THE NORTH FACE MOUNTAIN

LAYERING THEORIES #5
2022 DECEMBER

“HYBRID SHEERICE JACKET & BIB” IMPRESSION

雪山に登るにはプロテクション性の高いアウターウエアが欠かせません。降雪による濡れ、強風をシャットアウトし、たとえ吹雪のなかでもウエア内の濡れを防ぎ、行動中も着続けられる快適なシェル。新開発のアルパインクライミング向けのジャケット&ビブを、ふたりのクライマーがリアルな使用感をレポートします。

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雪山に登るにはプロテクション性の高いアウターウエアが欠かせません。降雪による濡れ、強風をシャットアウトし、たとえ吹雪のなかでもウエア内の濡れを防ぎ、行動中も着続けられる快適なシェル。新開発のアルパインクライミング向けのジャケット&ビブを、ふたりのクライマーがリアルな使用感をレポートします。

■雪山に登るにはプロテクション性の高いアウターウエアが欠かせない

現在、世界で入手できる防水透湿素材のなかで、もっとも高いプロテクション性能を発揮するのは、やはりゴアテックスプロ。群を抜く高い耐水圧と防風性は、降り続く湿雪や胸までのラッセル時の濡れを防ぎ、アルパインエリアの強風や暴風雪から身を守ります。また、耐久性の高さは数あるゴアテックス素材のなかでもピカ一です。

そんなゴアテックスプロは、昨年新たなスペックに生まれ変わり、特徴の異なる3タイプの素材が用意されています。今季登場したアルパイン向けのシェル、HYBRID SHEERICE JACKET & BIBは、そのなかから2タイプのシェル素材を適材適所に使い分けた文字通り、ハイブリッドなアウターウエアです。

メイン素材には軽量性とプロテクション性、しなやかさを兼ね備えた30デニールのゴアテックスプロ。ジャケットのフードと肩周り、上腕の外側と、ビブのヒップと膝回りには40デニールのストレッチゴアテックスプロ。プロテクション性を全面に備えつつ、可動域にストレッチ素材を採用することで、アックスを振るうクライミングや、深いラッセルでの足上げでのストレスを軽減してくれます。

ジャケットではヘルメットの動きに追随してくれるフードや、使いやすく効果的に配置されたベンチレーター、グローブとの相性のいいカフ。ビブでは小物の収まりのいいメッシュポケット、バックルで取り外せるショルダーベルト、トイレに便利なレインボーファスナー、オーバーゲイターの必要性がないインナーゲイター付きの裾部など、完成度の高い細部の作りは、長年の山岳ウエア作りで培ってきた技術と、クライマーやガイドからの現場感あふれたフィードバックが生かされています。

■厳冬期黒部横断を熟知した
上田幸雄さんのインプレッション

富山を拠点に山岳ガイドを続ける上田幸雄さんは、厳冬期黒部横断で知られるハードコアなアルパインクライマーです。切り立った尾根と深い峡谷に囲まれた黒部の、真冬の厳しさは世界屈指ともいわれています。その豪雪と吹雪のなかで毎年10日以上行動を続ける上田さんは、もっとも過酷な冬山を体の芯から理解しています。

「HYBRID SHEERICE JACKET & BIBは、昨秋にサンプルをお預かりして、12月から3月までトータルで30日くらい着用しました。1泊や2泊の冬山がメインで、1月はほぼ毎週、黒部横断に向けたプレ山行です。そして2月は黒部横断。3月以降で気温が上がるとビブは温度調整が難しいので、パンツタイプのシェルを併用していました。

黒部横断にはいくつものルートがありますが、昨シーズンの私たちは長野県側の扇沢から後立山連峰の岩小屋沢岳に登り、そこから十字峡まで下降して黒部川のスノーブリッジを渡り、ガンドウ尾根を仙人池まで登り、再び下降して八ツ峰に取りつく。最後は剱岳に登頂して早月尾根を下る。例年なら短くて10日くらい、長くて16日間だったのですが、昨年は17日間掛かりました。今までの私の登山のなかで最長です。

当然、悪天候が毎日のように続く真冬の黒部では、停滞する日も多くなります。そのなかでも、ここはがんばって行動しておきたい、というタイミングもあります。そんな状況下で行動できるのは、信頼できるウエアがあるから。逆にいえば、ウエアや装備を信頼しているからこそ、行動する自信が生まれるのだと思います。

冬山でのレイヤリングは、シェルの下にはEXPEDITION GRID FLEECE HOODIEを着て、ベースレイヤーは化繊の中厚タイプ。それが基本で、高度が上がって運動量が少なくなると、シェルとの間にVENTRIXのベストを着ます。

このウエアがこれまでのアルパイン用シェルと大きく違うのは、やはり、ストレッチ素材をミックスしたことによる動きの良さです。ジャケットの肩や腕の動き、ビブは足上げが明らかに良くなりました。生地の厚みも安心感のあるものです。

ジャケットもビブも細部までよく考えられていると感じます。たとえば、ハーネスやバックパックのウエストベルトに干渉するジャケットのハンドウォーマーポケットのように、クライマー的には必要のない機能もあります。しかし逆に考えれば、クライマーではない人にも使いやすいようにできている。それでいて、クライミングでマイナスに左右する機能でもありません。

ビブの良いところは、保温力と雪が浸入しないこと。胸までのラッセルでも安心感がありますし、やはり違うなと。また、腰回りがすっきりするので、動きに関してはビブのほうがはるかに動きやすくて楽です。トータル的にプラス要素が多いですね。

冬季登攀がメインのアルパインクライマーには信頼のシェルであり、それでいて、誰もが使いやすいジャケットとビブだと思います。クライマーに限らず、冬山を目指す登山者にもお勧めですし、八ヶ岳から海外登山まで、これ1着で間に合うウエアだと思います。

■ウィークエンドクライマー
奥平将司さんのインプレッション

石井スポーツ新宿西口店でTHE NORTH FACEコーナーを担当する奥平将司さんは現在33歳。18歳でハイキングやボルダリングを始め、その後、アウトドア専門学校の山岳プロ学科で本格的な登山を学び、現在は無雪期はフリークライミング、積雪期はフリーとアルパインと、月のほとんどの休みを山に費やしています。

私は身長161cm、体重61kgで、どちらかというと、横幅のあるガッチリした体型です。そのため、以前のシェルだとSかMかとサイズで迷うところでした。体型的にはSサイズなのですが、肩幅がそれなりにあるため、肩周りが窮屈になりがちでした。

それが、HYBRID SHEERICE JACKETでは、サイズアップを迷うことなくSサイズでジャストでした。これは明らかに、肩から上腕にかけて使われているストレッチのゴアテックスプロ素材の効果です。

その効果は、ビブでも大いに体感できます。膝回りとヒップがストレッチ素材のため、ラッセルでの足上げがすごくいい。私は腰回りが大きいほうなので、今までは脚を上げたときに窮屈感があったんです。それがヒップの生地がよく伸びてくれるので足上げがかなり楽になりました。

レイヤリングとしては、シェルの下のミッドレイヤーはEXPEDITION GRID FLEECE HOODIEで、ベースレイヤーはEXPEDITION DRY DOT ZIP HIGHです。長い休みが少なく、1泊2日や日帰りで無理することが多いので、汗をかく状況が多いんです。そのため、乾きやすい化繊タイプを使っています。また、そこまで汗をかかないテント泊縦走などではメリノウールを着ています。

冬山ではけっこう最初からシェルを着ることが多いです。ラッセルでも、ほぼベンチレーター全開のままで行動しています。八ヶ岳のような樹林帯のアプローチではフリースで動き、赤岳鉱泉あたりでシェルとハーネス、装備を身につけて取り付きに向かいます。

ジャケット両脇のハンドウォーマーポケットは登攀中は使えませんが、登攀前後やベースキャンプなどでハーネスを外している状況で意外とよく使っています。逆にビブにハンドウォーマーがないので、手の置き場としてありがたいです。

ビブのいいところは、皆さんそうだと思いますが、保温性とラッセルのときに腰回りから雪が入ってこないこと。このHYBRID SHEERICE BIBの場合、レインボウファスナーを兼ねたベンチレーションの使い勝手が気に入っています。

たとえば、フルジップタイプのアルパインパンツでは、ファスナーを閉めた状態では腰と裾にしかスライダーが位置しないので、ハーネスを付けたり、バックパックを背負ったままでは、ファスナーを開けられない製品が多かったんです。でも、このビブはスライダーが膝上位置にあるので、歩きながら開け閉めすることができます。

もちろんトイレのときもビブを脱がずにできるので便利です。恥ずかしい話ですが、雪山の環境下でお尻が丸出しになるわけじゃないですか。でも、前側はシェルで覆われている状態でコトを済ませられるので、微妙に保温されている感があって、私は好きですね。

LAYERING ITEMS IN THIS ARTICLE この記事のレイヤリングアイテム

  • Base-layer(上田幸雄さん)

    L/S HOT ZIP UP

  • Mid-Layer(上田幸雄さん)

    EXPEDITION GRID FLEECE HOODIE

  • Mid-Layer(上田幸雄さん)

    VENTRIX VEST

  • Shell Jacket(上田幸雄さん)

    HYBRID SHEERICE JACKET

  • Shell Pant(上田幸雄さん)

    HYBRID SHEERICE BIB

  • Belay Jacket(上田幸雄さん)

    AGLOW DOUBLEWALL JACKET

  • Base-layer(奥平将司さん)

    EXPEDITION DRY DOT ZIP HIGH

  • Mid-Layer(奥平将司さん)

    EXPEDITION GRID FLEECE HOODIE

  • Shell Jacket(奥平将司さん)

    HYBRID SHEERICE JACKET

  • Shell Pant(奥平将司さん)

    HYBRID SHEERICE BIB

  • Belay Jacket(奥平将司さん)

    TRANGO PARKA

寺倉 力
CHIKARA TERAKURA

ライター+編集者。高校時代に登山に目覚め、大学時代は社会人山岳会でアルパインクライミングに没頭。現在、編集長としてバックカントリーフリーライドマガジン「Fall Line」を手がけつつ、フリーランスとして各メディアで活動中。登山誌「PEAKS」では10年以上人物インタビュー連載を続けている。

2021.10.20
WRITER : CHIKARA TERAKURA
PHOTOGRAPHER : -

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