―まずは野口さんが、クライミングを始めたきっかけを教えてください。

「11歳の時に家族旅行でグアムに行った時、たまたまゲームセンターにクライミングの壁があったのですが、そこで初めてクライミングに出会いました。今になって考えると運命的な出会いだったなって感じますね」

―日本に戻ってからもクライミングができる環境が周りにあったのですか?

「最初はなかったので都内のジムに通っていたんですけど、しばらくして家から車で30分位のところにクライミングジムができたので、ずっとそこに通っていました。中学生になってからは、部活(陸上部)で忙しくなったので、すぐにトレーニングできるようにと、父が家に壁を作ってくれました。それからは家で登ることが多かったですね」

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2014年WCボルダリングで年間総合優勝を果たした。

―2008年(当時17歳)に初優勝するまでは順調でしたか?

「小さい頃はそんなに悩んだりすることはなくて、初めてボルダリングのワールドカップに出たときも初参戦2位だったんですね。その後は、優勝こそできなかったんですけど、優勝に近いところにはいました。2008年には初優勝、2009年と2010年には年間チャンピオンを取ったりと、順調すぎるほど順調にいっていたのですが、2011年、2012年、2013年の3年間は、年間チャンピオンを獲れなくて一番苦労しました。中でも2013年はポイント差で年間チャンピオンを逃していて2位だったんですけど、1回も優勝することもできなかったということもあって一番辛い年でしたね」

―勝てない時が続いたとのことですが、どのようにして克服したのですか?

「集中できていなかったのかな、という感じがしますね。単純に自分が優勝できるというイメージが湧かなくて自信がなかっただけだと思います。勝てないのが長く続いたので、途中からは成績が全く気にならなくなってきて(笑)。大会中何も考えないくらい自然に登っていて、気づいたら優勝していたという感じでした」

―例えばファッションは競技に影響したりするんですか?かわいいウエアを着るといい結果が出るとか……?

「今はザ・ノース・フェイスにユニフォームを作ってもらっていて、すべて指定なんですね。なので好きな服を着たらというのは全然ないのですが、ユニフォームは大会の時しか着ないので、着ると身が引き締まるというのはあります。あまり服にこだわれないので勝負ピアスとか、こだわるとしたらアクセサリー系になっちゃいますね。ネイルも毎回しています。ゲン担ぎというか一番力が入る。普段はあまり赤い服とか着ないんですけど、大会中、ネイルだけは2~3年くらいずっと赤かもしれない」

近年では外岩にも積極的に取り組み、日本の岩場で自己オンサイトグレード・日本人女性のオンサイトグレードを更新した。長い苦難を乗り越え手にした4度目のメダル

―女性アスリートならではの悩みってありますか?

「男性より女性のほうがすごく悩むだろうなって思います。海外の女性アスリートと話したことがあるんですけど、結婚や妊娠のタイミングとか、みんなすごく考えてるし、ある程度リミットみたいなことを考えて競技していますね」

―そこはご自身も考えているのでしょうか。

「考えますね。ただ実際私は考えるよりも感じるほうで、やりたいことを優先していますね。本当は30歳になった時のことも考えないといけないのですけど、それよりも難しいこと考えずに、今は登りたいから登ろうかなって思っています」

―結婚のイメージってありますか?

「結婚してもたぶん何も変わらないと思います(笑)」

―自分に子供が生まれたら同じことをさせたいですか?

「あまりさせたいなとは思わないですけど、好きになってくれたのならサポートしたいなって思います。でも無理やりやらせたいとは思わないですね」

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―何歳くらいまで競技やっていると思いますか?

「登りたいなって思う限り、ずっとやっていると思います。コンペに出はじめて10年くらい経つんですけど、毎年同じようなスケジュールなんですよ。4月にシーズンが始まって、11月までワールドカップに出て、それから岩場に行ってトレーニングが始まり、また4月になったらシーズンが始まるっていうのを10年くらい繰り返してきたんで、大会がない日常をあまり想像できなくて。今は年間ランキングを気にしているので全戦に出場しているんですけど、それが徐々にスポットで出るようになって、15戦が10戦、5戦になって最後1~2戦になる、というふうに割合が変化していくだけだと思うんですよね」

―競技以外でいうと、外岩にも興味がありますか?

「そうですね。これからもっと外岩に行きたいなって思っています。この3年は優勝できなくて、もう一回チャンピオンを取るまでやめられない、という気持ちでずっとやってきたんですけど、今年はそれもかなって満足しています。やめたいなとは思ってはないですけど、もし今やめたとしても後悔はしないと思います。競技をやらなくても、行ってみたい岩場とか登ってみたい課題とか、他にやることたくさんあるので。大会では、そんなに難しい課題はでないんですよ。持ち時間が4、5分と決められている中での勝負なので。もっと1〜2か月かかるくらいの大きなプロジェクトに挑戦してみたいなと思います」

―このインタビューを読んで、初めてクライミングを知ったという人もいると思うのですが、改めてクライミングの魅力を教えて下さい。

「クライミングを楽しめる施設は都内にもたくさんあって、運動しやすいTシャツと短パンさえ持って行けば、靴やチョークなどは全てレンタルできるので、仕事終わりなどにいいと思います。本当に身一つで遊べますね。指先から足の先まで使いますし、考えないと登れないのですごく頭も使います。クライミングほど全身使う競技はないんじゃないかな。
登れない課題を目の前にして、最初はどのように登っていいかもわからないし、想像もつかないけど、トレーニングしていくうちに、“もしかしたら登れるかもしれない”と“やっぱり登れないかもしれない”を繰り返しながらも登れた瞬間の達成感が一番楽しい。クライミングを通して自分の成長を感じられるところが魅力ですね」

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―最後に、野口さんと同じように、“戦っている女性”へ向けてメッセージをお願いします。

「そうですね。妹が今年就職して社会人になったばかりなのですが、話を聞くと色々と大変そうです。そういう人にアドバイスするというのはすごく難しいのですが、“自分のやりたいことを頑張っている”のか、それとも“やりたくないけど頑張っている”のかでかなり違うと思うので、自分が好きなことを見つけてほしいなって思いますね。私ももちろん大変だったり、つらかったりすることもあるんですけど、ベースに“クライミングが好き”というのがあるので何でも乗り越えられるというのがあります。むしろクライミング以外は何も頑張れない(笑)。なので、自分が純粋に好きと思えることを見つけて頑張ってほしいと思います」

野口啓代 (AKIYO NOGUCHI)

1989年5月30日生まれ。小学5年生の時に家族旅行で行ったグアムでフリークライミングに出会う。翌年行われた全日本ユース選手権では、中高生を抑え優勝するなど瞬く間に頭角を現す。その後も国内外の大会で輝かしい成績を残し、2008年には日本人女性としてワールドカップ ボルダリング種目で初優勝、2009年からは2年連続で年間総合優勝を飾る。2013年にはスペインの「MindControl」8C+(5.14c)を完登。日本人女性最高レッドポイントグレードを更新するなど外岩での活動も積極的に行う。現在、ジャパンカップ9連覇、2014年は4シーズンぶりに総合優勝に返り咲き、日本が誇る世界屈指のクライマーとして活動中。