっとこっちを行き来したり、空間を区切るという明確な機能を、我々大人は知っています。機能だけでなく、ドアの開け閉めはとても示唆的です。見えない向こう側を想起させたり、2つの空間の性格の違いを強調したりと、機能だけでない意味をはらんでいることを経験的に知っています。

 ある著名な建築家は、建築と彫刻の違いについて、「窓があるかないかだ」と言った、と聞いたことがあります。窓とドアの違いに明確な定義があるわけではないですが、「中と外がある」という概念が建築のある側面を決定づけていることには大いに共感します。

 ドアにはそのような「あちらとこちら」というとても大きな前提があるように思えます。ドラえもんが四次元ポケットから取り出す「どこでもドア」が極めてシンボリックなのは、空間と空間の移動について、こちらとあちらで空間的、地理的に連続しているという前提がないからでしょう。

 赤瀬川原平さんが中心となって提唱した『超芸術トマソン』という本の中に、「純粋階段」という、目的地を持たない上がって下がるだけのまるで遊具のような階段があります。この純粋階段のように、本来の機能を失った「純粋な何か」の状態を考えることは、この連載における「形式化される前の遊具」を考える時に、とても有効な考え方の1つになりそうです。

『超芸術トマソン』赤瀬川原平(筑摩書房)

扉を変えてみよう

 大人はドアの明確な機能を理解しています。時折、機嫌がわるい状態を表現するために「バタン!」と勢いよく閉めるこどはあっても、あちらとこちらを行き来したり、あちらとこちらを遮断するという明確な目的をは変わりません。ドアはこう使うものだ、という前提が共有されているので、大人は今回の事例である「ドアにぶら下がってスウィングする」ことをしようとは思いません。そのため、当然ですがドアそのものは、乗り物や遊具としてデザインされていません。

 ドアから向こうとこちらを行き来する機能を剥奪して、遊具として捉え直してみます。開け締めを永遠に楽しめる状況を考えてみると、下記のような問題をすぐに見つけることができます。

・人の体重の支えるための強度が足りない
・指や体を挟んでしまう「間」がある

遊具として成り立たせるために、まずは上記の問題を解決してみましょう。

 まずは、「こちらと向こうを隔てる」という機能をなくす

 まずは、「こちらと向こうを隔てる」という機能をなくすところからスタートしてみます。また、扉と枠の間に体や手をはさんでしまう原因の枠を無くし扉だけで永遠にくるくると廻ることができる形状を考えてみます。人が掴まることのできる取手と、足を乗せることのできるステップを両側に設置してみます。回転扉のようなデザインです。枠はなくなりましたが、地面との接地面に巻き込まれてしまう可能性がある点は改善の必要性あり。

 かつて公園で良く見かけた回転する遊具は、その危険性からその数が減少していっています。スピードや遠心力、飛んでいってしまう危険をはらんでいるからです。回転する遊具ではそのような事故を未然に防ぐデザインにする必要があります。

四方のフレームを残し横に伸びるバーを設置

 こちらはただの扉ではなく、向こう側の見通しを良くするために、四方のフレームを残し横に伸びるバーを作ったパターン。掴まるだけでなく鉄棒のように体を預けることができると、くるくる前回りをしながらドアに乗るなど楽しみ方も広がりそうですが、危険度もアップしてしまうのでデザインの調整が必要そうです。また、「ドア」というアイコニックで、日常的に知っている形状から少し離れてしまった印象もあります。そのため、扉そのものに立ち返って考え直すことにしました。扉には開き戸だけでなく、引き戸、折れ戸、上げ下げなど多くのバリエーションがあります。その中で遊具的に使えそうなものをピックアップしてみます。

ターザンのように行き来できるスライドドア

 こちらは開き戸ではなく、引き戸をヒントに横方向にスライドすることができる遊具。ターザンのように行き来することができます。折返しのためのストッパーの機能をどう解決するか、また指などを挟まないための機構を工夫する必要がありますね。

 引き戸の扉の形状を、見通しの確保と楽しみ方のバリエーションを増やすためにはしご状にしたデザイン。上り下りができるのと、掴まり方にバリエーションが生まれる。上部の扉を支えるレールに容易にアクセスできてしまうので指詰め防止対策などの検討が必要ですが、はしご以外の形状やアスペクト比を変えてみることで違うアイデアが生まれそう。

 こちらは折れ戸のように少し複雑な動きをする遊具。折れ戸の動きは経験値的に知っていなければ、比較的複雑な動き方をするので、遊具としては楽しそう。ただし複雑になればなるほど指や体をはさんでしまったり、危険な要素が増えてしまう。梯子と梯子のあいだに挟まってしまうのを回避しようと、横桟を互い違いにしてみたが、まだ細かい部分で解決すべき課題が多い。

「板につかまって遊ぶ」という遊び方

 扉からステレオタイプな機能を剥ぎ取って観察すると、「板状のものが様々な動きをする」というケーススタディに見えてきます。また、「板につかまって遊ぶ」という新しい形式の遊び方を作ることができそうです。

 今回のスタディでは既存のものから機能を剥ぎ取って遊具として使えそうな形状を探す、というアプローチから考えましたが、扉は様々なデザイナーやメーカーが建築において様々な形状をトライしてきた歴史があります。そのパターン化された分類を遊具に転用する、という方法でさらにアイデアを見つけることができそうです。

形式化に抗うアイディアの種として

みなさんのアイディアもお聞かせください

 最後に少しだけ遊具を考えることについての注意書きです。国土交通省の「都市公園における遊具の安全確保に関する指針」の内容に沿って、一般社団法人日本公園施設業協会のが発行する「遊具の安全に関する規準」というものがあります。そこでは既存の遊具がタイプ別に分類され、あらかじめ起こりうる事故を回避し安全に楽しむための基準が設けられています。

「遊具の安全に関する規準」
(一般社団法人日本公園施設業協会)

 この連載で提案している遊具は、基準を完全にクリアしているわけではありません。実際に設置可能な遊具をデザインしようとすると、素材や強度、事故防止、コストなどクリアすべき課題がとても多くあります。そのため、これらのアイデアは種のような状態です。これからブラッシュアップすることで得られる様々な気づきによって、プロジェクトのスタート時には思いもよらなかったアウトプットに発展することがあります。その過程をぜひ一緒にお楽しみください。

 今多くの公園では、ジャングルジム、滑り台、ブランコのような事故の少ない形式化した遊具/遊び方が、カタログオーダーのようにデザインされてしまっています。遊びをもっと自由に、根源的に発見できるような多様性にあふれた公園が増えることを願っています。