THE NORTH FACE MOUNTAIN

LAYERING THEORIES #2
2022 JANUARY

“PANMAH JACKET” IMPRESSION

ゴアテックス3レイヤーのシェルのなかで、最も軽く、薄く、やわらかな着心地が特徴的な「PANMAH JACKET」。このウエア特有の優れた機能性に着目している二人のアスリートの使用感を通して、これまでの防水透湿シェルとなにがどう違うのかを解明していきます。

“PANMAH JACKET” IMPRESSION
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ゴアテックス3レイヤーのシェルのなかで、最も軽く、薄く、やわらかな着心地が特徴的な「PANMAH JACKET」。このウエア特有の優れた機能性に着目している二人のアスリートの使用感を通して、これまでの防水透湿シェルとなにがどう違うのかを解明していきます。

PANMAH JACKETは、もともと海外遠征用レインギアとして開発されました。本格的な登山活動に入ればアルパインクライミング用シェルの出番ですが、ベースキャンプまでの天候不順な氷河の長いアプローチには、軽量でコンパクトに収納できる薄手ジャケットが使いやすい。

また、雨が降らなければバックパックに入れたまま行動するため、できるだけ軽く、出し入れしやすくしたい。けれども、山岳地帯のあらゆる天気に備えるには、やはり最も信頼性の高いゴアテックス3レイヤーをメイン素材に使いたい。そんな考えからデザインされました。

最大の特長は、15デニールという薄手のGORE-TEX Active C-Knit Backerにあります。これはゴアテックスプロ素材の裏地に使われるゴアマイクログリッドバッカーをあえて表地として使うことで、3レイヤーのゴアテックスながら、非常に軽くてしなやかに仕上げています。

また、この表地は裏地用に織られた低密度仕様であり、しやなかさと透湿性の高さに定評あるCニットバッカーの裏地と相まって、生地全体の透湿性も物理的にアップさせています。

レインギアとしての使用に絞り込んでいるため、細部もアルパインシェルよりもシンプルなつくりです。透湿性が高いゆえに脇下のベンチレーターは省かれ、フードの調整もドローコードとギャザーのシンプルな仕様にするなど、徹底して軽量化が図られています。

こうして完成したPANMAH JACKETは、当初の目的だった海外遠征の長いアプローチはもちろん、その透湿性の高さと軽量性は、ハードに行動するトレイルランナーから、オールシーズのトレッキング愛好者まで幅広く愛用されています。

用途や目的に応じてアウターシェルがますます細分化するなかにあって、軽量でコンパクト性の高いゴアテックス3レイヤージャケットという、ありそうでなかったレインギアの使い勝手は、使う人によってさまざまな可能性を秘めているといえます。

なお、モデル名の由来になった「PANMAH」は、このジャケット誕生のきっかけとなったTHE NORTH FACEアスリートが計画中の遠征先であるパキスタンに実在する「パンマー氷河」に由来しています。

「とにかくやわらかくて、小さくなるから出番が多い」と言う登山ガイドの渡辺佐智さんは、昨秋以来、最も使用頻度が高いウエアだったそうです。

アドベンチャーレースの第一人者である田中正人さんは、国内トレーニングでの使用という前提付きですが、「レースでの使用にも耐えられるという感触を得た」と言います。

彼らの豊富な経験則から導き出されるインプレッションには注目です。

——トレッキングをガイドする

渡辺佐智さんのインプレッション

ガイドの渡辺佐智さんは、春から秋は登山ガイド、冬から春はバックカントリーガイドとして、四季を通して日本の山で活動を続けています。

なかでも登山ガイドとしてこだわっているのは、登山を始めて間もない人や、なにかと不安を抱える若い女性登山者の支えになること。そのため、講習会やメディアを通しての活動も少なくありません。

山行はトレッキング主体で、人気の山というよりは、山登りの楽しみ方を一歩ずつ確かめながら登れるような山を選び、初心者目線・女性目線のガイディングを心がけています。

PANMAH JACKETは発売された昨年夏以来、よく使ってきました。とにかく、やわらかくて、小さくなるじゃないですか。それが使いやすくて出番が増える理由なのかなって思います。

春から秋のトレッキングの場合、ゴアテックスのシェルって、雨じゃなければ基本的にバックパックに入ったままで行動していますよね。持って行くけど、着ないで持ち帰ることも多い。小さく折りたたんで持って行けるPANMAH JACKETは、その点でもストレスがありません。たたんだときの厚みの重みもぜんぜん違うなという印象です。

山では基本的にはウインドシェルとして使っていることが多いです。風が吹いたら、サッと取りだしてすぐに着る。バックパックの取り出しやすいところに入れておけるから便利ですよね。

私の場合、小さくたたむというよりは、なるべく平たくたたんで薄くしておきます。バックパックにもよりますが、前面に大型ポケットがある場合はそこに滑り込ませ、ない場合は、雨蓋で挟んで持って行きます。メインコンパートメントに収めなくていいので、出し入れが手軽です。

表地のマイクログリッドバッカーの効果か、透湿性が上がっていることが実感できます。そのため、着たまま行動しても、ほかのゴアテックスのシェルに比べるとストレスがない。

どちらかといえば、男性よりも女性のほうが温度調整に敏感だと思うんですよ。とくに登山をはじめたばかりの女性は、汗をかくことに対してストレスに感じます。その点、透湿性の高くて温度調整しやすいPANMAH JACKETは登山に慣れていない女性にもお勧めです。

細かい部分でいえば、ナポレオンポケット、つまり、2つ並んだ胸のポケットが使いやすかったです。バックパックを背負ったままで出し入れすやすく、私はいつもプリントした地形図を薄いビニール袋にくるんで、折りたたんで入れています。

ひとつ心配ごとがあるとしたら、表生地がやわらかいので、ヤブ漕ぎや、岩と擦れやすい岩稜歩きの場合でしょうか。ただし、私のガイド山行はトレッキングが中心なので、その点も心配はありません。

細かいことをいえば、このPANMAH JACKETの裏地はCニットバッカーですが、マイクログリッドバッカーの裏地のほうが乾きは早いので、1日中雨のなかを歩かなければいけない状況のレインウエアとしては、CLIMB LIGHT JACKETを選択します。とはいえ、1年を通してみれば、PANMAH JACKETのほうがはるかに出番は多い。

4月以降のトレッキングガイドでは、ベースレイヤーにL/S DRY CREWを着て、その上にはL/S FLASHDRY 3D ZIP UP。または吸湿速乾性のシャツを着ることも多いです。ボトムはVERB LIGHT SLIM PANTです。

肌寒い日は、その上にVENTRIX VESTを重ね着していました。立ち襟のない袖なしで体温調整しやすく、暑くも寒くもないから、歩きながら着ていてもちょうどいい。秋のトレッキングではよく着ていました。

昨年全体を通してみると、このVENTRIX VESTと、PANMAH JACKETの出番は多かったですね。

シェルにはある程度の丈夫さが必要なのですが、長く行動していると硬いジャケットはやはり肩が凝ります。やわらなかシェルを使っていると、だんだん硬さに対して敏感になっていくのかもしれません。

その点でもPANMAH JACKETのようにやわらかで軽い防水シェルがあると、昔の防水シェルを持っていこうと思わなくなりますね。

登山を続けていくには、めんどくさいこと、手間のかかることが多いなかで、できるだけ自分にストレスをかけない状態をどう保つかが重要になってくると思います。それはその日だけじゃなく、次の登山や、その次もずっと。その点、軽く、小さく、やわらかいというのは大きなメリット。その恩恵を私自身も受けています。

このPANMAH JACKETの良さって、ウェブサイトやオンラインショップではなかなか伝わりにくいだろうなって思います。たとえば、同じくレインウエアやウインドシェルとして使うゴアテックスCLIMB LIGHT JACKETとなにがどう違うのかとか。

ちょっとした違いなんですが、それは実際にシーズンを通して山で使ってみて初めて、大きく違うと実感できるもの。

ウエアが機能的になって、ますます細分化しているから、ドンピシャなものに出合うことができれば快適な登山が約束されるけど、実際に手にとって見ないとわかりにくい。その点でも専門店に足を運んで、いろいろと試してみてほしいと思います。

——プロアドベンチャーレーサー

田中正人さんのインプレッション

アドベンチャーレーサーの第一人者として知られる田中正人さんは、日本で唯一、プロとして国際的なアドベンチャーレース参戦を続けるチームイーストウインドを、キャプテンとして22年間率いてきました。

いったんスタートしたらテントはおろか簡易的なシェルターすら持たず、着の身着のままで1週間から10日前後を駆け抜けるという過酷なアドベンチャーレース。それだけに、身にまとうウエアの性能は、レースの成否からメンバーの安全管理にまで大きく影響するといいます。

アドベンチャーレースのシーズンは基本的に冬ではありませんが、それでも海外のレースでは寒い地方で開催されることが多く、たとえばパタゴニアのレースは南米チリの南端なので夏でも寒く、日中は10℃前後、夜には山で氷点下になることもあります。

そんな条件下でも徒渉を強いられるんですよ。それも状況によっては歩いて川を渡れず、泳がなければならないこともある。全身がずぶ濡れになりますが、そのまま着替えることなく、アウターシェルを着て行動しながら体温で乾かす。レース中はそれを繰り返します。

海外のレースでは1週間から、長いと10日前後。その間、基本的に寝るときも着の身着のまま。持っているものを全部着て、風を避けてゴロ寝です。大会によってはシュラフやテントの携行が義務づけられることがありますが、規定がなければ、重量を減らすためにテントはおろかツエルトすら持って行きません。

したがって、本当に高性能のウエアを身につけないと、レース続行は無理ですし、アウターシェルの性能には特に敏感になります。

アウターシェルで最も重視するのが透湿性です。トレッキングと比べると運動量が多くなるので汗をかきやすく、困るのは雨が降れば、着ても脱いでも濡れるわけです。それだけに、少しでも湿気の抜けがいいジャケットがほしい。

同時に表面の撥水性が重要です。雨で生地表面に濡れが広がった状態ではウエア内の蒸気が抜けてくれないので、撥水性ができるだけ長く効果を発揮してくれることが前提です。

そして、もちろん耐風性。体が濡れて寒いときに、完全に風をブロックして体を保護する役割。場合によっては吹きさらしのなか、岩陰に隠れて、一晩を耐え抜かなきゃいけないことだってあります。

行動中はアウターシェルを着たままのことが多いです。パタゴニアのレースではスタートからゴールまで、ほぼ着っぱなし。シェルの下は、ベースレイヤーにS/S 100 DRY CREWを着て、その上にL/S FLASHDRY 3D ZIP UP。下はC3 fitのサポートタイツを穿いて、寒いときはその上にシェルパンツのCLIMB LIGHT ZIP PANTSを重ねます。

防寒着としてEXPEDITION GRID FLEECE HOODIEのような薄手のフリース系か、できるだけ薄いインサレーションジャケットを持って行きますが、行動中は運動量が多いので、よほどのことがない限り着ることはありません。着るのは寝るときや、停滞しなきゃいけないときです。

シェルは、これまではゴアテックスのCLIMB LIGHT JACKETを使ってきました。レースでの使用という条件のなかで、防水性と透湿性、防風性、耐久性において私たちの期待に応えてくれるのは、現状ではゴアテックスしか考えられません。

ここ2年ほどはコロナ禍によって世界大会も開催されず、私たちも国内でのトレーニングを強いられてきました。そのなかで、昨秋からはPANMAH JACKETをテストがてら使用してきました。

CLIMB LIGHT JACKETと比べると透湿性の良さを感じます。定量的な数値はわかりませんが、肌感覚としては明らかに良くなっています。

着心地は軽くてしなやかですが、生地は意外としっかりしていて安心感もあるし、耐風性も問題ない。シェルの着っぱなしの状態が多いレース中は、やはり、透湿性の高さと軽い着心地は強みですね。

もともと裏地に使っていた素材を、あえて表地に使っているということで、強度や耐久性が気になるところですが、すでにかなり使い込んでいるトレイルランナーに意見を聞いてみたら、バックパックのショルダーベルトが擦れる部分なども問題なく、裏地だから弱いというイメージはそこまでないといいます。

ハードに使い込めば多少ピンホール的な穴は開くかもしれませんが、それよりも、従来よりも透湿性がアップしているという効果のほうがアドベンチャーレースには重要です。そこに期待したいですね。

本格的なフィールドで1週間近く行動する、いう段階まで使い込んでいるわけではありませんが、現状でも十分にレースの使用にも耐えられるという感触は得ています。

今年の5月からは海外レース出場を再開する予定です。そこでぜひ使っていきたいジャケットだと考えています。

LAYERING ITEMS IN THIS ARTICLE この記事のレイヤリングアイテム

  • Base-layer(渡辺佐智さん)

    L/S DRY CREW

  • Mid-Layer(渡辺佐智さん)

    L/S FLASHDRY 3D ZIP UP

  • Mid-Layer(渡辺佐智さん)

    VENTRIX VEST

  • Mid-Layer(渡辺佐智さん)

    VERB LIGHT SLIM PANT

  • Shell Jacket(渡辺佐智さん)

    PANMAH JACKET

  • Shell Pant(渡辺佐智さん)

    CLIMB LIGHT ZIP PANTS

  • Base-layer(田中正人さん)

    S/S 100 DRY CREW

  • Mid-layer(田中正人さん)

    L/S FLASHDRY 3D ZIP UP

  • Shell Jacket(田中正人さん)

    CLIMB LIGHT JACKET

  • Shell Jacket(田中正人さん)

    PANMAH JACKET

  • Shell Pant(田中正人さん)

    CLIMB LIGHT ZIP PANTS

  • In a backpack(田中正人さん)

    EXPEDITION GRID FLEECE

寺倉 力
CHIKARA TERAKURA

ライター+編集者。高校時代に登山に目覚め、大学時代は社会人山岳会でアルパインクライミングに没頭。現在、編集長としてバックカントリーフリーライドマガジン「Fall Line」を手がけつつ、フリーランスとして各メディアで活動中。登山誌「PEAKS」では10年以上人物インタビュー連載を続けている。

2021.10.20
WRITER : CHIKARA TERAKURA
PHOTOGRAPHER : -

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