ヒマラヤ山脈、エベレストの南西に連なる
標高7891メートルの高峰ヌプシ山。
THE NORTH FACEの人気ダウン〈ヌプシジャケット〉は、
この山に因んでネーミングされた。
商品企画担当者が現地に赴いて
約2ヶ月の歳月を費やしながら製品テストを繰り返し、
ようやく完成の日を見ることになったという逸話の残る製品だ。
発売から四半世紀以上を経た現在でも人気のその理由は、
使用する側に立ったモノづくりの成果と言えるだろう。
さまざまなドラマと思いが封入された
THE NORTH FACEのダウンジャケット。
それらにまつわるストーリーを届けよう。
「ヌプシダウンをクールに着こなすニューヨーカーを紹介してくれない?」
われわれ撮影班の依頼にフィリップは「ガッチャ!(任せとけ!)」と応えてくれた。今回このスタイルブックをつくるにあたって、おそらく世界で最もヌプシの愛用者が多い街ニューヨークの人々の着こなしを撮影するためのモデル探しを依頼したら、彼はその役を快く買って出てくれたのだった。ところで、THE NORTH FACEの茶ロゴのニットキャップを被ったこの男、フィリップとは一体何者?
フィリップ・T・アナンド。ブルックリンを拠点にアパレル企業のブランディングやアーティストプロデュースなどを手がける気鋭のクリエイターだ。彼にコンタクトを試みたのは、本人のInstagramで紹介されていた、ある画像がきっかけだった。大量の「いいね!」が付いたそれはTHE NORTH FACEのビンテージダウンをパーツごとにバラバラに分解して、それを再びミシンで縫い合わせて作られた、この世にひとつしか存在しないトートバッグの写真だった。なんて斬新なアイデア! こんな自由なアイデアを思いつく男は一体どんなヤツなんだろう? さっそく彼のアトリエを訪ねることに。ᅠ
ブルックリンの西側、車の修理工場や倉庫が立ち並ぶエリアの一角に、そのアトリエはあった。天高の倉庫のような建物の前に到着すると、つぶらな瞳が印象的な長身の男が笑顔で迎えてくれた。ニュージャージー州出身の28歳。高校の頃からマンハッタンのショップや古着屋に通いつめスニーカーや洋服を買い漁っていたという自称ファッションマニア。ちなみにTHE NORTH FACEのビンテージウェアではどんなモデルが好きかと聞くと「STEEP TECH(90年代に発売されていたスキーウェア)だね。アウトドアウェアとして高い機能を備えながらも黄色と黒のカラーリングが最高にCOOL!」と即答。うーん、なかなかのマニアっぷり。
古着屋を巡って見つけたビンテージのヌプシジャケット。新たな製品へと生まれ変わるのを待っている
フィリップのアトリエ。電動工具や木材、DIYで作られた家具や撮影用のオブジェなどが所狭しと置かれている
そんなフィリップを中心に、写真家やデザイナーなどのクリエイターが有機的に結びつき、さまざまな活動を展開しているのがTHE MADBURY CLUBだ。企業のCMや広告ビジュアルを製作したり、自分たちでつくったTシャツを販売したり、いわゆるクリエイティブエージェンシーのようでもあるけれど…。
「MADBURY CLUBは僕が大学在学中に友達と始めたインターネットサイトがはじまりで、自分達が面白いと思った動画や画像をアップして
THE NORTH FACEのビンテージダウンを再利用してつくられたトートバッグ。オリジナルのタグを付けて販売する予定
いるうちに、アパレル会社やブランドがセンスを認めてくれてコンサルタントの仕事なんかをやるようになったわけ。自分が興味のあるモノ、例えばビンテージのアウトドアウェアや90年代のスニーカーを収集して掘り下げることが大好きで、小さい頃から続けてきた。いわば遊びみたいなもので、それを今も続けているだけだからブランディングやコンサル仕事も本業という意識は無いんだけどね」。
遊びでネットにあげた画像や動画のセンスを買われ、それが仕事につながるなんて、まるで絵に描いたようなSNS時代のシンデレラストーリーではないか。もっともフィリップのそんな才能は一朝一夕で身についたものでもなさそうだ。
「子供の頃の僕の趣味は、車の窓越しに見えるビルボードや看板を眺めて「僕だったらこうするなぁ」とか「こうすれば、もっとお客が増えるのに」とか妄想しながら頭の中で改良を加えることだったんだ。ビジネスにも興味があって、ニンテンドーのゲームソフトを新たにパッケージし直して友達にレンタルしたり、ロッカーをショップに見立ててミックスCDを販売したり、シルクスクリーンで刷ったTシャツを学食で販売したり…。でも単なる金儲けじゃなくて、独自のプロジェクトを計画して実行する、その一連のプロセスをこなすことに子供時代から興味があったんだよね」。
そんなフィリップを中心に、写真家やデザイナーなどのクリエイターが有機的に結びつき、さまざまな活動を展開しているのがTHE MADBURY CLUBだ。企業のCMや広告ビジュアルを製作したり、自分たちでつくったTシャツを販売したり、いわゆるクリエイティブエージェンシーのようでもあるけれど…。
「MADBURY CLUBは僕が大学在学中に友達と始めたインターネットサイトがはじまりで、自分達が面白いと思った動画や画像をアップしているうちに、アパレル会社やブランドがセンスを認めてくれてコンサルタントの仕事なんかをやるようになったわけ。自分が興味のあるモノ、例えばビンテージのアウトドアウェアや90年代のスニーカーを収集して掘り下げることが大好きで、小さい頃から続けてきた。いわば遊びみたいなもので、それを今も続けているだけだからブランディングやコンサル仕事も本業という意識は無いんだけどね」。
遊びでネットにあげた画像や動画のセンスを買われ、それが仕事につながるなんて、まるで絵に描いたようなSNS時代のシンデレラストーリーではないか。もっともフィリップのそんな才能は一朝一夕で身についたものでもなさそうだ。
「子供の頃の僕の趣味は、車の窓越しに見えるビルボードや看板を眺めて「僕だったらこうするなぁ」とか「こうすれば、もっとお客が増えるのに」とか妄想しながら頭の中で改良を加えることだったんだ。ビジネスにも興味があって、ニンテンドーのゲームソフトを新たにパッケージし直して友達にレンタルしたり、ロッカーをショップに見立ててミックスCDを販売したり、シルクスクリーンで刷ったTシャツを学食で販売したり…。でも単なる金儲けじゃなくて、独自のプロジェクトを計画して実行する、その一連のプロセスをこなすことに子供時代から興味があったんだよね」。
THE NORTH FACEのビンテージダウンを再利用してつくられたトートバッグ。オリジナルのタグを付けて販売する予定
手書きのラフスケッチ。設計図やコンセプトが細かい文字と一緒に描かれている
先述のダウンを分解してつくったバッグも、趣味で集めた古着をリメイクすることで新たな命を吹き込む試みなのだという。コンセプチュアルアートなのか、単なる遊びなのか、商売なのか。いや、そのどれにも当てはまらない自由なスタンスこそがフィリップの本領と言えるのかも知れない。
「THE NORTH FACEの古着のダウンって、もともと耐久性にも優れているから40年が経った今でも普通に着ることができる。それってスゴイことだと気がついて、ブランドに敬意を表する気持ちでバッグをつくってみようと思いついたんだ」。
フィリップの頭のなかには、あらたな遊びや驚きを創造するためのアイデアが新品のダウンの羽毛のようにギュっと詰まっているようだ。もうすぐ拠点をニューヨークから西海岸の森の中へと移す予定だというが、新天地でどんな驚きのアイデアを提供してくれるのか。今後の活躍が楽しみだ。
フィリップ自身のウェブサイト。90年代のアウトドアウェアのアーカイブなど、見どころ満載
THE NORTH FACEのビンテージダウンは様々な時代のものを集めている
Phillip T.Annandフィリップ・T・アナンド
フィリップ・T・アナンド。アパレル関係の仕事以外にもヒップホップユニットFLATBUSH ZOMBIESのプロデュースやジャマイカのシンガーPOPCAANのビジュアルディレクションなど幅広く活動中。
HP www.philliptannand.com /
Instagram @philliptannand