水の輪
名もなき沢を上り、小さな泉に辿り着く。泉の中心には滾々と湧く水が、とろりとした輪の波紋を絶え間なく描き出す。水はここにたどり着くまでに、どんな旅をしてきたのだろう。
今回のテーマは「水の循環」です。水は雨や雪、霧や水蒸気へと常に姿を変化させながら地球上を循環しています。雨が森林に降り注ぎ、長い年月をかけて地球の奥深くへと浸透します。土壌の幾層ものフィルターを通り抜け、地下水となって貯まります。やがて地表に出て湧水になったり、川に浸み出したり、海へ行くのです。海では太陽により暖められ水蒸気となり、上昇して雨を含んだ雲に変化します。こうした雨や山を通じた長い年月の水循環プロセスは、蛇口から出てくる水を見ても想像するのは難しいでしょう。
地球にある淡水の割合は、氷河、河川や湖沼、地下水を含めてもわずか3%程度です。私達人間は飲み水や、食料を作るための水なしで生きていくことはできませんが、地球全体の資源で見るとほんのわずかな資源に頼って生きているのです。
しかし、水循環の輪は壊れつつあります。世界中に穀物輸出を行っている大規模農場では、干ばつの影響で大量の地下水のくみ上げが行われており、近い将来地下水が枯渇するという推測が出されています。今後も異常気象の影響から、慢性的な水不足によって農業生産者、消費者が苦しむことは想像に難くありません。更に水へのアクセスが難しい国々では、これまで以上に衛生的な飲み水を得ることが困難になっています。厚い氷で覆われていた山々も気温上昇で氷が解け出し、川が氾濫して下流域での暮らしを追われた人々もいます。これまで水循環のバランスにより暮らしが保たれていた事という事実が、日に日に浮き彫りになっているのです。
全ての水は繋がり、循環しています。水の惑星での暮らしを存続させるために、私たちは何をすべきでしょうか。日々の食べ物、山の環境や気候変動にも注目する必要があるでしょう。深く湿った森だけにひっそりと暮らす着生植物や、渓流できらめく魚たちを守ることは、最終的には地球を取り巻く地球の水の輪へ想像力を働かせることと同じなのです。