好きなことを、やめなきゃいけない理由はない。

空海、山登り、ヲタ芸…。18歳、ある青年の「熱中の個人史」

  • FEATURE
  • 2021.10.20 WED

燃えるように、熱中する。「火」には、人の興味のエネルギーを表すイメージがあります。このインタビュー企画は「あなたが熱中してきたものの話を聞かせてください」という質問だけを携えて、高校生・中学生のおふたりに自分の人生を振り返ってもらうというもの。

興味関心の着火の仕方、そして炎(興味)の移ろい方は人それぞれです。そしてその違いの中に、個性と呼べるものがあるのかもしれません。大人と子どもの間にいるおふたりに(完全に大人になってしまう前に!)、自らの「熱中の個人史」を聞いてきました。

一人目は、18歳・高校3年生の丸原歩さんです。インタビューが始まると、次からつぎへと出てくるエピソードたち。3歳で出会った「空海」にはじまり、最近では「山登り」、そして「ヲタ芸」まで!落ち着いた語り口の奥に潜む「熱さ」を、ぜひ感じてみてください。


*このインタビューはオンラインで行われました。
*記事中の新たに撮った写真は「写ルンです」を使ってご本人に撮影していただきました。

空海に関してはヒーロー的なかっこよさではなくて、「こうなりたい」というか、「こういう人生面白そうだな」と思っていた

はじまりは、一冊の漫画から

熱中してきたこと、たぶんすごく多い方だと思います。ずっと関心が続いているものもあるし、対象は同じでも、興味の中身がだんだん変わってきているものもある。一番最初は仏像とかお寺とか、そういうものをかっこいいと思っていたんです。3歳のときにたまたま屋根裏部屋にあった空海の漫画を読んだことがきっかけで、お遍路さんや仏像にずいぶん傾倒していきました。

ーーご両親がこっそり漫画を仕込んでおいたのかな(笑)。

いや、そうじゃないみたいで。親戚の地元の漫画家が描いてるとかで、本当にたまたま持っていたみたいなんです。

ーーその影響で、3歳のときに自分から希望して、仏教系の幼稚園に入ったとか。

そうですね。あの頃はきっと、とにかく空海も仏像もお寺も、かっこいいと思ってたんです。

ーーどんなところが当時の歩さんに刺さったんでしょう。

自分でもよくわからないんですけど、空海に関しては決してヒーロー的なかっこよさではなくて、「こうなりたい」というか、「こういう人生面白そうだな」と思っていた気がします。「憧れ」に近いのかな。

そのあと他にも空海の本を読むうちに、彼が仏教の発展に人生を捧げたそのストイックさもかっこいいと思うようになりました。ああいう人間になりたいなって。めちゃめちゃ世の中に貢献できる人間に。

それから、仏像やお寺のようなものについては、当時はとにかく「かっこいい」ものとして魅力を感じていたけれど、いまは「うつくしい」ものとして感じるようになりました。普通に心の成長と言えるのかもしれないんですけど。小さい頃は感覚的なものだったのが、対象をじっくりとみることによって、技術的な面とか、歴史的な意味もわかるようになってきたから。

ーーそうすると、空海の足跡を辿るお遍路参りには……?

もちろん行きました。全部はさすがに巡礼できていないですけど、それでも半分以上は行ったと思います。おばあちゃんと一緒に。小学校3、4年の時だったと思います。その時はもう、かっこいいっていう感じではなくて、ただただお寺とか仏像とは技術的な意味で好きでした。いろんなお寺に行けたからとにかく嬉しかったです。写真や地図でしか見たことないようなお寺に実際にいくと、思いがけないロケーションにあったり。初めて知ったその仏様の特徴であったり。そういう発見がすごく面白かったのを覚えてます。

朝起きたら自分たちの目の前に昨日と同じ風景があるんですけど、やっぱりそれは同じじゃなくて、毎日ちょっとずつ違う。

山は自分を飽きさせない

あとは、山に登ったりとかですかね。僕が通っている学校では中1から高3まで毎年、遠足で山登りするんですよ。北アルプスとか、八ヶ岳とか、そういうところに行くんです。遠足っていうレベルじゃないような、3泊4日で2000m級の山にみんなで登るのが定番になってます。うちのお父さんも山が好きってのもあって、小さい頃から高尾山だとか群馬の方の山にはいっぱい行ってて、だから自然と僕も山は好きになっていきましたね。

コロナ禍になってしまって、この2年間はその遠足も中止になってるんですけど、僕は去年と一昨年に、夏休みを利用して白馬岳の山小屋に長期のバイトに入っていました。今年はお客さんとして普通に登っちゃったので、なんだかんだ、6年連続で登ったことになります。

ーー山登りの楽しさって、なんでしょうね。

もちろん頂上からみた景色が一番の醍醐味だと思うんですけど、僕は何を持っていくかみんなで考えるところから、準備や登山の過程も込みで結構楽しいですね。山で何を食べるか想像したり、コーヒー淹れて飲みたいなとか考えながら準備するし。それと、登っている途中にどういう草木が生えてるか。低いところから高いところに行くので、標高が上がるにつれて木とか花も変わっていくのは面白いですよ。山って絶対に固定した一つの景色を見せてくれないから。

特に山小屋のバイトしてて思ったことで、朝起きたら自分たちの目の前に昨日と同じ風景があるんですけど、やっぱりそれは同じじゃなくて、毎日ちょっとずつ違う。天気も違いますし、雲が出てるか出てないかとかもありますし、そういう意味でまったく僕たちを飽きさせない。

ーー変化のない状態が続くのは、苦手ですか。

変わらない方がいいものもあると思うんですけど、でも僕はずっと同じようなことが続いてくのがあんまり好きじゃないかもしれないですね。その点、山小屋にはお客様もスタッフも本当に色々な面白い人にいっぱい会えるんですよ。普通の人がいないし、スマホもろくに使えないからその場にいる人たちとよく話すんです。だから自然だけじゃなくて人との出会いという意味でも、常に刺激があるのは楽しい。


ーーまたやりたいですか、山小屋のバイト。

やりたいです。来年はやろうかなと思ってます。大学から夏休みが長くなると思うんで、1ヶ月ぐらい行けるんじゃないかな。実は僕、バイト2年目の時にカフェ部に配属されて、ドリップコーヒーを淹れる仕事をするなかで初めてコーヒーの味の違いを知ったんです。それからいまコーヒーにとてもハマってます。山の水と空気で飲むコーヒーは最高なんで、それも楽しみですね。

歴史がつくられていく瞬間じゃないですけど、そういう渦中に自分がいる感覚です

オタ芸じゃないです。ヲタ芸です

それからいま、一番熱中しているものがあって。中学入ってから始めたことなんですけど。「ヲタゲー」って知ってますか?

ーーなんだろう、わからないです。

わかんないですよね。サイリウムって、ライブとかで振る光る棒あるじゃないですか。あれを持って踊るんです。学校の人たちとチームにも入ってYouTubeの活動もしてるんですけど、とりあえず、ちょっと観てみます?

歩さんが振り付け・構成を担当した作品。撮影と編集も自分たちで行う。


よかったらチャンネル登録おねがいします(笑)。

ーー(笑)。しました!思ったより本格的で驚いた。

いわゆるオタクがやってるようなもののイメージがあったので最初はどうなんだろうと思ってたんですけど、実際に同級生がやっていて、YouTubeをおすすめしてくれたりとか、活動をみるうちに、何かこれは違うぞと思って。それで自分も始めてみたら思った以上に難しくて奥深かったので、いつのまにかハマっちゃいましたね。ライトの使い方ひとつで光の軌道も全然変わったりするので、そういうテクニックを研究するのも楽しいです。

ーーそのチームには「ヲタ芸」を指導できるような、詳しくて上手な人がいるんですか。

一応僕の先輩に、本当にトップ・オブ・トップのプロみたいなチームに所属してらっしゃる方がいて。ヲタ芸の普及についても考えているような、僕らの界隈の中では有名なチームに所属されてますね。TikTokのフォロワーも確か登録人数が60万人を超えてるようなチームです。なのでその先輩が一番スキルは高いんですけど、彼がチームに入る前から僕たちは活動してるので、基本的には独学です。その上で、何か悩んでることとか、細かいことを聞いて教えてもらうっていう感じですね。とにかく決まったテンプレがないんです。いままさに発展途上の分野なんで、スタイルもどんどん変わってきているし。最近はサイリウムダンスといって、新しいダンスのジャンルとしても認知され始めてるんですよ。

ーー黎明期ならではの面白さがあるんですね。

なんか歴史がつくられていく瞬間じゃないですけど、そういう渦中に自分がいる感覚ですね。なので「オタクがよくやってるやつでしょ」くらいの認識から「ちょっとこれは新しい何かだぞ」と思ってもらえるくらいのところまで持っていきたいですね。個人的には、サイリウムダンスってちょっと言いにくいので、「ヲタ芸」を押し上げていきたいなと。あ、これ僕たちの中でとても大事にしてるんですけど、記事にするときも「オタ芸」じゃなくて「ヲタ芸」でお願いします。

ーーそのふたつの違いは。

「オタ芸」はいわゆるオタクが、アイドルとかを応援するためにやっているもので、僕たちのようにそれ自体がパフォーマンスとしてやっているものは「ヲタ芸」という感じですね。そこは結構、ちゃんと使い分けてるので。僕たちは、「ヲタ芸」をやってます。

諦めることと、やめることは違う

ーー歩さんは小さい頃から本当にいろんなことに関心を持って、自分で考えて行動し、そして熱中してきたと思うんですけど、いま振り返ってみてその心の灯火を絶やさないために大切なことって、何だと思いますか。

興味持つと、とりあえずやってみたくなるタチなんで、そのときに何でもチャレンジさせてくれたのはやっぱり親じゃないですか。幼少期から今までやりたいことを否定されたことはあんまりなくて、そこはとても感謝していますね。あとは僕、出会いに恵まれているんで、友だちも先生もみんなが応援してくれました。

ーー出会いの運の良さも味方につけている。

でもやっぱり、最後は自分自身の問題だとも思うんです。「これ好きだ!」っていう気持ちの存在は大きいかなと思うんですよね。好きなものをやめなきゃいけない理由って、ないよねって。

ーー本当にそうですね。

何かの選択を諦めなきゃいけないこともあると思うんです。でもそれって別に、好きなことをやめる理由にはならないというか。それこそ僕、進路を決めるときに最初美術系の大学を志望してたんですけど、なんかよく考えたときに、別に絵を描くとか彫刻するとかそういうことでお金を稼いでいきたいわけじゃないなと気づいて。仕事にすることで、辛くてもやんなきゃいけない。それがどうしても耐えられなかったんです。多少嫌でも続けられるものがやっぱり仕事になるのかなって、いまの段階では思っているので。だから僕は美術の道を仕事としては諦めました。けれど、趣味として、生活のなかで何かを表現していくことは諦める必要ない。今のところ、そういう考えで生きてます。