火星で雪合戦をしよう(2080年ドライアイスで)

宇宙建築学サークルTNLが考えた「Martian Yukigassen(火星雪合戦)」はどんなスポーツか。

  • FEATURE
  • 2022.3.31 THU

Martian Yukigassen/火星雪合戦

人類が火星に行った時、そこにはどんな暮らしが営まれていくのでしょうか。重力は地球の三分の一、大気の95%は二酸化炭素で、残りも窒素やアルゴンで酸素はほとんどありません。気温もマイナス40〜60℃が平均という世界。大地は凍った二酸化炭素つまりドライアイスで覆われているとも言われています。

アメリカで2015年に設立された「Mars City Design®」は、そうした過酷な火星での居住生活に向けて、持続可能な生活圏の開発を研究している団体で、設立以来、国際コンペ「Mars City Design Challenges」を毎年開催してきました(コロナ禍の期間は中止)。

その2019年のコンペ「Mars City Design Challenges 2019」テーマが、「MARS SPORTS(火星スポーツ)」でした。

月面居住を折り紙から考える記事「折り紙から宇宙の暮らしを想像する」でも名前が登場した「宇宙建築学サークルTNL」が、そのコンペに参加し2位を獲得。その案が、火星という過酷な環境条件を活かしたスポーツ/遊びの「Martian Yukigassen(火星雪合戦)」でした。


日本大学理工学部海洋建築工学科の学生時代、TNLメンバーとしてコンペに参加し、4月から慶應大学の大学院で研究を始める水口峰志さんに、火星雪合戦とはどんなものなのか話を伺いました。

スタジアムはマーシャンコンクリートという火星の砂を使ったコンクリートで作ります

スポーツ雪合戦の発展型として

TNLのメンバーは「Mars City Design Challenges 2019」のテーマが「火星スポーツ」の案を考える上で、このコンペに参加した日本人はTNLしかいなかったことが影響していたという。

「テーマの『Mars Sports』が、火星で行うスポーツという条件だけで、かなり緩やかな設定でした。日本から参加したのが我々だけだったこともあって、日本らしいモチーフにしたら強みになるのではないかと考えて、雪合戦を選びました。他には流鏑馬という案も出ていました(笑)。雪合戦は、元々日本にある『スポーツ雪合戦』(一般社団法人 日本雪合戦連盟 https://jyf.or.jp/first/know/)を原型にしています。火星には“ドライアイス”の降雪現象があるんです。ドライアイスを雪玉の代わりにし、重力が地球の三分の一によって高くなるジャンプ力を活かしたフィールドデザインをしています。」

雪合戦のためのスタジアムが建設されるのは、ドライアイスの雪が見られる火星の極地。地球で言う北極や南極の位置になる。

「スタジアムはマーシャンコンクリートという火星の砂を使ったコンクリートで作ります。屋根部分にある透明な部分はガラスではなく、火星で氷が発見されていることをもとに氷をイメージしています。中の気温は一定に保たれる仕組みで、最近の火星建築でよく考えられる、フィルムで建築全体を包む方法を採用しています。」

内部は雪合戦を行うフィールドを取り巻く形でチューブ空間があり、そこから試合観戦ができる。動けるように簡易的な宇宙服を着用し、地球上の雪玉よりもドライアイスは硬いため、防御のためのプロテクターを装備して試合は行われる。ヘッドマウントディスプレイには選手の動きや情報、戦況が表示されており、そのデータは別の星で観戦している人たちに共有できるようにも考えられている。

投げられる雪玉の数は150発。スポーツ雪合戦と同じ数にしたという。雪玉は自動的に機械でつくられる。相手の陣地のフラッグを取った方が勝ち。これもスポーツ雪合戦と同様のルールだ。

重力から派生する様々な力の変化で新しいゲームバランスが生まれたらいい

サンドストームを使ってゲーム性を向上させる

「一番の特徴は、フィールドに点在する1.5mピッチの段差です。1.5m、3m、4.5mの登って立つこともできるドライアイスの壁になっている、相手の球を防いだり、隠れたり、飛び移ったりして使います。重力が三分の一なので、地球で50cmの高さにジャンプで乗ることができれば、三倍の1.5mにも乗れるという想定です」

この壁はゲーム性を特別なものにするために、役立っている。重力が三分の一の火星では、摩擦力も相対的に軽くなるため、雪玉を投げるために踏ん張るということがうまくできない可能性がある。

「そのために壁を背負ったり、身体を一部固定して投げたりもできるじゃないかと。動きに制限は出てしまうので難しいかもしれませんが、球の速さとのトレードでしょうか。そうした重力から派生する様々な力の変化で新しいゲームバランスが生まれたらいいなと思っています。」

「ゲーム性のもうひとつ新しい要素として、火星で発生するサンドストーム/砂嵐があります。砂嵐発生時が一部がスタジアム内に入る機構を設け、熱を持った砂嵐がドライアイスに触れると、気化して白い霧のようなものが発生して視界を遮り、相手から見えにくくなるというものです。」

人類が火星に行くことすらしいないいま、まだまだ火星で遊ぶなんてことは、何年先になるかわからない。この案も2080年が想定されている。火星での生活をイメージする時、衣食住だけでは見えてこないものがたくさんある。遊びをイメージすることは、その場の環境に関わりながら自由な解釈をしていくことでもある。もっと宇宙での遊びを想像してみたくなった。