Interview

「あるべきマラソン大会の姿」
ランナーズウェルネス代表

坂本雄次氏

湘南国際マラソンの立ち上げから携わり、現在も事務局長として大会運営を行う坂本雄次さん。「24時間テレビ」のチャリティーマラソンのトレーナーと言えば、ピンとくる人も多いだろう。海外の大会にも精通する彼が見据える、これからのマラソン大会の姿とは。

脱サラして、マラソン大会の運営会社を起業

坂本さんが代表を務めるランナーズ・ウェルネスでは、一人でも多くの人に、肉体的にも精神的にも健康であってほしいと願い、さまざまなマラソン大会を企画・運営している。実は、坂本さんの前職は、電力会社のサラリーマン。なんと退職したその日に成田空港へ向かい、トレイルランニング大会の「アメリカンリバー50マイル」に挑んだ。

「45歳という、サラリーマンとして一番脂がのっている年齢でした。でも、当時は、人生という長い目で見れば、体力や根気があるうちに次のことをやったほうが悔いは残らないという気持ちが圧倒的に強かった。なんの当てもなかったですし、今思えば無謀ですけど(笑)、サラリーマンを辞めたことが失敗だったかどうかは、これから15年間、頑張った後に考えればいいやと脱サラしたんです」

起業を後押ししたのは、間寛平さんとの出会いだった。縁があって、246kmを制限時間36時間以内で走るギリシャのスパルタスロンをサポートすることになったのだ。現地では、ギリシャ語しか通じず、エイドステーションで困っている日本人ランナーを目にした。そうした海外での体験を活かし、現地の自然環境や地形、歴史的な背景までをもしっかり考慮したコースを設計した、富士五湖トライアスロン大会を開催する。

起業後は、ランニングプロデューサーとして、日本全国で大会を企画・運営することになるのだが、その間もずっと温めていたのが、生まれ育った湘南の地でのフルマラソン大会だった。

「僕自身は、学生時代の競技歴はゼロ。30歳から健康のために走り始めたんですが、走ることを覚えた頃から『いつかは国道134号線でフルマラソンを』と思ってました。葉山、逗子、江ノ島、鎌倉…と湘南ならではの景色を味わいながら走れる大会を、どうしても作りたかったんです」

マラソン大会の固定概念を打ち破りたい

2007年の第一回大会開催にこぎ着けるまでに、坂本さんが思い描いていたコース=国道134号線こそが、最難関の壁だった。

「地元のみなさんの生活に根づいた道を止めるというのは、至難の業であり、あらゆる方々の協力が欠かせません。まずは、必要となったのが、神奈川県警による道路使用許可です。国道134号線でやりたい一心で、アポなしで神奈川県警に行ったんですが、その時に対応してくれたのが、たまたま、警視庁で24時間テレビのチャリティーマラソンの一回目を担当していた方だったんです。スポンサーはゼロの状態でしたが、僕の素性を知ってる方に思いを伝えられるということで、実現に向けて大きく前進しました」

さらに、大きな力となったのが、地元選出の衆議院議員・河野太郎氏との偶然の出会いだった。

「もともと、40年以上通っている大磯の散髪屋さんと河野さんが顔見知りだったんですが、ある日、僕の練習コースだった湘南平の麓にある神社で出くわしたんです。当時、河野さんは法務副大臣であり、神奈川県の陸上競技協会の会長。我ながら、引きが強いと思いましたね(笑)。その場で、思いを伝えたところ、『いいじゃないか』と。こうした幸運が重なり、絶対に止めることができないと思われていた国道134号線で、念願だった湘南国際を始めることができました」

湘南国際マラソンを運営する上で、第一回目から変わらず念頭に置いているのは、「やってはいけないことを極力なくそう」ということだ。

「障害をお持ちの方も大会に参加できるように、短い距離ですが、ラウンドウォークを作りました。参加者のみなさんが走ったり歩いたりしながら行うパフォーマンスにしても、ほとんど制約を設けていません。応援にくるご家族、地元の方々、ボランティアで参加してくださる方々と、湘南国際マラソンに関わるすべての人たちに、この大会を〝表現の場″として楽しんでいただける大会にしたいんです」

環境に配慮した近未来型市民マラソン

湘南の豊かな自然を感じられる本大会らしく、ペットボトルを回収してリサイクルするなど、環境への対策も積極的に行ってきた。今回はさらに、画期的な給水方法を始める。

「参加者のみなさんに、マイボトルやマイカップを用意していただき、ご自身のタイミングで、給水車から飲み物を補充してもらいます。この新しいアクションによって、当たり前のように、環境によくない大量の紙コップやプラスティックコップをテーブルに並べるという、日本の市民マラソンの概念を変えたいんです。これからも、湘南国際マラソンでは、環境に配慮した、近未来型市民マラソンのあるべきかたちを追いかけていきます」