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100年後の地球を守るためには「自分自身を教育する」必要がある

環境問題に対して精力的に取り組むトレイルランナー、ステファニー・ハウ。一方で彼女は、多分栄養学・運動科学の博士号を持つ栄養士としての顔も持つ。「地球は私たちにとって唯一無二のホームであり、私たちが愛するこの場所を次の世代のために守るためにも、私たちは『変化のチャンス』を逃してはいけません」そう語るステファニーは、アスリートとして、そして母として、次世代にどのような地球を残したいのか。どのようにアクションを起こすことで、美しい自然を残すことができると考えているのか。「学びと対話」をキーワードに話を聞いた。

Protect Our Winters(プロスノーボーダーであるジェレミー・ジョーンズが立ち上げた気候変動に対する取り組みを行う非営利団体。以下POW)のアンバサダーとしてあなたが行っていることは、未来の世代のために環境を保護すること。 POWに参加するに至った理由は何ですか?

POWに参加することになったのは、気候の変化がアウトドアスポーツの楽しみ方に影響を与え始めていることに気づいたことがきっかけです。

「スポーツを楽しむ場所が気候変動によって消えてしまわないように、私たちにできることはないのか?政策をはじめとしたあらゆる物事が私たちの地球にどのような影響を与えているのかについて、もっと積極的に関り変化を起こすことができないのか?」

ジェレミーはそんな疑問を抱きました。そこで彼は、気候変動が私たちの生活にどのような影響を及ぼすのかという認識を広めるために、POWを始めたのです。

日々の生活の中でできること、例えば、プラスチックの消費量を減らしたり、車の運転を控えたり、持続可能な製品を選んだりすることも大切です。しかし、実際には地球を守るための政策を打ち出すことこそが重要なのです。POWはアスリートに限らず、アウトドアを愛する人たちに、地球のためのアドボケイト(擁護者)になる手段を教えることを目的とした団体です。地元の政府機関に働きかけたり、全国規模でロビー活動を行ったり、小規模な活動を支援することなど、関わり方はさまざま。そして、その小さな波紋がより大きな波となり、変化へとつながっていくことをPOWは支援しているのです。

POWの活動は、まさに私が参加したいと思っていたような理想の団体でした。というのも、私がそれまで個人的に行っていた活動では、現在社会が直面している問題に対して十分な影響を与えられず、行き詰まりを感じていたからです。

地球環境を考慮する法案を支持するように手紙を送ったり、代表者に電話したりすること。そんなPOWのキャンペーンに参加することを通して、私は気候に関する情報を人々に共有したり、団結力を産むためにイベントをオーガナイズしたりすることで、同じ意思を持った人々とつながることができる機会を得られました。

POWに参加する前から、環境に関するアドボカシー(意思表明)活動は行っていたのですか?

地元の選挙区で公聴会を開いたり、気候変動について話したり、アース・デイには地域の清掃活動などに参加していました。一方で、より大きな変化には結びついていないことに歯痒さを感じていました。どうすればもっと変化をもたらすことができるのか、といったことを考え続けていて悶々としていたときにPOWに参加するようになり、より具体的な変化を起こす機会を得られるようになりました。

POWの活動に参加するには、支持している政党は関係ないことのも大きなポイントだと思います。普段はどのような政治家を支持しているか、どのような価値観の持ち主かは問題ではなく、ただ私たちの故郷である地球を守りたい気持ちがあればいいのです。アウトドアが好きな方、冬を守りたい方にはぴったりの取り組みだと思います。

POWに参加して、どのようなポジティブな変化が起きましたか?

個人的には、多くの人と繋がれるプラットフォームを見つけることでどのようなステップを踏めばいいのか知ることができて、ひとりで活動に取り組むよりもずっと楽になりました。

例えば、サステナビリティや環境保護に取り組んでいる銀行だけに資産を預けることが実はとても効果的だということを、POWに参加した最初の年に知り、とても驚きました。自分にできる活動を、POWを通して知ることで、コツコツとリサイクルなどをするだけでなく、もっと大きな影響を及ぼすことが可能になるのです。

自分の子どもや次の世代に育ってほしい社会とはどのようなものでしょうか?そしてあなたが現在推進している変化とは何ですか?

直近で注力していたのは去年の大統領選挙でしたが、私たちにとって良い結果になってよかったです。というのも、今回の結果を経て、今後4年間で環境保護を目的とした法案や法律を通過させることが可能になったからです。選挙の結果、パリ協定への参加など、地球にとってプラスな活動ができるようになりました。

しかし、実際はここからが本番です。ここまで来ればもう大丈夫、というわけにはいかない。やっとアクションを起こせる素地ができたに過ぎないのです。どうすれば脱炭素社会を目指し、カーボンニュートラルになれるだろうか?どうやってプラスチックの使用量やゴミの排出を減らせるのか?持続可能なエネルギー源に切り替えるにはどうすればいいのか?いまはそのための具体的な作業が必要なのです。

次の課題は、これらを実現するために私たちの世代が大きな役割を担っていることを人々に認識してもらうことだと思います。大変なこともあるし、実現不可能に感じることもあるかもしれない。そのときには普段の生活から抜け出して、例えば「どうすれば太陽光や風力発電だけで町をつくれるか」など、既成概念にとらわれない考えを持つことが必要になります。政策を変えるためにも、人々の考えを変えるためにも、緊張感のある議論が生まれる必要があるのです。

いまはまだスタートラインに立ったばかりで、これからが本番だと。それを聞いて、改めて私たちは知識をつけること、つまり自分自身を教育することがとても重要だと感じました。

まずは、記事や本を読んで自分を啓発することから始めるのをおすすめします。これは私の課題のひとつでもありますが、例えばアメリカでは3月に「Crush it for climate」という、POWのアライアンスメンバー全員がチャレンジしているプロジェクトがあります。POWはアウトドアでのチャレンジもあれば、教育的なチャレンジも開催しており、私の場合は、3月中は毎週、気候変動やアクティビズム、政策に関する記事を読み、それを要約してシェアするという取り組みをしています。

いろいろな人に議論を届けることで、みんなで多くのことを学ぶきっかけになりますし、さまざまな意見を知ることができる素晴らしい方法だと思います。賛否両論について知ることは、教養を身につけるための最良の方法。そうでないと、本当の意味での教養を身につけることはできませんからね。

100年後、200年後の未来を想像したり、心配したりするのは難しいかもしれませんが、本当に未来のことを考え、気候変動にコミットするためには、私たち全員がやらなければならないことです。 息子さんが生まれてから、環境に対する考えは変わりましたか?

母親になったことがきっかけで、自分だけでなく、より大きな目で地球の素晴らしさに気づくことができましたし、このことを他の人々にも伝えたいと思うようになりました。環境問題に対して個人的な思いが強くなりましたし、保護活動にさらに情熱を注ぐようになりましたね。

私はこれまで世界中を旅するなかで、たくさんの素晴らしい自然の美しさに触れてきました。その美しさを目の当たりにすると「どうして自然を守りたいと思わないのだろうか、環境のために正しいことをしたいと思わないのはなんでだろう」と感じます。

だから、まずはより多くの人が外に出て自然を楽しむことが大切です。遠出をする必要はありません。自宅の庭にある木を見たり、近所の公園や地元のアウトドアエリアに行ったりなど、ゆっくりと時間をかけてその場にいること。その過程で、自然とは本当に特別なものであり、守るべきものだという気持ちになると思います。

日本では、スポーツ選手は自分のスポーツに集中すべきであり、それ以外のことを語るべきではないという考え方もまだまだ根強いです。ステファニーさんはそのような経験をしたことはありますか?また、政治の環境的な側面や、選挙についてどう考えているかもお聞きかせください。

ありますね。「ここはあなたの居場所ではない」とか、「同意できないなら笑顔で黙っていなさい」と批判する人は必ずいます。

しかし、自分にとって大切なことについて話さないのは大きな損。だから私は、何を言われようと、アスリートとしての私を無視されようと、リスクを負うことを厭いません。なぜなら、私はこれらのことについて話し続ける覚悟があるからです。特に女性で率直な発言をすると反発を受けることも多いですが、私はそれを恐れません。ある意味、その反発が私の声をさらに大きくしてくれているとも思います。

環境問題や政治について話すことは、スポーツそれ自体よりも社会に与える影響は大きく、大切な問題なのであまり恐れることはありません。願わくばロールモデルのような人間として、このような情報を広め、他の人々とともに声を上げ、行動を起こす勇気を与えることができたらと思っています。そして、そういったマインドを持つ女性がもっと増えることが必要です。

「恐れずに活動し続ける」ためのヒントを教えてください。

「自分に自信を持つこと」が最初の条件です。自分という人間を愛し、自分の仕事に情熱を持つこと。そうすれば、自信は自ずとついてきます。「私はもっとタフなはずだ」、とか、「誰かのようにならなければ」、というように無理をする必要はありません。自分自身の情熱や感覚を大切にすることで初めて、何かを発信できるようになるのだと思います。

手段は、文章でも、対話でも、写真でも、自分が最も得意だと感じる形であれば何でもいい。自分に素直になって発信を続けることで、きっとパワフルなメッセージを生み出すことができるでしょう。

ステファニー・ハウ
STEPHANIE HOWE

多分栄養学・運動科学の博士号を持つステファニー・ハウは、運動学、生理学、運動心理学、そして栄養面の知識を持ち合わせているためウルトラランニングの世界で大きなアドバンテージを持っている。彼女が博士号を取得する間、初挑戦ながら有名なウエスタン・ステイツ・100での優勝など世界的に有名なウルトラの大会で新記録や表彰台を獲得した。彼女のトレイルランニングへの可能性を見出したのは、ボーズマンのモンタナ州立大学時代の全米ノルディックスキーでクロスカントリーランナーであったことが関係している。現在はオレゴン州ベンドを拠点に、コーチとスポーツ栄養士として情熱を注いでいる。TNF ATHLETE PAGE

ステファニー・ハウ / STEPHANIE HOWE

text by Daniel Takeda
edit by Ryutaro Ishihara

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