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        誰かの拠り所となる居場所をつくる──小平奈緒が歩み出した、新たな一歩
        小平奈緒

        “PEOPLE” by NEUTRALWORKS.
        PEOPLE
        誰かの拠り所となる居場所をつくる──小平奈緒が歩み出した、新たな一歩
        さまざまな分野で活躍する人々への「READY」な状態を紐解くインタビューを通じて、日々の活動のマインドシフトをサポートするメディア“PEOPLE” by NEUTRALWORKS.。五輪金メダルを獲得するなどスピードスケート選手として第一線で活躍を続け、現在は相澤病院での勤務や母校信州大学での特任教授、各地での講演などを行う小平奈緒さんにインタビュー。アスリート時代から「READY」を繰り返してきた小平さんが、今抱いている思いとは。人との繋がりを大切にしながら真っ直ぐに生きる小平さんのココロとカラダとの向き合い方について、お話を伺いました。
        01
        日々のルーティンが心の時間軸を保つ
        ── 小平さんにとって、「ココロもカラダも心地良くバランスが取れている」と感じるのは、どのような状態ですか?
        私のニュートラルな状態は、80%ですね。選手の頃は、80%の努力感でも自分のベストなパフォーマンスが出せるという感覚がありました。だから、その80%を高めるための、100%を超えるトレーニングをしてきました。本番は80%でも大丈夫、というところが良いですね。
        ── 心地よい一日をスタートさせるために、意識的に実践されていることや大切にされていることはありますか?
        朝起きたら、まずエスプレッソマシンのスイッチを入れるところから一日が始まります。
        普段は大体5時半に起きて、コーヒーを飲みながら一日のスケジュールをチェックし、20分ほどお風呂に入って汗をかきます。その後、室内でエアロバイクを30分漕いで、シャワーを浴びて身なりを整えてから会社に行くのが毎日のルーティンです。自分の中のリズムを保つために一日30分は体を動かすようにしています。時間があれば朝のうちに散歩をしたり、縁側で日向ぼっこをしたりして、太陽の光を浴びるようにしています。
        今ではコーヒーを飲むことが習慣となっていますが、昔はコーヒーが苦手だったんです。
        選手時代にオランダへ留学した際、練習後に必ずチームメイトとカフェでカプチーノを飲みながら会話する時間があったことがきっかけで、コーヒーが好きになりました。その頃に、家族や友人と心豊かな時間を過ごすことや、心地よい場所や空間をオランダ語で「Gezellig(ヘゼリヒ)」と表現することをチームメイトに教わりました。それは、神経質だった私の心の時間軸をとり戻す習慣の一つになり、今でも大切にしています。
        02
        心身を整える時間は、体に根を張る時間
        心身を整える時間は、体に根を張る時間
        心身を整える時間は、体に根を張る時間
        ── 病院での勤務や大学での授業、講演など、めまぐるしい日々を送る中でココロやカラダのバランスが崩れたり、不安や焦りを感じることはありますか?
        何かに追われて自分のリズムを刻めなくなった時、ココロとカラダのバランスが乱れることがあります。その中で、先ほどお話ししたコーヒーはもちろん、太陽の光を浴びることが、自分のリズムを取り戻すための時間となっていますね。自分がコントロールできない状況に不安や焦りを感じることがあっても、ひと呼吸できる時間を持つことで、自分のペースを取り戻すことができるんです。時には諦めることも大事ですが、やりっぱなしするのではなく、整える日を作って元の状態に戻すことを常に意識しています。部屋を片付けたり、ストレッチで体を整えることが、心を整えることに繋がっているように感じます。心身を整える時間は、体に根を張る時間であり、それが休息に繋がっている感覚です。
        壁にぶつかった時、ただぶつかっているだけでは良い方向には進まないと思うんです。そこには、違いに対する違和感と、受け入れる気持ちがあることが重要なんだと思います。例えば、人間関係で嫌なことがあった時、距離を置くことは簡単ですが、その人の背景を想像したり、良い部分に目を向けることで、新しい見方が生まれることがあります。違いを想像することができれば、それは個性に変わります。壁にぶつかった時こそ、学ぶチャンスだと思っています。
        ── 様々な経験を重ねながら、ご自身の思考や感性を豊かに育んでこられたように感じます。現在の小平さんにとって、自己表現とはどのような意味を持ちますか?
        この生まれ持った体でできる最大限のことが自己表現なのかなと思います。スケートを通じて沢山の人と出会い、言葉を交わす場面を多く経験したことで、自分との対話の中で言葉が育まれ、それが今の自己表現の中の一つに加わった感覚があります。
        READY for Inside / Outside EVENT REPORT
        03
        地域の一員として、繋がりを大切に生きていきたい
        ── ご自身や人との対話を通じて培った価値観や思考を大切にされている小平さんにとって、豊かさとはどのような状態を指しますか?
        「刻々と変わりゆく今に、些細な幸せを見つけられる心の状態」です。祖母が亡くなる前によく言っていた「おお、生きているな」という言葉を、今でもすごく大切にしています。人は老いてくるとできなくなることや、恥ずかしくて他人に見せたくないことが増えると思うんですが、祖母はそんなことさえも「おお、生きているな」と言って笑い飛ばしていたんです。その大らかな言葉や表情こそが、豊かさだと思います。
        そこで、今私が「生きているな」と思える瞬間を書き出してみました。それは、朝日が気持ちよく感じる時、冷たい空気にスケートの匂いを感じる時、コーヒーのひと口目が美味しかった時、一人ではないことに気づいた時、誰かの親切に助けられた時、人の心の揺れ動きを感じた時、本の中から素敵な言葉を見つけた時、よく眠れた時…。こんなふうに自然の中で風や鳥の声、森の香りなどを感じた時、ふと言葉が舞い降りてくる時があります。自分の言葉で表現できると、心が穏やかになれる感覚がありますね。
        これまで、私は自然豊かな暮らしの中で景色を愉しんできました。経験も景色と同じだと思えば、雨が降っている時でも、視点を変えれば愉しむことができると思うんです。嬉しい出来事ばかりが豊かさなのではなく、苦しい時や痛みを感じる時にも、「生きている」と感じられることこそが豊かさなのではないかと思います。
        ── 人との繋がりを大切にされている印象がありますが、何かきっかけがあったのでしょうか?
        昔は人見知りで、人と喋るのがあまり得意ではありませんでした。中学生の頃、初めてスピードスケートの全国大会に出場することが決まった時、父が「とにかく沢山友達を作ってこいよ」と送り出してくれたことがあります。この言葉がきっかけで、人に話しかける勇気を持てるようになったんです。実際に人と話すことで、自分と同じような境遇を持つ人が沢山いることが分かり、みんな頑張っているんだという意識が励みになることが多かったですね。
        それ以降、人との繋がりを大切に生きていきたいという思いが芽生え、引退後はテレビの中の存在ではなく、地域の中の一人でいたいと強く想うようになりました。今では様々な人と出逢い、交流する瞬間が大きな喜びであり、すごく大切にしている時間です。相澤病院で様々な想いを抱えている人に出逢う中で、私にできることを考えた時、「そこにいること」が答えだと思いました。静かに寄り添うことが、 何よりもその人をその人らしくさせてあげられる方法なのではないかと。その人の暮らしの中で、私自身がそよ風のような存在でいられたら、もうそれで私の願いは叶っているのかなと思います。
        日々のルーティンが心の時間軸を保つ
        04
        今という瞬間に心を向け、愉しむこと
        ── これまで様々な挑戦を重ねてこられた小平さんですが、新しいことに取り組む時や挑戦する時、どのようにしてココロのスイッチを入れていますか?
        新しいことに挑戦する時、誰しも初めは初心者の段階からスタートするものです。だからこそ、自分の未熟さを恥じることなく受け入れることが大切です。未熟さを痛感することは、成長への第一歩だということを常に意識しています。また、分からないことがあれば、素直な心で周囲の人に助けを求めることも大切にしています。
        何か大きな夢を追いかける時、未来に目を向けすぎたり、失敗にとらわれて過去を見すぎてしまうこともあると思うんです。でも、自然を肌で感じることは、今この瞬間にしかできない。それが私の中のニュートラルになれる時間であり、「READY」になれる時間です。誰にでも「今」はあるから、先を見すぎて不安になったり、過去を振り返って後悔するのではなく、自分が今何を望んでいるのかに心を向けることが、未来を切り拓く上で重要なのではないかと思います。
        ── 気持ちやマインドセットの部分で、選手時代に培ったものが今の自分に影響していると感じますか?
        それは「愉しい」ということですね。心がしっかり動きさえすれば、辛いことも愉しめるんじゃないかと思います。上手くいかない状況をなんとかしたいから、辛いと感じるんだと思うんです。でも、そこで心の動きを止めることなく、考えて行動できる自分に誇りを持つことが、自分自身の内面を深めることに繋がるのだと思います。表面的な「楽しさ」ではなく、好奇心や興味を持った先にもう一歩踏み込んだ「愉しさ」があるということを、自分なりに伝えていきたいですね。
        ── 今後はどんな未来を見据えていますか?
        今後はスケート以外の分野で、アスリートの時に経験したような、心の奥から熱くなれるようなものに出逢えるのではないかと信じています。そのために、今はできるだけ多くの経験をして、多くの景色を見たいですね。この一年間は周囲の期待に一生懸命に応えてきましたが、今後は自分で企画したことにも取り組んでいきたいと考えています。例えば山小屋のような、いつでも帰ることができる、誰かの心の拠りどころであれるような場所を作りたいですね。自分を含め、誰かにとっての第三の居場所を作ることは、今の私ができることの一つだと思っています。
        05
        小平さんにとってREADYな状態とは、どのような状態ですか?
        今という時間を感じ、自然の音に耳を傾けられている時。
        小平さんにとってREADYな状態とは、どのような状態ですか?
        • LONG SLEEVE SMART BROAD BIG SHIRT
          KSU32155 ¥20,900   BUY
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        小平さんの「READY」を作るためのアクション
        01. コーヒーを愉しむ時間
        01. コーヒーを愉しむ時間
        生活と仕事、トレーニングの間にあるワンクッションが、「コーヒーを飲む時間」です。使用しているコーヒーミルは、大会で訪れたドイツのコーヒー屋さんで購入した思い出のもの。手に加わる引き具合や音、コーヒー豆の香りが、心を落ち着かせてくれます。
        02. 地元信州に身を置くこと
        02. 地元信州に身を置くこと
        信州は、「私を私でいさせてくれる場所」として支えになっています。いつでも帰って来れる場所があったから、安心して世界に羽ばたくことができたと思っています。
        03. 毎日30分は運動する
        03. 毎日30分は運動する
        朝一に脈を立ち上げるということを現役時代から続けています。この時間がないと、自分を保てないような気がして。選手の頃から、朝に太陽の光をしっかり浴びることを意識していたので、現在も日々のルーティンの中に散歩をとり入れています。日常から離れることで思考を整理したり、自然の香りを感じながら自分のペースを取り戻しています。
        04. 誰かと対話する時間
        04. 誰かと対話する時間
        自分ではなく、「誰かと」という部分を大事にしています。分からないことがあった時は、一人で考え込まず、すぐに周囲の人に聞くようにしていますね。助けを求められる環境や関係性も、すごく大切だと思っています。
        小平奈緒 Nao Kodaira
        1986年生まれ、長野県茅野市出身。
        3歳からスケートを始める。スピードスケート日本女子の短距離のエースで、女子500mの日本記録保持者。2010年バンクーバーオリンピック女子チームパシュートでは銀メダルを獲得。2018年の平昌オリンピック女子500mにおいて、オリンピック日本女子スピードスケート史上初となる金メダル、1000mでも銀メダルを獲得。国内外の大会で37連勝を記録するなど、第一線で活躍を続け、2022年の全日本距離別選手権大会500m優勝をもって現役を退く。現在は、相澤病院のブランドアンバサダー、母校である信州大学の特任教授として、各地で講演を行うなど、人や心をつなぐ様々な活動を行っている。
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        小平奈緒 Nao Kodaira
        今回の小平奈緒さんの取材を収めた“PEOPLE” by NEUTRALWORKS. の動画をYOUTUBEにて公開しています。文章と画像では表現しきれない、空気感や時間の流れをぜひご覧ください。

        前編
        後編
        編集後記
        今回は東京から車を走らせ、小平さんの故郷長野県茅野市へインタビューに伺いました。アスリート時代の経験から今に活きる精神性や、様々な人との出会いから育まれた柔軟な思考、そして現在の生活の中で大切にされていることを、様々な角度からお伺いすることができました。冬の柔らかな陽射しが差し込む空間でコーヒーを淹れる様子は、現在の小平さんがご自身と向き合う時間を大切にされていることを感じたと同時に、一人の女性としての魅力が垣間見えた瞬間でもありました。取材後半で訪れた国際スケートセンター「Nao ice Oval」では、リラックスした表情が一変し、真剣な眼差しで爽快に滑る小平さんの逞しく美しい姿に、一同心を奪われました。日々の美しい事象に意識を向け、細やかなことにも喜びを感じながら真っ直ぐに生きる小平さんからは、人生において大切なことを多く学ばせていただきました。人との繋がりを大切に日々を重ねる小平さんのココロとカラダへの向き合い方はもちろん、写真から滲み出る温かいお人柄も、ぜひ記事の中で感じていただければ幸いです。
        Publication date: 2024.3.29
        Photographer: Tetsuo Kashiwada
        Interviewer & Writer: Yukari Fujii