HAKUBA

THE STORY BEHIND
THE KINGDOM OF SNOW

HAKUBA
  • PHOTOGRAPHS:Tempei Takeuchi
  • RIDER:Tomoki Fuse
  • INTERVIEW & TEXT:Toshiya Muraoka

舎川 とねがわ 朋弘 ともひろ

東京出身。一九九二年、〈カラースポーツクラブ〉発足、現在まで代表を務める。
九四年からは白馬に住み込んでの活動を開始し、以降、厳冬期のバックカントリーを開拓していった。九九年、初めて唐松不帰二峰の北峰を滑ることに成功。二〇〇〇年にガイドサービスをスタート。一六年にはスキーブランド〈TONES SKI〉を開始。一七年には唐松不帰二峰のすべてのラインを完成させている。

極上のパウダースノーを求めて日本各地の冬山を巡る“雪追い人”のものがたり、ザ・ノース・フェイスの最新スノームーヴィー「THE KING OF SNOW」。その案内役をつとめてくれた二人のガイドが語ってくれた、山と雪の魅力。

白馬の雪山の魅力について教えてください。

最近では「H A K U B A VALLEY」(大町/小谷/白馬の総称)と呼ばれるようにもなりましたが、白馬は南北に長く伸びる、広い谷間がたくさんあるエリアなんです。その南北の数百メートル、数キロメートルの差で気候が違っていて、雪の降り方、風の吹き方で、ベストコンディションの場所も日々変わる。たとえば、西寄りの風が強ければ南側の大町あたりに雪が降って、北風が強ければ北側の小谷方面に多く降る。北西風だったら僕らがいる白馬村のエリアに降る。どんなコンディションでも(良い雪を)拾いやすいのが白馬の特徴だと思います。いったん足を踏み入れたら、ほんの数分移動するだけで、いろんなコンディションが広がっているんですよね。

雪質も風向きによって変わるんですか?

もちろん。低気圧が太平洋側を移動して、寒気によって雪が降る場合には、その特徴が南側で現れるんだけど、やっぱり湿度があるから雪にも水分量がある。北西風だと西高東低の気圧配置で乾いた風になるので水分量が少なくなるんです。それに、同じ方角を向いている斜面でも、標高差によっても雪質はまた変わりますしね。

白馬岳を筆頭に、白馬は日本の他のエリアに比べても標高が高い山を抱えています。

白馬の山麓がおおよそ七、八〇〇メートル地点、そこから一気に北アルプスの三〇〇〇メートル近いところまで登っていく。だいたい二四〇〇メートル前後が森林限界になっていて、そのために真冬になると強い風が吹き付ける。もちろん山麓でも風が強い日はあるけど、登るほどに過酷な環境下にさらされる時間は長くなります。

舎川さんが通い続けている かえ らず 二峰とは、どんな山なのでしょうか?

(不帰二峰までの道のりは)リフトのトップから一時間登っては引き返す。次には二、三時間登って左右に降りることができる。さらに四時間、五時間って少しずつ進み、そうしてたどり着いた唐松岳の先に、不帰ノ嶮がある。つまり、飛躍ができない場所なんです。一歩一歩積み重ねていった先にあるのが不帰で、大股一歩でいきなり五時間歩いて滑れる場所じゃない。それが不帰の魅力かな。

シーズン中にも数日しかアタックのチャンスはないのですか?

ベストの日はシーズンに二、三日だけでしょうね。

この土地に暮らしていなければ、なかなか辿り着くことができない場所ということですか?

コンディションを見極められるようになるには、やっぱり長い年月がかかるんですよ。それは前日の天候がどうこうではなくて、それこそ十一月のシーズン前からコンディションを読むことが始まっていて、それでようやく一月のコンディションが見えてくる。シーズン中の二、三回のチャンスにうまくタイミングを合わせて滑ることはできるかもしれない。でも、例年起こることですが、一旦一月中旬に雨を挟んでしまうと、その上に雪が積もるわけで、どの程度の深さに雪のレイヤーがあるか、雪崩の危険性はあるのか、パッと来て想像することは難しいですよね。「一歩一歩積み重ねる」のはもちろん技術や経験値の話でもあるんだけど、同時にどこまで想像できるかっていう話でもあるんです。不帰のコンディション(を予想する)にしても、雪質、時間配分、天候、あらゆる面での想像力を高める必要があるんです。不帰までは歩いて、おおよそ五時間かかるけれども、五時間先のフィールドにどんなコンディションが待っているのか。それを想像する力は一歩一歩積み重ねなければ身につかないものなんですよ。そういう意味では不帰を滑るためには、この土地に根を下ろすことが最大の近道なのかもしれない。

厳冬期の不帰二峰は、どんな場所なんでしょう?

とにかく厳しい場所ですよね。不帰まであと一時間の地点で雪質が良かったからといって、決して不帰の雪が良いとは限らない。逆に手前の雪質が悪かったとしても歩いた先の雪質は良かったりもする。普段滑っている身の回りとはまったく違う環境と言えるかもしれない。

不帰の斜面には、その厳しさを上回るだけの大きな魅力があるんですね。

スキーを担いで雪山に入って滑ることが、なぜこんなに楽しいのかなって過去に考えたことがあるんです。それは、すべてが自由だからだと思うんですよね。都会の環境が整った中で暮らしていれば、すべてが保障されている。病気をすれば病院があって、知識を得るための学校があって。でも、自然の中には保障もない代わりに自由があるんですよ。雪山には夏のように登山道がなくて、どこを歩くのも自由。どこで板を履いて、どこから滑っても良い。山のピークが滑り出す起点ではなくて、自分が選んだ起点がそれぞれにあるだけ。それはある種の芸術活動のようなものだと思っているんですが、長い年月をかけて一歩一歩階段を登って積み重ねてきた芸術活動が不帰にあるんです。

難しい斜面であることが、より滑りの創造性を掻き立てるという意味ですか?

次にどんな時間が待っているかがわからないんですよ。不確定要素が多くて、それを自分なりに飲み込んで、対処して、クリアしていく面白さ。昨日と今日の斜面のコンディションが、まったく違いますから。雪つきが違うと斜面のボリューム感も変わってくる。雪がつけば広い斜面になるし、その逆もあって、風によって雪が削られて狭い斜面になっていることもある。しかもどこで氷のレイヤーが出てきて、どこに岩があるか、その日によってまったく変わってくる。不帰は僕が感じているスキーやスノーボードの不確定な魅力、自由さみたいなものが凝縮された場所なんです。

不確定要素を可能な限り想像できなければ滑ることはできない。

そう。その先に何が待っているんだろうって想像力が働く人間には、ドキドキするような不安な気持ちはあるけれども、恐怖心はないんです。そこから「えいやっ!」と何も考えずに身を放り投げることは誰でもできるんです。でも、放り投げるのは恐怖心の裏返し。そうじゃなくて、持てるあらゆるスキルを総動員して、想像力を働かせながら未知の世界を滑っていく。と言いつつ、実は昨シーズンに失敗しちゃったんですけど(笑)。雨がたくさん降ったんですが、もう氷は解消されただろうと思って足を踏み入れたら、二ターン目にアイスバーンに当たってしまった。やっぱり想像力と集中力が足りなかった結果だと思います。どうにか怪我もなく帰って来れたから問題ないですけど。小さな失敗は良いんです。想像力の補正ができるから。だから未だに不帰は最大限の面白さを与えてくれる斜面なんです。ものすごい不安を抱えて滑るけど、全身全霊でクリアして滑りきった時の気持ちの美しさは例えようもないんです。

RISHIRI

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THE KINGDOM OF SNOW

RISHIRI
  • PHOTOGRAPH:Tempei Takeuchi
  • RIDER:Shinya Nakagawa,
    Ayano Onozuka,Kenji Kono
  • INTERVIEW & TEXT:Toshiya Muraoka

渡辺 わたなべ 敏哉 としや
利尻山を語る

利尻島出身。二〇〇三年から利尻山のバックカントリー開拓を始める。現在、ペンション〈レラモシリ〉と共に〈利尻自然ガイドサービス〉を経営している。冬季のバックカントリーだけでなく、夏季の登山やシーカヤック、サーフィンなど、四季を通じて島の豊かな自然環境を遊ぶためのガイドを行っている。著書に『利尻 花登山』(北海道新聞社)がある。

利尻山の特徴を教えてください。

こんなに小さな島で、こんなに標高の高い山があるところって、日本国内だけでなく世界的に見てもないんですよね。海に囲まれている分、気象条件が厳しかったりもする。でも、逆にその弱点を上手く突いていけば、楽しめる場所があるんです。登ってもいい、眺めてもいいし、アルパインクライミングもできるし、山スキーもできるっていう、四季を通じていろんな遊び方ができる山だと思ってます。

弱点を突くというのは、どういう意味でしょう?

島はとにかく風向きが重要で、どこかに必ずいいところがあるんです。例えば北風が吹くと南側のあの尾根筋がいいとか、風裏を常に探している感じなんですよね。今いる場所がたとえ吹雪いていても、二〇分もクルマで走れば、風のない、いい雪が溜まっているところがあるんです。地元のスキーヤーはみんなだいたい分かってる。過去のデータが頭の中に入っていて、「こういう時は、あそこがいいんだよな」みたいな感じで、島の弱点を突いているんです。

雪の利尻山には、どれくらいの選択肢があるんですか?

僕らガイドが入ってアプローチするエリアは八本あります。八本ある登山口の中から、一番コンディションが良いところに入っていきますが、それぞれの登山口からだいたい左右に尾根があるので、ざっくり十六エリア。さらに、北向きだったり南向きだったり、斜面方位もそれぞれ違います。十六エリアの中から斜面方位と風向きを考えて、毎日チョイスしている感じですね。利尻山は、標高一四〇〇メートル以上は別世界なんですよ。一二〇〇から一四〇〇メートルまでと、最後の頂上付近の三〇〇メートルはもう別次元なんですね。

別次元になるとは難易度が劇的に高くなるんですか?

尾根が非常に細くなるんです。さらに気温も風も読みづらくなる。上に行くほどに要素が絡み合って複雑になる。

一三〇〇メートルまでは経験を積めば、ある程度まで予測できる?

はい。そこから上が本当にシビアで、さらに雲もつくんです。下はすごく晴れていてピーカンなのに、最後の三〇〇メートルだけは雲の中っていうことが頻繁にあるんです。視界がないと滑れないし、楽しくないじゃないですか。視界があるかどうかは非常に重要なポイントだけど、最後の三〇〇メートルの雲は、なかなか読めないんですよね。

雲が常にかかっているわけではないんですね。

雲が取れるときも、もちろんあります。逆に「え?なんで雲ないの?」っていうときもあるんですよ。とにかく予想が、めちゃくちゃ難しい。

昨シーズンは雪が少なくて、なかなか難しいシーズンだったと聞きました。

特に二月中盤からずっと新しい雪が降らなくて、でも風は吹くから雪が飛ばされて、全体的に硬くなってしまった。三月に入ってからはだいぶ良くなりましたけど。利尻山は独特な山なんですよ。独立峰であれだけギザギザしている山ってあんまりない。北海道の独立峰だと羊蹄山がすぐ浮かぶと思うけど、いわゆる裾野が広がった綺麗な富士山のような形をしているじゃないですか。利尻山は羊蹄山と比べると本当に対照的で、山の上部の土壌がすごく脆くて、気象条件も厳しいから、土とか石がどんどん崩れていって今の形になっているんです。マグマが冷えて固まった、いわば山の骨組みが尾根に全部むき出しになっているようなもの。だから尾根が細くて、深い沢が多くあるんです。本当に珍しい山だと思います。

今でも山の地形は変わっているんですか?

もう、毎日のように崩れています。ドッカンドッカン、山のどこかしらが。でも、マグマが冷えた岩脈が表に出てきたら、それ以上は崩れない。だからこの島の北と南で山の景色、全然違うんですよ。北から見るとなだらかな山だけど、反対に南から見ると鋭い尾根、岩峰がいっぱいあって。あれは島の骨組みなんです。

南風によって、侵食されていったんですか?

南側って、日射が当たるじゃないですか。日射が当たると雪が溶けて、岩の隙間の氷が溶ける。で、朝晩に冷え込むと、その溶けた水が氷になる時に膨張する。それで、どんどん崩れてしまうんです。結果、険しい山になっていった。北側は日射が当たらないから、なだらか。当たり前だけどこの原理は、滑る際のコンディションにも関係していて、東側に入ると右側のスロープは思いっきり南を向いているから、日射が当たって雪が溶ける。だから、午前中しか楽しめないんです。でも、左側の北向きの斜面ならば日が当たらないから一日中、雪の状態がいいんですよね。

一日の中でも、天候や風向きが変わることも多いはず。その変化する風を読むことは、すごく難しいですよね?

利尻島は、円錐形なんです、大きく言えば。円錐形って、テントを考えればわかるけど、風に強いんですね。面で当たらないから。山全体を巻き込むように風が吹くんです。例えば北風が吹いている時に一番風が強いところって、北側だと思いますよね?
でも、実は南東側と南西側だったりするんです。なぜかと言えば、もともと吹いている北風プラス、標高の低い尾根を越えて吹き下ろした風が合体してくるから。北側が風速一〇メートルだとしたら、南西と南東は十八メートルとか、倍近くになったりするんです。そういう島特有の、癖みたいなものがあるんです。

その癖と天気予報の情報を重ねながら当日のコースを決めるのですね。

あとは雲の流れ方を見て、予報との誤差を読んで、エリアを変えたりすることもありますね。雲と、それから海の白波もすごく参考になります。山を見て、海を見て、どこに行くべきかを判断する。海を見れば、自分たちのいる場所が風をかわしているのかどうか、すぐにわかる。例えば南風が吹くと、北側は風がない。でも、その南風が強くなるほど、島の裏側の無風のエリアが狭まってくるんです。海の色が全然違うから、風が吹いているかどうかは、すぐにわかる。「無風のところが狭まってきた、やばい、風が強くなってきたぞ!」って変化がハッキリと可視化される。すると、そのあとにバーッと風が吹いてくるんです。それに、島一周がちょうど六〇キロなんで、まあ一時間でぐるっと回ることができるから、一番遠い地点までが三〇分。すごく効率的で移動も楽なんですよ。そういう意味では、風を読んで、すぐに移動できるっていうのも、島ならではのスタイルかもしれない。その日の遊び場を探すには、ちょうどいい大きさなんですよね。

雪質にも特徴がありますか?

海から近いぶん水分があって、あと風も強いから空中で雪と雪の結晶がぶつかるので、多少、氷化して硬くなったウィンドパック系の雪も多かったりしますね。でもその日の場所によって大きく変わりますから。良い時は本当に素晴らしいです。

利尻にやってくる人々は何を求めてきていると思いますか?

雪質よりもロケーションでしょうね。雪山を登りながら振り返ったらずっと海があって、ここから滑るよって言ったら海に向かって行くわけですから。滑り終わって帰ろうとしたら、道路の向こうはもう海なわけで。気象条件が厳しいからこそ、ドーンと抜けた時の景色は本当に美しい。今でもシーズン中に何度も鳥肌が立つ時があります。うわ!きた!みたいな。ガッスガスの状況から抜けていく瞬間が大好きなんですよ。まったく周囲が見えていなかったのに、風が変わって徐々に山肌が見えてくる瞬間とか未だに感動しますね。こんなにずっと続く急斜面もなかなかないですしね。斜度が急ですよね。それから標高差をこれだけ滑れるところも少ないかもしれない。四三度くらいの斜面が五〇〇から七〇〇メートルまで続くところは世界でも珍しいと思いますよ。「人生最高の一本だった」というスイス人もいますからね(笑)。

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