はじめてのトレッキング

木々の合間から差し込む柔らかな日差し、 頭の上から降り注ぐ小鳥のさえずり、 風に乗って運ばれてくる木の葉の香り。 五感をフルに働かせてそれらを感じているときは、 自分も自然の一部だという感覚がじわじわと湧いてきます。 それはとても穏やかで、気持ちがいいものです。 小さな発見を探しに、のんびりと山を歩いてみませんか? THE NORTH FACEがお届けする MY FIRST SERIESは、 女性が楽しめる山遊びを提案します。

Step 1テーマを決めよう

山での過ごし方は、ひとそれぞれ違うもの。 登った先でやりたいことを決めておくと、 キツイはずの登りも、心なしか足取りが軽くなります。 ごはんを作って食べる、 季節の花を見つける、スケッチをする……。 ゴロンとお昼寝をしに行くだけでも、気持ちよさそう。 さて、何をして遊びましょう。

山の上でごはんを作る

登山の醍醐味といえば、山の上で食べるごはん。ノスタルジックな茶屋の雰囲気を感じながら食べるごはんも魅力的ですが、持参したバーナーで作る野外ごはんの美味しさは格別です。はじめは温めるだけのパスタやスープでもOK。だんだんと調理の幅が広がると、いろんな料理にチャレンジできます。

スケッチをする

気に入った風景の前で立ち止まり、しばらくスケッチをしてまた歩き出す。そんな、ゆったり気ままなハイキングもいいものです。その山で一番の展望に出会ったら、しっかりと腰を下ろして丁寧にスケッチを。水彩画のパレットや色鉛筆を持ち歩くのが大変であれば、下山後に色を乗せてもいいですね。

季節の花を見つける

地域、高度、季節によって見られる花が異なります。おすすめコースで紹介している尾瀬ヶ原であれば、5月下旬〜6月中旬にかけては水芭蕉、7月中旬〜末にかけてはニッコウキスゲ、8月〜9下旬にかけてはウオクトリカブトやワレモコなど、たくさんの花を見つけることができるはず。

山小屋スタンプを集める

山小屋やビジターセンターにひっそりと佇むスタンプ。いつ、どこで出会えるかわからないからこそ、見つけたときは心が躍ります。神社やお寺で御朱印を集めるように、小屋の個性が表れたスタンプを集めてみませんか? たくさん並んだスタンプを眺めていると、次にまた山へ行くのが楽しみになります。

絶景を写真に残す

山の景色は、ものの数分でガラリと変わることがあります。その時々で目に焼き付けるのもいいですが、写真として残しておけば後日見返すことができます。印刷してしてオリジナルの山アルバムを作ったり、SNSで山専用のアカウントを作ってアップしたりと、思い出を記録するのも楽しみの一つです。

下山後に温泉を巡る

たとえゆっくり歩いても、登山後は心地よい疲労がたまります。山のある地方には温泉が出ていることが多いので、のんびり浸かって疲れを癒してから帰るのもいいでしょう。温泉から駅まではたいてい直通バスが出ているので、移動もラク。それを考慮して、ゴールを温泉に設定するのもおすすめです。

Step 2最初に登る山はどんな山?

おいしい空気を吸いたくなったら、 次に、目的地を決めていきます。 コースの所要時間、距離、レベル、アクセス、 見どころなどが書かれている 登山用のガイドブックを参考に、 行きたい山を選びましょう。 なんだかワクワクしてきませんか?

目的に合わせた山を選ぶ

景色を眺めながらごはんを食べたければ、ひらけた場所がある山を選ぶ必要があります。下山後に温泉へ行きたければ、温泉までのルートを考慮して山を選ぶといいでしょう。そんなふうに、自分がその日やりたいことに合わせて登る山を決めます。ヒントが詰まっているガイドブックを参考に。

アクセスを考える

最寄りの駅から登山口までに距離があると、入口を探している間に時間をロスしてしまうことがあります。できるだけ駅の近くからアプローチできる山を選びましょう。帰りも同様に、下山口と駅が離れているとバス移動になる可能性も。駅の近くまで歩いて下山できるルートがおすすめです。

ロープウェイを使う

毎年5月上旬頃になると、各地のロープウェイが動き始めます。ロープウェイを使えば標高が楽に稼げ、初心者でも2000m級の山に登ることができます。降りた場所から少しハイクアップするだけで、低山では見られない高山植物や残雪を見ることができ、新鮮な気分を味わえます。

コースタイムを3~4時間に設定する

歩行時間が3〜4時間、なおかつアップダウンの少ないコースはビギナーでも比較的簡単に登れます。地図に記載されているコースタイムはあくまでも目安。のんびり歩いてもかまいません。その日自分がどのくらいのペースで歩いたか記録しておくと、今後タイム設定をする際に想定しやすくなります。

トイレの位置を確認しておく

観光地化した山にはトイレが設置されていますが、それ以外の山にはありません。事前にチェックしておくことをおすすめします。茂みで用を足すことに抵抗がある人は、携帯トイレを準備しておきましょう。携帯トイレを山の中で使用する場合は、周囲を確認して必ず滑落の危険がない場所で行うこと。

こんな山に行ってみよう!

尾瀬ヶ原ハイキングコース

尾瀬ハイクマップを片手に(ネットでダウンロード可)、気軽に散策できるのが尾瀬ヶ原。歩行距離や時間に自信がない人でも尾瀬雰囲気を満喫できるコースです。

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入山口は群馬側・尾瀬南側にある『鳩侍峠』。上越新幹線「上毛高原駅」またはJR上越線「沼田駅」からバスで「戸倉」まで行き、鳩侍峠行きのバスに乗り換えます。「戸倉」までは新宿からも高速バスが出ているので、都心からのアクセスも便利です。『鳩侍峠』には無料休憩所と山小屋があり、不必要な荷物を預けることが可能です。準備ができたら、登山スタート。『鳩侍峠』から『山ノ鼻』まではブナ原生林の中を歩きます。はじめは傾斜の急な石畳みの階段と木道の階段を下りますが、ヨセ沢が見えたらその後は比較的なだらか。平坦な木道が続き、大きな木の根の様子や、野鳥の声を聞きながら気持ちよく進むことができます。『山ノ鼻』には休憩ができるビジターセンターがあり、ここにはトイレ(チップ制)も設置されています。『山ノ鼻』から『牛首分岐』までは尾瀬ヶ原のメインルート。平坦な木道で、春にはミズバショウ、夏にはニッコウスゲ、秋には紅葉を楽しめます。『牛首分岐』で引き返す場合は往復で約4時間。体力的に余裕があれば、竜宮まで足を伸ばしたり、竜宮〜ヨッピ橋〜牛首分岐とぐるっと回るプランもいいでしょう。帰りは同じルートを辿って再び『鳩侍峠』まで。コースは整備された木道がほとんどなので、迷う心配もありません。

北八ヶ岳・縞枯山〜茶臼山コース

ロープフェイを使って2000m以上の高山にアクセスするコース。低山とはまた違った花や景色を楽しめます。

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北横岳と縞枯山の間に架かる北八ヶ岳ロープフェイは、2,237mの地点まで上がることができます(運行日要確認)。山頂駅付近は高山植物が群生する坪庭自然園が広がり、散策コースは30分程度。体力に余裕がある人はまずはこの辺りを散歩してみるのもいいでしょう。『坪庭』から『雨池峠』に向かって15分ほど歩くと、縞枯山荘が見えます。ここには売店や喫茶があり(不定休有のため要確認)、休憩をとることも可能です。縞枯山荘から5分程度で『雨池峠』に到着。分岐に注意して『縞枯山』方面へ向かうと、40分程度で山頂にたどり着きます。山頂からもう少しだけ足を伸ばすと展望台があり、ここからは南八ヶ岳や、これから向かう『茶臼山』が一望できます。展望台を通過し、『茶臼山』山頂までもうひと踏ん張り。山頂に着いたら標識に従って少し歩き、展望台を目指しましょう。南アルプスを眺めながら食べるお弁当は、おいしさもひとしおです。帰りは茶臼山から元来たルートをくだり、五辻分岐点で『五辻』方面へ。7〜8月頃はコバイケイソウなどの花を見ながらゆったりと坂をくだり、『五辻』からは木道をゆるやかに登り山頂駅へ。ロープフェイを降りた山麓駅ではお土産も売っています。

奥武蔵・日和田山コース

埼玉県日高市にある山で、最寄りの高麗駅までは新宿から1時間強と都心からのアクセスも便利。関東近郊に積雪がない限り、通年通して楽しめるコースです。

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高麗駅から日和田山登山口までは20分ほど舗装路を歩きますが、標識に従えば迷うことはありません。ゆるやかに登り始めて少し経つと、大鳥居の前に出るのでこれをくぐります。そこから男坂と女坂との分岐となりますが、はじめての場合は女坂へ。岩場の急登である男坂に比べ、危険が少ないです。高麗の里を一望できる『金刀比羅神社』を抜けてほんの少し進むと『日和田山』の山頂に到着します。日和田山山頂からは急な下り坂がありますが、長くは続きません。あとはゆるやかに登り、『高指山』を経て『物見山』を目指します。途中車道に出るタイミングがあり、車道を少し進むと公衆トイレや売店もあります。『物見山』の登山口から再び山道に入り、30分ほど歩くと『物見山』の山頂に着きます。ここは開けていてベンチもあるので、休憩をとるのもいいでしょう。最後に目指すのは『五常の滝』。7mほどある滝のそばは夏でも涼しく感じられます。ここからは車道を30分程度くだり『武蔵横手駅』へ。スタート時とは違う駅なので、帰るルートを確認しておきましょう。

山の澄んだ空気を吸うと心も肌もいきいきするんだ

Step 3New Style Updated!はじめての準備

計画を立ててみよう

陽が落ちる前に下山するには、 タイムマネジメントが大切です。 遠足のしおりのように事前に1日の計画を立てましょう。 最寄り駅に到着する時間、 入山時間、ポイントの通過時間、山頂に到着する時間、 下山時間などを記入します。 ガイドブックに書かれている参考タイムと 自分のレベルとを照らし合わせ、予想タイムを設定。 当日は実際にかかった時間をメモしておくことで、 次回の参考にもなります。 危険個所の記入も忘れずに。

  • 今回のテーマと目的地
  • 駅到着、ポイント通過、
    休憩などのタイム想定
  • 実際にかかった時間
  • 出発前に
    覚えておきたいこと
  • 山の中で、見たこと、感じたこと

記入ポイント

  • 今回のテーマと目的地
  • 駅到着、ポイント通過、休憩などのタイム想定
  • 実際にかかった時間
  • 出発前に覚えておきたいこと
  • 山の中で、見たこと、感じたこと

THE NORTH FACE 一部直営店・取扱い店にて配布中の冊子
「MY FIRST TREKKING」を使用した記入例です。

持ち物をそろえよう

木の葉がかすれる音、木々の匂い、 自然界の柔らかい空気を全身で感じるには、 心に余裕を持つことが大切です。 山に入ってから慌てないためにも、準備は万全に。 気軽な山であっても、 装備が不十分だと危険がともないます。

Check list

体重×行動時間×5mlで水分量を計算。
50kgの人が4時間歩く場合は1ℓが目安。

防寒着

行動中に着ない予備の防寒着は必須。
季節によって厚さが違ってもOK。

レインウエア上下

万が一、雨が降った時の防寒具。
撥水性・防水性・透湿性に優れたものを。

ヘッドライト

街灯がない山は陽が落ちると真っ暗に。
遭難や怪我防止のためには必要。

トレッキングポール

カラダの負担を減らす、頼れる相棒。
自分サイズに長さを調節しておくこと。

スマートフォン、バッテリー

記録用だけでなく、緊急時に助けを呼ぶ
際に使用する。充電用バッテリーがあると安心。

地図

今自分がどこに立っているか、常に把握
しておくことが大切。

救急セット

鎮痛剤、大きめの絆創膏、テーピング、
生理用品、エマージェンシーシートなど。

行動食

ごはんとは別に疲れた時に食べるもの。
好きなおやつなら元気も出る。

さらに楽しむためのグッズ

カメラ

ノート

スマホでも充分記録は残せるけれど、ふだん街で写真を撮ったりメモしたりするのが好きな人なら、カメラや手帳は持っていかないと後悔するかも。

大切なウエアの選び方

ウエア選びもトレッキングの楽しみのひとつです。 街着をコーディネートするように、 好きなカラーやデザインで選んでもかまいません。 ただし揃えるべきアイテムと、 ウェアリングの基本を押さえましょう。 ストレスなく歩くには、 生地の素材や温度調節が大切です。

レイヤリングとは?

トレッキングをするときは「レイヤリング(重ね着)」が基本。アンダー、ミドラー、アウターに分けて重ね着し、着脱することで温度調節をします。

A 帽子

太陽に近い山は陽射しが強い。
日除けの帽子を忘れずに。

B バックパック

日帰りなら20〜30ℓの容量で充分。
背中にしっかりフィットするよう、
サイズの合ったものを選ぶこと。
女性用がおすすめ。

C アンダー/ミドラー

汗を逃しにくく冷えやすい綿素材はNG。
アンダーは吸水速乾性のあるもの、
ミドラーは保温性に優れたものを。

D アウター

一番外側に着るウエア。
雨や風からカラダを守る。
様々な種類があり、シーンによって使い分ける。

E ソックス

ウール素材で厚手のものを。
足を守り疲労を和らげてくれる。

F トレッキングシューズ

歩行時に違和感があると疲労感が倍増
するだけでなく、痛める原因に。
必ず自分の足に合ったトレッキング専用靴を。

インナーに注意!

トレッキングは立ち止まることが多いため、綿素材のブラでは汗冷えしやすい。心臓に近い胸元が冷えると全身が冷えるため、速乾性のあるスポーツブラを着用すること。

Step 4山を楽しむためのコツ

歩行時のマナーを守り、 心とカラダに余裕を持つだけで トレッキングが何倍も楽しくなります。 準備が万全に整ったら、いざ山へ! エネルギーに満ちた自然に触れ、 明日の活力に変えましょう。

TREKKING TIPS

前日はしっかり睡眠をとる

季節の変化や景観の美しさは、心が柔軟でないと感じ取ることができません。前日はぐっすり眠り、体力に余裕を持ちましょう。睡眠不足のまま山に入ると途中で身体が重くなり、とても危険です。

登山開始前から水分補給をする

山登りは想像以上に汗をかきます。喉の渇きを感じた時は、すでに脱水の一歩手前。準備した水を山に入る前からこまめに補給し、下山した後も残っている場合は帰宅するまでにすべて飲みきりましょう。

ゴミ袋を忘れずに持っていく

山には“置き土産”をしないことがマナーです。捨てるつもりがなくても、飴やチョコなどの小さいゴミはうっかり落としてしまうことがあります。ゴミ入れ専用の小さなビニール袋を必ず持ち歩きましょう。

他のハイカーと声を掛け合う

他のハイカーさんとすれ違う際は、必ず止まって一声かわしましょう。挨拶はマナーでもありますが、「私はこの道を通りました」というサインにもなり、万が一遭難した時も見つかる可能性が高くなります。

小さなご褒美を用意しておく

いつもと違う土地に行くトレッキングは、プチ旅行です。リッチなお菓子で休憩したり、下山後にふらっと地元の定食屋さんに入ってみたり、温泉で疲れを癒したりと山以外の行程も満喫しましょう。

下山後に肌と身体のケアをする

春から夏にかけては紫外線が強くなる時季。日焼けが続くと乾燥し、肌がシワシワになってしまいます。山では日焼け止めを塗り、帰宅後は保湿クリームやフェイスパックでケアを忘れずに。

その日1日を振り返る

自分の立てた計画通りに動けたか、山地図のコースタイムに対してどの程度のペースで歩けたかなど、その日1日を振り返ることでスキルアップにつながります。次に歩く山も、選びやすくなるはずです。

トレイルランニングをはじめると駅の階段も駆け上がりたくなってくるよ

はじめてのトレッキング MY FIRST “TREKKING”
FOR WOMAN

Photo: Naoya Matsumoto
Model: Emi Chiba
Illustration: Grace Lee
Edit & Text: Yumi Kurosawa
Design: Natsuko Yoneyama
Supervise: Sachi Watanabe
Special Thanks: Kudamatsu Kasadojima Island Trail,
YABUSAPO LLC.