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未知への挑戦
#AYANA ONOZUKA_
SAYOKA HAYASHI_
PROFILE
小野塚彩那 / AYANA ONOZUKA
スキーヤー
1988年、新潟県南魚沼市生まれ。アルペンと基礎スキーから種目を変え、2014年、ハーフパイプ代表としてソチ五輪で銅メダル。ワールドカップでは2度の種目別総合優勝を果たし、2017年世界選手権では金。2019年、ハーフパイプ競技を引退し、現在はフリーライドで活躍。
PROFILE
林紗代香 / SAYOKA HAYASHI
編集者
1980年、岐阜県生まれ。大学卒業後、いくつかの雑誌編集部を経てトラベルカルチャー誌『TRANSIT』に創刊時より参加。女性向け旅雑誌『BIRD』編集長を経て、発刊34号より編集長を務める。2019年にはTRANSIT初の写真集を2冊発売。最新49号は『美しき消えゆく世界への旅』特集。

昨年、「#SHEMOVESMOUNTAINS」の一環として東京・原宿で開催された「#SHEMOVESMOUNTAINS EXHIBITION」。その中で、キャンペーンに登場した方々を含め、さまざまな分野で活躍する8組が登壇したトークショーが開催された。スキーヤー・小野塚彩那と編集者・林紗代香。ともに旅を日常とする二人が思う「未知への挑戦」。

林紗代香(以下林) 旅というフィルターを通して、世界の歴史や文化を伝えるトラベルカルチャー誌『TRANSIT』の編集長をしている林です。よろしくお願いします。ちょうど夏休みでコーカサスにあるジョージアという国を旅していて、つい昨日帰ってきたところなんです。ジョージアはスキーが盛んな国とのことでしたよ。

小野塚彩那(以下小野塚) ですよね。お話ぜひ伺いたいと思ってました。

ゲレンデがあるわけではなくて、どこでも滑っていいという自由なスタイルだそうです。今回、私は山のほうには行っていないんですけど。ひたすらご飯を食べて、温泉もあるところなのでゆったりと過ごしました。

小野塚 すごく魅力的ですね。わりと簡単にいろんなスポットにアクセスできるという情報を聞いて、行ってみたいねっていう話をちょうど今週していたところで。

スキーをしない方も、リフト1回分のチケットがあるから、高いところまで登って、食堂やバーみたいなお店でビールを飲んで帰ってくる人もいるそうです。

小野塚 いいなあ〜すぐにでも行ってみたいです。あ、私の自己紹介。みなさん、本日はお越しいただきありがとうございます。スキーヤーの小野塚彩那です。今年の1月までは、「ハーフパイプ」という競技をやってきましたが、今は、山を滑る「ビッグマウンテンスキー」という競技をやっています。競技といっていいのかな? でも、大会もあって、去年はワールドツアーを回らせていただきました。林さんは旅から帰ってきたばかりとのことでしたが、私は、今日この後、成田からアメリカに向かいます。

何時間もかけて山を登って、スキーで滑り降りる、実際に滑る時間はどれくらいなんですか?

小野塚 8時間半登って、滑るのは1分半ぐらいです。

8時間半もかけて、一瞬なんですね。その一瞬のために。よく滑りに行く国はありますか?

小野塚 アメリカが多いですね。あとは韓国、ロシア、フランスとか。あと、スペインも行きました。ハーフパイプの試合は1試合が1週間ぐらいと、長い。だからそれほど頻繁にはやってないんですよね。あと、スキーができる国は大体決まっています。ハーフパイプという人工物がある場所も大体決まっていたので。

シーズンは?

小野塚 北半球であれば、日本と同じシーズン。たとえばニュージーランドは南半球なので、こちらの夏がハイシーズンですね。

なるほど。寒い季節を追いかけて転々としているというか、旅をしながら滑っている印象があります。暖かいところが恋しくなりませんか?

小野塚 そうですね。1年のうち、1回は暖かい場所に行くのは理想ですね。去年は、シーズンがひと段落した5月にリフレッシュを兼ねてハワイで2週間ぐらいトレーニングをしながら過ごしていました。それくらいですね、スキーを持たないで行った旅行は。

移動の目的は、やっぱり滑ること。

小野塚 そうですね。ただ、現地の方々と関わったり、食事をしたり、山を降りてからの貴重な経験もたくさんありますね。

私も少しだけ雪山を登るんです。山に詳しい友人と一緒に自分が安全だと思える範囲で。そこは、自分たちの他にも登山客の方が歩いています。一方で、さきほどの映像を見ていると、周りに人が本当にいないじゃないですか。どこを滑るのか、自分で選ぶんですよね。

小野塚 状況的に滑れないエリアもありますけど、基本的にはどこ滑ってもオーケーで。

滑れる、滑れないの判断というか、この角度なら大丈夫、この雪質だったら滑れるとかさまざまあるかと思いますが、フィールドで感じる「恐怖心」は、小野塚さんにどのように影響するのでしょうか? 怖いもの知らずなのでは、と思ってしまいます。

小野塚 いえ、恐怖心はあったほうがいいと思っていますね。山も、ハーフパイプもそうですが、恐怖心がなくなると必ず事故につながるんですね。不自然な気持ちのもっていきかた、というか。なんて言うのか、ぷつっと糸が切れたような状況に陥ってしまう。恐怖心って、自分の緊張感を保つものなんですよ。転んだらどうしよう、怪我をしたらいろんな人に迷惑かけちゃうな、という不安はいつも頭のなかにありますし、緊張感があるからこそ、ここはこのぐらいでターンして、このスピードぐらいだったら大丈夫、という判断を瞬時に考えていける。

恐怖を無いことにしたり、克服するのではないんですね。でも、その「怖い」という気持ちを持ちながらも一歩踏み込んでいく。その原動力はどういったところにあるのでしょうか?

小野塚 それまでと違う自分が見たいというか。急斜面をクリアできた自分、いろんな雪質を滑ることができる自分に出会いたいですね。恐怖心はあるし、リスクもつきまとうけれど、それ以上に、スキーヤーとして向上したい気持ちのほうが強い。経験したことのないことへの挑戦が、スキーヤーとしてのレベルアップにつながると思っているんです。

なるほど。滑っているときは、「楽しい」という感覚もあるんですかね。

小野塚 この映像を撮影したときに関しては、楽しいという感覚はなかったですね。なぜかというと、やっぱり危ないんですよ、本当に。難易度の高い雪質というか。映像のなかでも、ターンをしながら、スキーとスキーが重なっているんですけど、これ、かなり危険な状態です。だから、滑っていたときは絶えず緊張感が張り詰めていました。旅でも、そういったシリアスな状況ってありませんか?

それはありますね。たとえば、ガイドブックに載っている場所を歩くときなら、なんとなく安心感があります。お店の様子や、どんなことができる場所なのか、ある程度予習できている。でも、普通は旅行者が立ち入らないような場所に行くときは緊張しますよね。もしかしたら危険な人がいるかもしれないし、言葉も分からない場所で誰かに連れ去られたら、あっという間に消えてなくなるというか。誰も私のことを知らないし、見つけてくれないんだろうな、っていう。

小野塚 そこで暮らしている人はいても、自分と関係のある人はいない、っていう状況ですね。

そういうシリアスな状況では、私も恐怖心を無くしたら終わりだと思っています。無謀なことはしないようにしたい。恐怖心はその判断基準になるというか。ある場所を歩いていて、この一角、なんか不穏な空気を醸していると感じられたら足を踏み入れない。でも、知らない場所には行きたいんですよ。海外で声をかけられて、家に遊びにおいでよって言われたらついていくこともあります。

小野塚 本当ですか。

人をちゃんと見て、この人は信じられるなっていうときだけですが。もちろん、自分の感覚でしかないので危険は常にありますけど。でも、違う景色を見られたり、自分にしかできない体験ができるんじゃないかと期待して。好奇心ですよね。

小野塚 私には旅先で初めて出会った人についていく勇気はない気がしますね。現地で過ごすホームステイ先の方だったりも、人づての紹介で信用できる人じゃないと怖く感じてしまいます。

その感覚は、プロフェッショナルですよね。もちろん、私も仕事で海外に行くときには、知らない人についていったりしません。危険そうな場所へのアンテナも敏感にしておきます。それこそ、お腹を壊したら、仕事ができなくなる。だから屋台のものは食べないで、きちっとしたレストランで食べる。仕事で行くときはまず仕事が第一です。ただ、プライベートのときには、風邪を引いたり、お腹を壊すぐらいであれば大丈夫(笑)。流されてもいいかなというスタンスで、すこし無茶をするというか、好奇心を優先させたいですね。

THE NORTH FACE(以下TNF) 小野塚さんはビザの関係もあってアメリカに行く機会が多いようですが、ヨーロッパをはじめ、別のフィールドに興味はありますか?

小野塚 そうですね。ヨーロッパとか新天地には挑戦したいですけど、まだ山を知らないので。一緒に滑れる人を見つけるのが大変だなと。ヨーロッパには氷河があるのですが、「はい、クレバス見れました。さようなら」では話にならない。家族もいるし、そういった分かりきったリスクは負わないようにしたい。もちろん興味はありますが、今はアメリカでの環境が整っているので、それを活かしたいですね。

TNF 先ほどのお話にもありましたが、林さんは仕事柄、いわゆる観光スポットではない場所に行かれることも多いかと思います。新しく行く場所が決まったら、どのように取材を進めていくんでしょうか?

まずは現地在住の方に事前にリサーチをします。日本人の方だったり、海外の方だったり。現地の情報を頼りにしつつ、その国のことを知るために、現地でできることはなにかを念頭にロケーションを考えていきます。1冊の雑誌に大体4、5本は現地取材の企画があって、テーマごとに、たとえば、食事にフォーカスした記事を作ろうと思えば、そこに焦点を絞った取材をしていきます。

小野塚 お聞きしてみたかったんですが、雑誌内の記事のためとは別に、ご自身のなかで持つ「旅のテーマ」みたいなものはあるんですか?

実は、私はあまりないタイプなんです。それこそ、8年ぐらい前にアメリカ横断をしたことがあって、友人に目的を聞かれたんですれど、「いや、ただ、横断したかったから」みたいな。行く前に自分なりの旅のテーマや目的を決めることはあまりないかもしれません。でも、実際にそれをやってみると、州ごとの雰囲気や文化の違いを肌で感じられたのがおもしろかったり、いろいろ思うところがある。あの多様性がひとつの国として固まっているというのが不思議だったり、疑問点に気づけるのも楽しかったですね。

小野塚 なるほど。林さんはこれまでにたくさんいろんな旅をしているかと思うんですが、この旅はそれまでと大きく違ったなと思った旅はありましたか? 発見がすごくあった旅。

よく、インドに行くと人生が変わるって言うじゃないですか。私も、衝撃を受けたのはインドしたね。ヒンドゥー教によって世界が回っているというか。信じてるものが違うと、考え方や行動、あれほど違うのかと衝撃を受けて。でも、インドが一番面白かったのは、自分が怒ったり、悲しかったり、ハッピーだったり、自分自身の喜怒哀楽がすべて出たところなんです。

小野塚 すごくおもしろい。私には、インドって、死と向き合っているイメージがあるんです。それについてはどうでしたか。

インドで、死は非日常ではなく、日常でした。たとえばガンジス川は最高の死に場所なので、死を待つ人がたくさんいる。朝日や夕日を見るために観光でボートに乗っていると、その横を死体が流れてくる。死体を包んだ白い布が川を流れていく。

小野塚 言葉を失います。

自分の「旅のテーマ」とはまた違うかもしれませんが、宗教や信仰、そこに暮らしている人が何を大切にしているのかは、旅先でいつも気になっています。だから、人生において大切にしていることが何か、結構聞きますね。大げさな意味ではなく、普通に何を大事にしているのか。それを聞くことで、その人が住む世界についてすこしだけ見えてくるものがあると思うんです。小野塚さんは、スキーで訪れた国でスキー以外に意識的にやっていることはありますか?

小野塚 できるだけ現地の衣装を着てみるとか。あと、地元がスキー場なので、スキーリゾートを見て回るようにしています。衰退しつつある地元のスキー場をどうにかできないかと、外国の方法を真似するのは難しいかもしれませんが、学びに行く気持ちで。

スキーリゾートの活性化に貢献したいと考えているんですか?

小野塚 そうですね。私は、自分の経験を生かしてキッズたちの育成がしたいんですよ。だからスキー場で運営されているようなスキークラブを見に行くこともあります。アメリカのスキー場では、アルペンもあれば、フリーライドもあれば、フリースタイルなど、さまざまなタイプのスキーチームが成り立っていて、コーチたちもしっかりそれで食べているんですよね。運営方法を学んで、子どもたちに還元したいと思っているから、コーチにもコンタクトを取って、子供たちに何を教えてるのか、年齢層はこれぐらいでとか、どれぐらい練習するのか聞いたりして。生々しいお話ですが、お金のことも聞きます。世界での基準を日本に持って帰りたい。

かなり具体的に。

小野塚 そうですね。

将来、後に続く子たちのための環境づくりのためにも動かれている小野塚さんに、このSHE MOVES MOUNTAINSの企画の大事な質問として最後にお聞きしたいのですが、小野塚さんは、ご自身の未来をどういうふうにしていきたいですか?

小野塚 刺激的な人生でありたいなって思っていますね。刺激的なスキーとか、旅をし続けたいなと思います、これからも。林さんはどうでしょうか?

私は、好奇心に突き動かされていたいな、と思いますね。心で動いていたい。

小野塚 私も、スキーのためにこれからも旅を続けると思います。行く場所が決まったら、その国を楽しむポイントとか、おいしい食べ物だったりを林さんに教わりたいです(笑)。

ぜひ! 役不足かも知れませんが(笑)。明日からのアメリカ、楽しんできてください。