Guide

あした行く山

三浦半島 仙元山

三浦丘陵・東京から約1時間20分

歩行時間約1時間30分

三浦半島 仙元山

Essay

のろくさ会

仕事で知り合った人のなかに山が好きな人がいて、共通の友人たちを誘って山へ行こうという話になった。とはいえ山の経験はまちまちだし、誰でも登れる山で、ゆっくり過ごすのにちょうどいい山はどこかなと考えて、三浦半島の仙元山にした。三浦半島は都内からも近く、自然がまだ豊かに残っているエリアで、日帰りで行くのに手頃な低山が多い。でもこんなに低くて、散歩の延長みたいなのろくさした山なんてつまらないかな? と逡巡しながら皆にレジュメを送ると、楽しみにしてますという嬉しそうな返信が次々に返ってきて、そのうちのひとりが、「のろくさ会楽しみにしてます」と書いてくれた。

じつはこの山に登るのは私自身ひさしぶりで、ようすが変わっていないか心配だったのだが、当日葉山教会の横から土道を歩き始め、三十分ほどで山頂直下まで上がってきたら、以前は木々がもさもさ茂っていたのがきれいに切り払われて、葉山の海はもちろん、駿河湾の向こうに富士山までみはるかす大展望が広がっていた。あれれ昔はこんなに見晴らしがよくなかったんだけどなと私はひとりごちたが、皆が感激しているのを見ていたら、それだけでもこの山にしてよかったと思った。

地元の人も上がってくるのだろう、山頂にはベンチがあって、私たちもそこで休んだ後、縦走路に入った。縦走路といってもそこは標高200m弱のちっちゃな稜線、もうひとつの189mピークまで、ちょっとした山気分の味わえる道が樹林のなかに続いている。

遅めのランチは途中の木陰で食べることにして、持ち寄ったものを皆で開いた。メインは私が作るが、おつまみ係、デザート係などと分担を決めて頼んであったので、皆、頭をひねっておいしいものを持ってきてくれる。こんなのでよかったのかなと言いながら、おつまみにはちくわにニンジンとインゲンを入れたのや、火であぶるチーズなどが出てくる。デザートにはリンゴのタルトタタンが出てくる。そう、こんなのがよかったんだよ。

その先が189mピークで、家々の白い屋根が連なる向こうに海を眺めた後、下りていく。春にはサクラやスミレの咲く気持ちのいい道である。左手には双子山のフタコブラクダが見えている。さっさと歩くとすぐに終わってしまうので、立ち止まったり、回りを眺めたりしながら、しいてゆっくり歩く。

住宅街まで下りてきたところで相談して、このまま海まで行こうよとぶらぶら歩いていくことにした。ただ思ったよりも距離があって、私はひとりで気をもんだが、皆は気にもかけないふうで、人家の菜園をのぞきこんだり、珍しい照葉樹の木の芽を観察したり、都会では見られない懐かしい光景を見つけては楽しんでいる。

たどりついた午後の浜辺は私たち以外誰もおらず、海の水面がきらきらとまばゆく輝いていた。波打ち際に近づき、それからはただ立って海を見ているだけの人、貝殻や小石を探す人、座って砂を撫でる人など、思い思いに海を味わう。大人になると、人生のうちにこういう一日があるのだなと思う。それはまさに、名前どおりののろくさ会であった。

それからしばらく会っていないので、ひさしぶりに皆に声をかけたいと思っている。

Tips

shop

shop1

仙元山の登山口近く、トンネル手前の小さな輸入食材店では、ハムやピクルスやチョコなど楽しいものをたくさん調達できる。パンを切ってスープを作って、楽しいピクニックに。ハムはグラム単位でスライスしてくれる。これぞ低山の喜び。

other place

other place

葉山御用邸前に広がる一色海岸は散策にぴったり。仙元山からは少し距離があるものの、山頂から見ていた海辺に下りていくのは格別の気分。貝殻拾いには向かないが、岩場での海辺遊びにはもってこい。砂の上、岩の上、草地の上でのんびりくつろげる。

souvenir

souvenir

JR逗子駅前の角にある鮮魚店には、近くの漁港で水揚げしたばかりの地魚や近海魚が並んでいる。昔ながらのおじさんのかけ声、水で洗われた床、新聞紙でくるんでくれる包みも嬉しく、つい晩ごはんのおかずを物色。ザックのいちばん上に大事に入れて帰りたい。

Style2

夏、街に近い低山では暑さ対策が重要。汗を逃がし風を通す、さらりとしたTシャツにショートパンツで軽快に。デイパックも含め、そのまま街に出ても違和感のないスタイリングが理想。とはいえコットンなどのふだん着は体温調節の面で負荷が大きいのでNG。また急な天候変化に備えて、たとえ晴れていたとしても、薄手の晴雨兼用アウターを必ず持つのが山の基本。シューズもフィールド対応の歩きやすいものを選びたい。

Column
本日の山のおとも

山の道具はいわば信頼のおける友のような存在。

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