– 海洋冒険家 白石康次郎さんに会いに行こう –

葉山マリーナからクルーズ船に乗って話しをしよう

  • FAMILY
  • 2021.11.24 WED

2021年2月に単独無寄港無補給世界一周ヨットレース「Vendée Globe(ヴァンデ・グローブ)」をアジア勢として初めて完走した、海洋冒険家・白石康次郎さん。10月16日、その白石さんと子どもたちがヨットに乗りながら語り合うイベント「~海洋冒険家 白石康次郎さんに会いに行こう~」が、葉山マリーナにてHelly Hansen主催で開催されました。

地球一周してきた人に会いに行く

緊急事態宣言が明けて、久々のイベント開催となった今回、まだまだ人数は限られているものの、小学4年生から6年生の親子ペア14組28名が二部に分かれて参加してくれました。

「ヴァンデ・グローブ 2020-2021」は2020年11月8日にフランスのレ・サーブル=ドロンヌをスタート。たった一人で全長60フィート(約18.3m)の外洋レース艇に乗り、誰からの補給も受けず、どこの港にも寄らず、スタート地点へと戻ってくるというもの。総航行距離約44,996kmを約80日間かけて競う、完走さえ難しい過酷なレースです。今回、白石さんは94日間をかけて見事完走を果たしました。

「ヴァンデ・グローブ」がどんなレースだったのか、映像を見ながら白石さんがみんなに語りかけます。その後、今日の会場でもあるクルーズ船に移動。トークは出航後、船が動き出してから。

白石さんのトークショーのようなイベントを想像していた我々の予想は外れ、白石さんが船の甲板にドカっと座って、子どもたちからの質問にざっくばらんに答えていくという肩の力の抜けたスタイルに。子どもの緊張を解いていきたいという気持ちと白石さんのキャラクターが生きた、ラフでフレンドリーな、ともに時間を過ごすことを大切にしたイベントになりました。子どもたちは、世界一周の冒険にはどんなピンチが待ち受けていたのか、気になったようです。

外に出よう!

いざ、出航!

「せっかく船に乗ったんだから、中に入っていてもつまらないよ。外に出よう!」。船が出発し、白石さんは早速子どもたちを甲板に誘います。肌寒いくらいの風を受けながら、みなで風景を眺めながら、白石さんが環境問題についてさりげなく触れつつ海の生態について話し始めます。

「大島には熱帯魚がいっぱいいて、昔は冬には水温が低くて死んでしまっていたのが、最近は温暖化で水温が上がって死ななくなってる。珊瑚も千葉まで生えています。珊瑚が生えてきた一方で海藻がなくなっている。アワビやサザエも」

話しを聞きながら子どもたちは周りを走るヨットを眺めています。ヨットはなぜひっくり返っても元に戻るのかという疑問をふと口にすると、白石さんはすかさず答えてくれます。子どもたちは徐々に慣れ、白石さんがやってきた冒険について気になることがあるようです。

「世界一周で死んじゃった人もいるんですか?」

― 死にそうになったことはある?

「出航したらゴールまでずっと死にそうだよ。死ぬことがいちばん簡単だからね。クジラに衝突することもあるんだよ。最近は特に多い。クジラって人間と同じように息を止めて素潜りしているから、時々息を吸いに水面に上がってくるわけ。ヨットはエンジンがないから音がしないでしょ? だからクジラが気づかないんだよね。僕は3回ぶつかられたことがあるよ。1回はクジラの背中に乗ったんだよ。」

白石さんは、マスクをしている子どもたちにデッキに出ている時はマスクを外していいし、「船の上は自由に過ごして!」と声をかけます。

―― 世界一周で死んじゃった人もいるんですか?

「いっぱいいます。ヴァンデ・グローブでも何人か死んじゃってます。昔はGPSがなかったから船ごといなくなっちゃったとかもありました。でも、いまはそれはない。でも船から落ちちゃったら一人だから誰も助けてくれないわけ。だから落ちたら死んじゃうなー。」

―― スマホは?

「海の上はスマホの電波が届かないんだよ」

―― えー!

「ヘリコプターも届かない場所を走っている。飛行機は来れるけど水の上に着陸できないでしょ。じゃあどうするかというと、ヴァンデ・グローブのレースは33艇が走っているんだけど、もし落ちたり沈んだりしたら誰か他の船が助けてくれるんだよ。10年前の「ファイブ・オーシャン」というレースでは、僕も他の選手を助けました。もし僕が落ちてたら、同じように誰かが助けに来てくれる。選手同士が助け合う。もちろんSOSを出せば助けには来てくれるけど、救助の船が到着するまでに3日くらいはかかるかなー。怪我しても自分で糸で縫ったりもするからね」

―― 痛そう…

「大丈夫、いまはホッチキスみたいなのがあるから。簡単。」

―― 注射は?

「注射も持っていくね。点滴の練習もしたなー。」

子どもはやはり冒険につきもののピンチが気になる様子。

みんなも世界一周できるから大丈夫

「生まれてこの方ずっと楽しい。たぶんまだ幼稚園を卒園してないね」

「この中で世界一周したい人いる?」

―― したいけど船酔いする。

「僕と一緒だね。僕も船酔いするんだよ。でもいい薬があるから大丈夫。船酔いして吐いてもずっと船酔いしてるわけじゃないんだよね。船酔いした日はつらいけど、翌日から平気になって、3日目以降は船酔いしなくなる。最初が苦しいだけで、船が揺れてるのすら感じなくなるんだよ、当たり前過ぎて。みんなも世界一周できるから大丈夫」

これだけ船に乗っている白石さんでも船酔いするのかと、子どもたちは驚き、笑いながらも少し安心した様子。

―― 航海中のトイレはどうするんですか?

「トイレはないから、バケツにする。電気もガスも水道もない。電気は、船を走らせながらプロペラのスクリューを回していて作ってます。水は海水から作るんだよ。電気でポンプを動かして水を汲み上げ、フィルターを通して真水にするの。まずいけどね。それができるようになって昔みたいにタンクに水を入れてたくさん持っていかなくてもよくなったんだ。」

―― 世界一周の間、寝る時間はどうしてるんですか?

「1回の睡眠で1時間以上は寝ないかな。起きていろいろチェック、確認して、また寝てというのの繰り返して合計4時間くらい。でも、元々僕は昔からあんまり寝ないの。起きてる間ずっと楽しいから。僕を見てるとそんな感じしない? 生まれてこの方ずっと楽しい。たぶんまだ幼稚園を卒園してないね。」

“起きている間ずっと楽しい”とは、すごいパワーワード。好奇心のままに小さな世界で遊んでいた子どもの頃と変わらないと白石さんは言う。

「子どもの頃と今やっていることは何も変わらないからね。遊び場が地球になっただけだし、おもちゃが船になって大きくなっただけ」

「いつか大きくなったら、セイリングチームに入って僕の船に乗ってよ!」

いつか、風の力だけで世界一周へ

子どもたちとの話しが終わると、子どもたち以上に白石さんに聞いてみたかった人もきっといたのでしょう。待ってましたとばかりに今度はお父さん、お母さんが質問攻め。大人になっても好奇心は消えません。

風だけを動力源に進むヨットは、エネルギー問題が地球環境を左右する今にあってこれからもっと注目されるスポーツになっていってほしいと白石さんは言います。イベントに参加したお子さんが、いつか白石さんのヨットを受け継いで世界一周の旅に出るかもしれませんね。