すみだ水族館と共に向き合う小笠原諸島とアオウミガメの現状
Clean Up #2

すみだ水族館と共に向き合う小笠原諸島とアオウミガメの現状

すみだ水族館
すみだ水族館
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『すみだ水族館』は、“水族館のある暮らし”を目指す水族館です。 小笠原諸島の海をテーマにし、彩り鮮やかな魚が群れを成して泳ぐ「小笠原大水槽」や、ペンギンやオットセイの息づかいが間近に感じられる国内最大級の開放型水槽、 約500匹のミズクラゲが漂う幻想的な水盤型水槽「ビッグシャーレ」など見どころ満載です。また、いきもののゴハンの準備を行う「キッチン」や、クラゲの飼育・繁殖活動を行う「ラボ」では、いきものへの理解を深めていただくことができ、水族館での楽しみ方が広がります。

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生き物が息づく美しい海や浜辺には、ペットボトルやマイクロプラスチック、魚網などの海洋ゴミをはじめ、冷蔵庫などの大型ゴミも漂着しています。美しい海を取り巻く環境が健康でなければ、生命も健康に生きていくことが難しくなってしまいます。

小笠原諸島は、絶滅危惧種に認定されているアオウミガメの国内最大の産卵地です。しかし、砂から這い出した子ガメが漁網などの大きなゴミのかたまりに入って動けず、衰弱死してしまうことや、マイクロプラスチックや漂流するプラスチックバッグを食べてしまうなどの事故が発生しています。これらの事故を防ぐために、小笠原では清掃活動をはじめとした保全活動が行われており、ヘリーハンセンでは、海洋ゴミ(ペットボトル)をアップサイクルし商品化をすることで、その利益の一部を保全活動に充てることで貢献していきます。

アオウミガメに関わるこれらの活動には、どのような思いが込められているのでしょうか。今回は、小笠原の海を守る活動に携わる方々やすみだ水族館の方へのインタビューを通じて、その背景や思いをお伝えします。知ることが、未来への大きな一歩へと繋がっていくことを祈って。

「私たちが暮らす場所を大切に守る」
という意識を広げるために

ーNPO法人 小笠原海洋研究会(BOISS) 猪村 真名美さん

すみだ水族館と共に向き合う小笠原諸島とアオウミガメの現状

平成19年に、海ゴミ事業と昆虫やトンボなどの保護をする昆虫事業からスタートした小笠原海洋島研究会BOISSは、むこ島と父島列島を対象に海洋漂着ゴミの回収やマイクロプラスチックゴミの回収、海岸清掃を通じた教育活動を行っています。

さらに小学4〜6年生中心の清掃グループ「KAHAKAI KIDS」(海辺の子供達)を立ち上げ、色とりどりのマイクロプラスチックを集め、海ゴミから地球儀を作るなどの“海ゴミをアートに変える”ワークショップも行っています。子どもたちに知るきっかけを提供できるだけでなく、自分たちが集めたプラスチックゴミが価値のあるものに変わるという体験を通じて、興味を持つ次世代が増えて欲しいと考えています。

島やビーチの現状や活動を、多くの人に知ってもらいたいですね。自分たちが出しているゴミが自然環境に与える様々な影響を知り、体験を通じて考えてもらいたいです。浜辺に流れついているものは、私たちが日常生活で排出しているものだからこそ、後始末を行うという意識が重要です。

海ゴミの現状や私たちの活動を知ってもらうためには、持続可能な団体として活動を継続する必要があります。組織として調査研究を続けられることや、雇用を生み出し、ごみ活動を通した次世代の育成を目指しています。活動と情報発信を通じて、「私たちが暮らす場所を大切に守る」という考えや意識が多くの人々にとって当たり前となることを願っています。

アオウミガメの正しい情報を、
適切な形で伝えていく

ー認定NPO法人 エバーラスティング・ネイチャー(ELNA)・小笠原海洋センター 近藤 理美さん

すみだ水族館と共に向き合う小笠原諸島とアオウミガメの現状

小笠原海洋センターを運営する「エバーラスティング・ネイチャー(ELNA)」は、1998年8月にアジア地域の海洋生物や海洋環境を保全していくことを目的に設立されました。未だ解明されていないアオウミガメの生態解明に取り組むだけでなく、教育や普及啓発も行っています。

実は、ウミガメは孵卵時のある一定期間の砂の温度で性別が決定します。温暖化によって砂浜が温まるとメスが増えてしまい、将来的に性別が偏って繁殖できなくなるのではないかと言われています。開発が進む場所では砂が流されてウミガメが産卵場所を失うなど、様々な理由によってウミガメの数が減少してしまうのです。

また、アオウミガメの赤ちゃんは光に寄っていく習性があり、通常は海に照らされた月の光を頼りに海へと帰るのですが、市街地に近いビーチには外灯などの人工光が届くため、車道へ侵入して命を落とすケースもあります。このような事故を未然に防ぐために、海洋センターでは孵化前に保護し、産まれた後に安全に放流する取り組みや夜間パトロールなどを行っています。

調査によると、アオウミガメのお腹の中からは9割以上にも及ぶ割合で大量のプラスチックゴミが見つかっています。ゴミがアオウミガメに与える影響は未だわかっていないことが多く、ウミガメの体にとって私たちの想像以上に深刻な問題が存在している可能性もあります。情報が溢れている世の中だからこそ、正しい情報を適切に伝えていくことが重要だと考えます。

アオウミガメは推定寿命70〜80年と長寿命な生き物で、成熟するには30〜40年もかかると言われています。そのため、長期的なモニタリングや調査研究を続けるためには、資金繰りや体制を含めた組織の土台をしっかりと作っていく必要があります。このような取り組みにおいて、すみだ水族館やヘリーハンセンから発信される正しい情報と合わせて、長期的な連携をしていくことが重要だと感じています。

自然環境を守ることは、
アオウミガメだけでなく島や人々にも良い影響を与える

すみだ水族館 展示飼育チーム長 柿崎 智広さん

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すみだ水族館がオープンする前年の2011年に小笠原村が世界自然遺産に登録されたことを受け、日本が誇るランドマークとして世界に発信する東京スカイツリー®と共に「すみだ水族館から世界に発信する、世界一の素晴らしい海を。」を掲げ、小笠原の青い海と豊かな生き物を伝えるため、小笠原大水槽を中心に完成しました。
大水槽は現地のダイバーや関係者の方々のご協力のもと、小笠原の青い海や多様な種類の魚、美しい岩組を忠実に再現しています。

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小笠原を代表する貴重な生き物であるシロワニ(サメの一種)を始めとして、小笠原諸島周辺海域に良く出現する黄化したミナミイスズミやヨスジフエダイの群れなどを飼育しています。特にシロワニは小笠原の海のシンボル的な存在であり、小笠原の海を紹介する上で欠かせない存在です。
また、すみだ水族館では小笠原諸島で生まれたアオウミガメの赤ちゃんを約1年間育て、その後生まれ故郷の海へ還す活動を行っています。アオウミガメの生存率があがるといわれるサイズまで育てながら日々成長する姿や毎年小笠原の海へ還っていくようすを発信することで、、多くの人々に自然との繋がりを感じてもらいたいのです。それが身の回りの生き物や自然を大切にする心を育み、行動へと繋がるきっかけになるのではないかと考えています。

すみだ水族館と共に向き合う小笠原諸島とアオウミガメの現状

今年の秋には新たな取り組みを通じてより多くの方々に小笠原の現状を発信していく予定です。

小笠原は、世界でも屈指の美しい海を持つ場所です。そんな美しい海を目にした時に、身の回りの自然について考えるきっかけになればと思っています。ゴミを取り除くことは、ウミガメだけでなく綺麗な島を保てることや、島で暮らす人々、他の生き物にも良い影響がもたらされるのです。私たちは自然から恩恵を受けて生きているからこそ、その自然を守っていかなければなりません。

水族館は、海や自然、生き物にまつわる情報を伝える役割を担っています。環境保全の大切さを発信しつつ、回収したプラスチックをアップサイクルして商品化する取り組みを通じて得られた収益を、現地の自然を保護する活動に活用する仕組みを生み出すことで、小笠原やウミガメ、美しい自然環境、関わる団体や人々を持続的にサポートできるのではないかと考えています。そんな取り組みを、今後もサステナブルな取り組み「AQTION!(アクション)」を通じて積極的に続けていきます。

Message

ヘリーハンセンは海や自然、生き物との共生を目指すブランドとして、すみだ水族館と共に小笠原の現状をより多くの人に伝えていきたいと思っています。

アオウミガメが産卵するビーチクリーン活動をはじめ、海洋ゴミを回収し、UpDRIFTで作ったTシャツをすみだ水族館で販売する。売上の一部を小笠原の環境保全活動への寄付や支援に活用することで、美しい海を守る取り組みに貢献していきたいと考えています。

すみだ水族館と共に向き合う小笠原諸島とアオウミガメの現状

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Words

アオウミガメ

大型のウミガメ。IUCN(国際自然保護連合)及び環境省により絶滅危惧種としてレッドリストに登録されています。大きくなると主に海藻や海草を食べ、甲羅の大きさは最大約100cm、体重は最大約200kg まで成長します。毎年春から夏にかけて浜辺で産卵し、約2か月後に孵化します。一度に平均100個の卵を産みますが、孵化した子ガメはカニや鳥、魚など天敵も多く、適した餌場にたどり着けないと餓死してしまうもの多く、成熟するまで生きられるものはごく僅か。成熟するまでには約40年かかると言われています。

マイクロプラスチック

マイクロプラスチックとは、5mm以下まで細かくなったプラスチックのこと。海を漂流・漂着するプラスチックごみは、時間が経つにつれ劣化と破砕を重ねながらマイクロプラスチック化します。その小ささ故に環境中での回収は困難かつ自然分解されることはありません。製造の際に化学物質が添加される場合や、漂流する際に化学物質が吸着するため、有害物質が含まれていることが少なくありません。これらを海洋生物が誤って食べてしまうことで内臓を傷つけ、命を落とすケースが増えています。既に世界の海に存在しているといわれるプラスチックゴミは1億5,000万トンと言われており、海洋生物への悪影響は測り知れません。

漁網問題

近年では、放棄、逸失、もしくは投棄されて海に流出した漁網が問題となっています。魚網をはじめとする漁具のほとんどがプラスチックでできており、世界の海で毎年50万〜100万トン流出していると言われています。これらは一度海に廃棄されると分解されることなく海に残り続けるため、ウミガメや魚、海鳥など、さまざまな海洋生物を絡め捕え、その命を奪っています。ひどい場合には何年間も苦しみ命を落とす問題が世界各地の海で頻発しているのです。

Text by Yukari Fujii @yukaringram / Directed by Shota Fujii @efgshota