06 コウノリ -サンシャインジュース代表-

畑のエネルギーをギュッと閉じ込めたような自然なつくりのコールドプレスジュースを作っているコウノリさん。最近彼が熱心に取り組んでいるのは堆肥作り。千葉県一宮町でともに堆肥づくりに取り組む生産者、<the Farmers>の畑を訪れ、コンポストの様子を見せてもらった。

自然の恵みをいただき、循環をつくるジュース

日本初のコールドプレスジュース専門店、サンシャインジュースの立ち上げ人であるコウノリさん。ジュース作りを通してさまざまなことにチャレンジしつづける彼は日本で生まれ、10代半ばにアメリカ、のちに台湾での生活を経て再び東京で暮らしている。台湾では仏教徒が多く街中にベジタリアンチョイスの飲食店が豊富。そのため2009年から約3年半はビーガンの生活だった。
さらにランニングやトライアスロンなどの持久系のスポーツに熱中し、競技レースにも出場しているノリさん。スポーツを通して感じたジュースが自身の身体に作用してくる感覚が、コールドプレスジュースに目覚めたきっかけだった。

「エネルギーが細胞にダイレクトにくる感覚でしたね。自分はとにかく自然のものを身体に摂り入れたい。フォーマットはジュースもあればパウダーもありますが、生活スタイルに応じて自然の栄養を摂り入れていると、身体は絶対にレスポンスしてくれるんですよ」

そんな自身の実感から、2014年に恵比寿にサンシャインジュースと名を冠したお店をオープンする。当時都内ではコールドプレスジュースをスタンドで飲めるスタイルの店はなかったため、またたく間に人気となった。

自分の足で、生産者に会いにいく

サンシャインジュースは丁寧に作られた野菜や果物が重要。良質な素材と出合うためにはコミュニケーションが欠かせない。そのためにノリさんは全国の畑を訪ね歩き、生産者に実際に会いにいくことを大切にしている。

「店を始める前に畑に連れて行ってもらったとき、はじめて見た目やサイズが悪いという理由だけで捨てられてしまう野菜がたくさんあることを知りました。質はとてもいいのにもったいないと思って、規格外の野菜たちを買わせてもらってジュースの材料にすることにしたんです。ジュースだったら、搾るので形の歪さは関係ないですから」

市場に出回らないハネものの野菜たちを材料にすることで、生産者、お客さん、それぞれが嬉しい仕組みを生み出している。最近では地方の畑でフィールドワークから始まり、その場で野菜を搾ってジュースにする出張イベントも実践しているそうだ。

「長年ジュースを作っていると、ブレンドの味はだいたい頭の中でイメージできます。ジュースに使う材料の配分は1年を通して基本的に変えないようにしています。同じ素材でも、産地が違うと味が違う。例えば柑橘も今はみかんだけど来月はみかんのシーズンが終わって晩柑になる。するとみかんより味が渋めになったりする。だからといって、あえて配分を変えないことで産地や季節によって変化することや、違いを感じてもらいたいんです」

味が統一されていないことで嫌がる人もいたが、今ではお客さんも店の考えを心得てくれる人が増えた。やることは余計な手を加えず、ただ新鮮な素材を絞るのみ。シンプルだからこそ、野菜のエネルギーを最大限に引き出すことができるのだ。

土からジュースまで。循環をつくるコンポスト

彼の取り組みは、ジュース作りにとどまらない。コールドプレスをした後に出る野菜の“搾りかす”に着目し、これまでさまざまなかたちで再利用してきた。

「捨てるのがもったいないし、いろいろ試したんですね。ベーグルを作ったりクッキー焼いてみたり。でもビタミンや酵素など摂りたい栄養は、もうジュースに出ちゃってる。だから食べ物に混ぜ込むのとは違うアプローチで使いたいと考え、そのひとつが染料でした」

ノリさんの友人が展開する、野菜の残渣から抽出した染料で染め上げたというブランドのエプロンを見せてもらった。自然由来の色合いが美しい。食べる以外にも、自然のものを暮らしに取り入れる価値・美意識をもつことができる。そうして人と自然がより近くにあることについて考え、行き着いたのが“土”だった。

「いい土で野菜を作り、さらに僕がその野菜をジュースにして飲んでくださる方が健康になる。ジュースの残渣を土に還して今度は土の中の微生物が元気になって土を豊かにする。そんな循環を作りたかったんです。都内でレストランやお花屋さんを営む友人も自分のお店で出た廃棄物について考えていたようで、僕がここでコンポストを始めたと伝えると、じゃあ一緒にということで土の栄養になる生ごみを出してくれて、みんなで生ごみからの土づくりプロジェクト〈Cosmic Compost〉に取り組んでいます」

インタビューの日、千葉県のカフェ〈Atlantic Coffee Stand〉に集まったあと、車で15分ほどの畑へ向かうというので、土作りの様子を見せてもらった。さまざまな生ごみを持ち込み、コンポストする。サンシャインジュースの搾りかすのほかにも、東京・原宿のレストラン〈eatrip〉の野菜ごみや、〈the little shop of flowers〉のお花ごみなどが土の肥やしになっている。

「サンシャインジュースを通して健康生活だけではなく、循環について身近に実感してもらえたらいいな。おいしいジュースを楽しみ、その素材となる野菜ができる環境、さらにジュースを絞った残渣の再利用で新たな価値が生まれることに共感して感動してくれる人が増えると嬉しいですね。僕は究極的にいうと、美味しくて自然の力が詰まったジュースを作りたい。美味しくて、身体にもマインドにもよくて人と地球を元気にしたいです」

正直なジュース、正直な身体


サンシャインジュースのWEBサイトが最近リニューアルしたんだ、とノリさん。簡素だったサイトページが、自分たちが取り組んでいる環境への取り組みや考えも一緒に届けたいという想いによって刷新された。

「いいジュースを作りたいというシンプルな理由で始まったブランドなので、取り扱い商品が増えたことや通販を始めたことは、あとあとで派生してきたものなんですよね。でもその積み重ねでやっと1つのブランドとして、形になってきたところなのかと感じます。とにかく自分がイイな!って直感で感じることをひたすらやりつづけてきました。そして今回の〈the Farmers〉の皆さんとの出会いのように、何かに一生懸命取り組んでいる人たちに出会えることも、自分にとってはすごくプラスになっている」

一人で成し遂げるのではなく、相互に影響しあって成り立っている。身体の健康、生産者との関係性、自然を身近に感じて地球環境のことを考えること……。彼がつくる1杯のジュースは、さまざまなことが”より良く”なる役割を担っている。まっすぐでぶれないからこそ強い。
「ジュースになるまでにどんなことがあったのかを考えられるものにしたいんです。正直で素晴らしい背景のあるジュースを作るブランドでありたい。とにかくジュース屋さんをやっていて、本当によかったなって毎日思うんです。なにより、自分も飲めて健康だからね!」