MENU

CLOSE

家も畑も、
アップルパイを焼くように─
タイニーハウス・コミュニティの実験

HOMEMADE

可動性があり
風通しのよい
コミュニティの
形とは?
この実験に、自然と
菜園が加わりました。

「野菜はオーガニックであるべきだ」と薦める理由は、ひと昔前のように「健康のため」であることよりもずっと、利他的な意味を持っている。土壌に二酸化炭素を閉じ込め、土壌に水分を蓄え、植物に栄養を与え、地上生物の生態系を維持するために、地中に棲む多種多様な微生物たちがどれほど大きな役目を果たしているか。そして、これまでの化学肥料や殺虫剤という効率を上げるための薬剤が、この微生物たちの働きを脆弱化させてきたことも、多くの研究によってわかってきたからだ。

では、私たち生活者は、オーガニックを“選ぶこと”でしか微生物を助けることができないのかといえば、そうではない。竹内友一さんの言葉を借りれば、「野菜も、アップルパイを焼くような感覚で、気軽に育てればいい」。竹内さんは建物をつくる仕事をしているが、いわゆる建築家とは少しニュアンスが違う。

まずは思いのままに植えてみた1年目。野菜によって異なる成長速度や収穫時期を知り、少しずつ自分たちのライフスタイルに合ったものにしていきたいと話す。
まずは思いのままに植えてみた1年目。野菜によって異なる成長速度や収穫時期を知り、少しずつ自分たちのライフスタイルに合ったものにしていきたいと話す。

これまで「Tree Heads」という屋号で、ツリーハウスやタイニーハウスを中心に、コミュニティのシンボルや公共的なオブジェまで、人が集う場としての建築物を手掛けてきた。そして昨年、活動拠点である山梨県北杜市で、仲間たちとともに始めたのがタイニーハウスを中心としたコミュニティの実験プロジェクト。家も野菜もしかり、自分たちの暮らしを自分たちで手づくりしていく、という意味を込めて、これを「HOMEMADE」と名づけた。

山梨県北杜市を拠点に、ツリーハウス、タイニーハウスの施行や体験プログラムの制作・運営を行う「Tree Heads」の代表、竹内友一さん。
https://treeheads.com
山梨県北杜市を拠点に、ツリーハウス、タイニーハウスの施行や体験プログラムの制作・運営を行う「Tree Heads」の代表、竹内友一さん。
https://treeheads.com

四方を森林に囲まれたTree Headsの工房脇の600坪ほどの敷地に、タイニーハウスが2つと、キッチンとリビングを設けた母屋、その真ん中に温室とコンポスト場とレイズドベッド(地面を高くした菜園)が並んでいる。この“実験場”をつくり始めたのは、1年ほど前。一般の人にお披露目をしたのは、昨年の11月だった。竹内さんが考えるタイニーハウス・コミュニティ構想とは、どういうものなのか。それは、竹内さんがこれまで国内外、さまざまな土地で経験してきた暮らしの風景の先に見えてきたものだった。

“身の丈の暮らし”を
見つめ直すと、
世界の捉えかたが
変わる。

「今思うと20代、イギリスとオランダで工業デザインを学んでいた頃に、新しいものをつくり続けることに疑問を持つようになったのが、すべての始まりでした。その後、パーマカルチャーに興味を持って、オーストラリアのエコビレッジに飛び込んだ経験から『自然と人とが滑らかにつながる場のデザイン』を考えるようになった。日本でツリーハウスづくりを始めたのも、その流れからでした。それで2013年頃、当時アメリカで広がりを見せていたタイニーハウス・ムーブメントのことを知ったんです。調べてみると、これは建築物云々よりも、小さな家に住むことで、本当に自分が望む人生に近づけていくという思想なんだと気づいて、惹き込まれていきました。

illustration:Yoshimi Ito
竹内さんがイメージするタイニーハウス・コミュニティ。コモンハウス(共有棟)、タイニーハウス、DIYのための道具が揃うスタジオ、コンポスト、コミュニティガーデン、昆虫や動物にとっても居心地のよい場所となるように林を整備したウッドランドなどがある。
2017年、タイニーハウスのロードムービー『simplife』の公開とともに、このタイニーハウスで日本全国をツアーした。「『HOMEMADE』プロジェクトでは、タイニーハウスのセルフビルドやハーフビルド(内装だけ自分で行う)を僕らがサポートするということも積極的にやりたいと思っているんです」と竹内さん。

家が小さければ、所有物も最小限に削らなくてはならないけど、その分、その人の個性が際立ってくる。そして、小さく暮らせば、外との関わり方が変わってくる。たとえば、町の図書館が本棚になり、公園がリビングになる、というように。でも、実際に暮らしていけるのかという疑問があったので、アメリカで実際に生活している人たちに取材して、『simplife』というロードムービーを制作しました」

仲間の料理人たちが集まり、夏に収穫できた野菜で小さな食事会を開いた。
仲間の料理人たちが集まり、夏に収穫できた野菜で小さな食事会を開いた。

メンバーが
増えたり減ったり、
風通しよく
フレキシブルな
コミュニティ。

竹内さんがアメリカへ取材にでかけた頃には、すでにタイニーハウスの中古マーケットがあるほど、さまざまなニーズで使われていた。子どもが増えるから、子ども部屋として庭に一つ加えたり、逆に、子どもたちが巣立って夫婦二人になったから、タイニーハウスに暮らして母屋を賃貸に出したり。気軽に足し引きができる、フレキシブルな住居として使われていたという。

「その時訪ねたタイニーハウス・コミュニティにも風通しの良さを感じました。メインハウスは普通の住宅で、暮らすのに必要な機能はひと通り揃っていて、各自のプライベート空間がタイニーハウス。メンバーの入れ替わりも、フレキシブルに行われていました。以前見てきたエコビレッジもそうですけど、結局そこに長くいる長老のような人が権力を持ち始めるんですよね。そうではない流動的なコミュニティをつくるには、どうすればいいのか。その答えをタイニーハウス・コミュニティで見出せるんじゃないかと思ったんです」

竹内友一さんと、パートナーのさやかさん。
竹内友一さんと、パートナーのさやかさん。

アマチュアで十分。
その時
収穫できたものを、
ありがたく
食べよう。

「HOMEMADE」を立ち上げる以前から、竹内さんの周りには、「Tree Heads」を軸としたゆるやかなコミュニティが築かれてきた。工場で作業している人も、母屋でデスクワークしている人も、社員ではなく、互いに自立した関係性だという。

「デザインできる人、図面が描ける人、写真が撮れる人、料理ができる人……それぞれ自立しつつ、何かあれば特性を生かして補完し合う。そして、ぼんやりと見ている方向が似ている。ひと昔前は、人間関係にはヒエラルキーがつきものでしたけど、今はウェブ上のコミュニティのように横並びの感覚がリアルにも落とし込まれてきているような気がします」

「HOMEMADE」の母屋には、キッチンにリビング、デスクワークできるスペースがある。

仲間たちと培ってきたゆるやかなつながりを、もう一歩進めて“生活”をシェアするための実験。そこに畑が加わったことが、そのことを象徴しているようにも見える。

「『HOMEMADE』を始めるのに、畑が絶対に必要とまでは思っていませんでした。『Tree Heads』の活動も、僕らのところに廃材がまわってきて、それを加工することで別の誰かの手に届くという循環を意識して続けてきたこともあって、循環と暮らしを考えると自然に『畑もあるといいかもね』という話になった。野菜づくりに関しては全員が素人だし、農薬は必要性を感じないから使っていないけど、農法について語れるほどの知識は、まだ持てていないんです。でも、 “農業”として生業にしてしまうと苦痛が伴ってしまうので、アマチュアでいいと思っています(笑)」

温室もコンポスト場も、みんなで手づくり。

アマチュアといえども続けることで、生きる上でのスキルは身についていくはずだ。これからさまざまな環境変化が起こっていくと言われる中で、そのスキルの必要性はどんどん大きくなっていくかもしれない。

「変化に適応していくためのレジリエンスを持ったコミュニティにしたい。その意味では、畑も一つのスキルとして持っておきたいなと思います。それに、目の前で食べものが育っている安心感や、食を介することで深まる人間関係も、より意味を持つようになっていくような気がします。

でも、あんまり欲張りすぎないことかなと思うんですよね。『植えたものを全部収穫してやろう』ではなくて、3分の1は鳥や虫が食べて、3分の1は朽ちて土に還って、残りを人間が食べればいい。コミュニティは、人と人との関係だけじゃなくて、人と自然の関係でもあると思うので」

Photo: Kotaro Hata
Text: Eri Ishida

LOW
CARBON
EATING

私たちの日々の食事は、
アウトドアフィールドと
つながっている