THE NORTH FACE MOUNTAIN

LAYERING THEORIES #16
2023 March

“OUTER SHELL FOR SPRING”

寒さも和らぐ春から初夏にかけての山では、何をどう着たら良いのでしょう。 最も活躍する薄手アウターシェルジャケットを中心に、素材とデザインの特徴に触れながら、ご自身の目的や季節に応じた選び方をご紹介します。

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寒さも和らぐ春から初夏にかけての山では、何をどう着たら良いのでしょう。 最も活躍する薄手アウターシェルジャケットを中心に、素材とデザインの特徴に触れながら、ご自身の目的や季節に応じた選び方をご紹介します。

PART. 1 春のレイヤリングの特徴

気温も和らぐ春の残雪期は、雪山デビューにもってこいの季節。
厳冬期ほどの寒さもなく、雪崩や凍傷のリスクも軽減。夏とは違った雪のある山々にトライするチャンス到来です。

ウェアも身軽になって、身も心も軽快に山で行動できますが、実は春のような季節の端境期は、同時にレイヤリングが難しい季節だということをご存じでしょうか。

昼と夜、日向と日陰の寒暖差が激しく、晴れた昼間は夏のような暑さに汗をかき、太陽が隠れれば寒さを覚え、天気が崩れれば降る雨は冷たく、昼間でも雪に変わる可能性もあります。
また、湿雪に見舞われることも多く、厳冬期以上に濡れに対する備えが重要になってきます。

そこで春のレイヤリングです。汗をかいて冷えることが多くなるので、ベースレイヤーは汗冷え対策に重点を置き、気温の変化はミッドレイヤーで調節します。アウターシェルは冬よりは薄手のものを。バックパックに収納して歩く時間も増えてくるので、軽量性も十分考慮しましょう。

■薄手アウターシェルをどう選ぶ?

薄手のアウターシェルは、春から夏、秋へと長い季節で活躍してくれます。
残雪期は雪に対するシェルとして、初夏から秋は雨に備えるレインジャケット。
そして1年を通して風を止める防風ジャケットとしての機能があります。

THE NORTH FACEでは、季節や用途、個人差に対応できるよう、薄手シェルには多数のモデルを用意しています。
そのなかから登山に適した薄手シェルの特徴を、企画開発担当者が直接解説します。

解説:千葉弥生(THE NORTH FACE企画開発チーム)

▶「Climb Light Jacket(クライムライトジャケット)」

春夏向けアウターシェルは数多くラインナップしていますが、登山やトレッキングを想定したTHE NORTH FACEの3レイヤーのGORE-TEXジャケットといえば、この1着。
2015年の初登場以来、ロングセラーを続ける大定番です。

2022春夏シーズンに、フードの改良と身幅と着丈をサイズアップし、リサイクル素材に変更していますが、無駄をそぎ落としたシンプルなデザインは変わりません。

素材は20デニールという比較的薄手ながら、3レイヤーのGORE-TEX素材によって、高い防水性、透湿性、防風性があります。また、裏地は通常のトリコットではなく、GORE-TEXプロ素材に使われるマイクログリッドバッカーを採用。編み物ではなく織物のため生地面が滑らか、耐摩耗性にも優れ、乾きも早いというメリットがあります。

薄手シェルのなかでは、濡れや風に対するプロテクション性は一番なので、コンディションが不安的なときには最も頼りになる1着。夏のレインジャケットとしても人気が高く、バックパックに常備できる軽さもあります。

▶「Cloud Jacket(クラウドジャケット)」

2.5層のGORE-TEX・パックライト素材を使った薄手アウターシェルです。「Climb Light Jacket」がハーネスやヘルメット着用を想定した登山向きのデザインなのに対して、こちらは山はもちろん、多様なフィールドからタウンユースまで幅広い着用を想定したデザインです。

2.5層のGORE-TEX・パックライト素材は、GORE-TEXの特徴である防水性、透湿性、防風性に優れながら、3層生地よりも軽くてしなやか、やわらかな着心地です。

また、裏地がないぶん、生地が水分を含まないという隠れたメリットがあります。そのため、縦走中にシェルの内側が汗で濡れても、サッと拭いてあげれば、すぐに乾いてくれます。天気が悪いなかで着続けても、裏地の湿り気を解消できる点を好む方も少なくありません。

身幅と着丈は、季節を問わず余裕で重ね着できるゆったりフィット。フロントファスナーはエントリークラスの人でも使いやすいフラップ仕様。機能を第一に推すというよりは、軽さ、やわらかさ、汎用性、そして価格のバランスで選んでいただけるジャケットです。

▶「FL Drizzle Jacket(フューチャーライトドリズルジャケット)」

THE NORTH FACE独自開発のFUTURELIGHT採用の防水ジャケットです。ナノレベルのポリウレタン繊維をミクロ単位で吹き重ねてシート状にしたメンブレンによって、防水性に加えて通気性が特徴です。
同じ防水透湿素材でも蒸れ感が少なく、汗かきの人には選びやすい1着です。

素材は75デニールと比較的しっかりとした生地ながら、防水透湿素材特有の硬さがなく、着心地もしなやかで体の動きもスムーズです。

こちらも、季節を問わず余裕で重ね着できるゆったりフィット。
フロントファスナーはエントリークラスの人でも使いやすいフラップ仕様で、山から街まで幅広く着用できると思います。

▶「Swallowtail Hoodie(スワローテイルフーディ)」

非常に薄手のリサイクルナイロン素材による大定番の軽量ウインドシェルです。
重量はLサイズで約140gと「Climb Light Jacket」の半分以下。
防水仕様ではありませんが、表面はDWR(耐久性撥水)加工を施しており、多少の雨は弾きます。

フード裏のポケットに折りたためば、手のひらサイズ。雨蓋ポケットなどバックパックから出しやすいところに入れておき、風が気になった時点でサッと着用することができます。
防水透湿メンブレンのない薄手ナイロン素材のために、着たまま行動しても汗で蒸れることも少なく、春から夏、秋までの山での仕様頻度は高く、一度使ったら手放せなくなる1着です。

■素材で選ぶ薄手ウインドシェル

雨、雪、風を防ぐGORE-TEXシェル
▶「Climb Light Jacket(クライムライトジャケット)」
▶「Cloud Jacket(クラウドジャケット)」

悪天候に対して最も信頼性のおける素材がGORE-TEX。コンディションの変わりやすい残雪期の山で、濡れや湿気に対処するなら、やはりGORE-TEXシェルが安心です。

防水性と通気性のFUTURELIGHTシェル
▶「FL Drizzle Jacket(フューチャーライトドリズルジャケット)」

防水性とともに通気性の高いシェル素材。比較的天候の安定した残雪期の山や、汗をかきやすい人には、汗蒸れの少ないFUTURELIGHTシェルという選択肢があります。

いつでもどこでも万能ウインドシェル
▶「Swallowtail Hoodie(スワローテイルフーディ)」

風を止めるという1点にフォーカスした薄手ウインドシェル。薄手ナイロン1枚でも多少の保温力もあり、バックパックの隙間に押し込める入るコンパクト性も魅力です。

PART. 2 直営店ではなにをどうチョイスしているか

長野県白馬村にある直営店「THE NORTH FACE GRAVITY 白馬」の店長、井立信行さんは海外経験も豊富なスノーボーダーで登山好き。
都内の直営店でのスタッフや店長経験を経て、2018年から白馬店の店長を務めています。
その井立さんに、店頭での接客をイメージしながら、春のレイヤリングアイテムを選んでもらいました。

解説:井立信行(THE NORTH FACE GRAVITY 白馬)

残雪期のアルパインエリアで着るおすすめは?

——これからの季節、THE NORTH FACE GRAVITY 白馬に来られるお客さんは、どんなアクティビティが多いのですか?

冬の間はスキーヤー、スノーボーダーのお客さんが多かったのですが、春になるにつれて、唐松岳登山のお客さんが増えてくるという印象です。

——たとえば、この時期の唐松岳登山のような、残雪期のアルパインエリア向けには、どんなウェアをお勧めしますか。まずはアウターシェルから教えて下さい。

天気によって変わってくるとは思いますが、アルパインエリアを想定すると、3層のGORE-TEXを使った「Climb Light Jacket」がお勧めです。
唐松岳に登る八方尾根は晴れている日でも風が強いことが多いので、シェルは手放せません。昨年からサイズ感も少しアップしてレイヤリングもしやすくなっていて、使いやすいジャケットだと思います。

——インナーは何を合わせますか?

僕がおすすめしたいのは、まずは、素肌に「100DRY」のタンクを着て、ベースレイヤーには「Expedition Dry Dot」
その上に保温性のある定番フリース「Mountain Versa Micro Jacket」。その上に「Climb Light Jacket」を着て歩きます。

〉「100DRY」「Expedition Dry Dot」などのベースレイヤーの詳しい説明はこちら

——よく汗をかきやすい人だった場合は?

たしかに、登るスピードや熱量、発汗量は人によって違いますよね。
あまり暑いようなら、シェルを脱いで登ると思いますし、僕の場合、天気の良い日なら「Climb Light Jacket」の代わりに「Swallowtail Hoodie」を着て登ることもあります。
逆に、気温や風の強さ次第では中綿の「Ventrix Vest」を中に着ることもあります。ベストは体温調整しやすく山ではお勧めです。

5月以降のアルパインエリアでは?

——もう少し暖かくなった5月のアルパインエリアでは?

天候が安定して暖かくなってくれば、シェルは汗抜けの良さを重視して「FL Drizzle Jacket」か「Swallowtail Hoodie」。
ゴールデンウィークでも風が冷たい日がありますが、そのときは「FL Drizzle Jacket」。
「Swallowtail Hoodie」を着て行動するときに、バックパックのなかにはプロテクション性の高い「Climb Light Jacket」をお守りとして持っていったほうがいいですね。

——ミッドレイヤーとベースレイヤーはどうでしょう?

ミッドレイヤーは、薄手フリースの「Expedition Grid Fleece Hoodie」。
ベースレイヤーは、寒い季節と変わらず、「100DRY」タンクと「Expedition Dry Dot」です。
お客様の登山経験によって、保温性をお勧めしたほうがいいのか、それとも速乾性をお勧めしたほうがいいのかと、少し変わってきます。
でも、安心できるのは「100DRY」と「Expedition Dry Dot」の組み合わせ。これは万人にメリットがあるものだと考えます。

——ベースレイヤーを1枚で着たいという方には?

たしかに2枚のベースレイヤーを重ね着することに抵抗感を持たれている方もいらっしいます。
その場合は、「Expedition Dry Dot」を1枚で。これで普段着ている化繊のベースレイヤーと比べても十分に機能的で、ベタ付き感も抑えられますとお伝えします。ただ、価格的に1万円を超えることに難色を示す方もおられます。
その際は、お客様と話をしながら「FlashDry」や「FlashDry 3D」をお勧めします。

春の低山では何を着る?

——次に低山のワンデイハイクの場合はどんなアイテムになりますか?

インナーは同じです。「100DRY」タンクと「Expedition Dry Dot」。その上に着るのは「Mountain Versa Micro Jacket」のようなフリース。
ポカポカして気持ちのいい日なら、それ1枚で歩けます。
多少、風が気になるようなら「Swallowtail Hoodie」を着て、いずれにしても、雨の備えとして「Climb Light Jacket」をバックパックに入れておきたいです。

——初めて山に行く人の場合、まずは何を優先したら良いですか?

レインウェアはマストアイテムなので、まずは「Climb Light Jacket」が最優先ですと説明します。その次に買うとしたら肌面に撥水性のあるベースレイヤー。「Expedition Dry Dot」がお勧めですが、価格的にリーズナブルな「FlashDry」や「FlashDry 3D」。あるいは、化繊で乾きの速いシャツなどでもいいですね。

——さらに暖かくなる新緑時期の低山では?

僕のお勧めは「100DRY」タンクと長袖のカットソー。これで歩いて、バックパックにはレインジャケットとして「Climb Light Jacket」を入れておくこと。軽くて邪魔にならないので、別に「Swallowtail Hoodie」も一緒に持っていくとなにかと便利だと思います。

——薄手の「Swallowtail Hoodie」はなかなか使い勝手のいいアイテムですね。

そう思います。ただし、初心者の方には、なかなか良さをお伝えしにくい製品でもあります。こんなに薄いペラペラの1枚の、どこに必要性があるのかと思われるようです。でも、一度山で使ってみると手放せなくなりますよね。夏山でもこれを着るだけで安心感に包まれる。THE NORTH FACE関係者で山好きの人なら必ず持っている1着です。

素材による使い分けは?

——GORE-TEXとFUTURELIGHT。防水透湿素材の使い分けはどう説明されてますか?

基本的に、お客様の登山経験をお聞きして、それぞれの素材のメリットとデメリットをお伝えします。
防水性でいうならGORE-TEXに安心感があります。でも、通気性でいえばFUTURELIGHTのほうが抜けはいい。

——お客様はどちらを選ばれることが多いですか?

低山やタウンユース中心の使い方なら、着心地のやわらかなFUTURELIGHT素材の「FL Drizzle Jacket」でしょうか。
逆に山行頻度の高い人は、やはり少し高くてもGORE-TEX素材の「Climb Light Jacket」を選ぶ方が多いです。たとえば、2泊3日で山の奥へ向かう山行で、途中で日程も変えづらい。そうした逃げ場のない状況で雨から身を守るというハードな状況で使うなら、1着で完結できるGORE-TEX一択だと考えます。

——GORE-TEXを使った「Cloud Jacket」はどんな選択肢になりますか?

「FL Drizzle Jacket」と同じく、低山やタウンユース向きだと思います。身幅もあって、ポケットの位置も使いやすく、価格も若干安い。
「FL Drizzle Jacket」よりは生地が薄手で、やわらか。そうした部分にしっくりくるお客様も少なくありません。

——素材とカタチと”しっくりくる感”。選択肢があることが大事ですね。

そう思います。あとは、色も重要です。同じ機能を持っていても、モデルによって微妙にカラーバリエーションは違ってきます。
また、シーズンによっても変わりますし、お客さんの好み自体も年々変化しますからね。

——最後に、井立さん自身の春のレイヤリングを教えて下さい。

僕は積雪期はアイゼンを使う登山よりもバックカントリースノーボードが中心なので、シェルは「Climb Light Jacket」と同様な生地感の「Powder Light Jacket」を着ます。
インナーは「100DRY」と「Expedition Dry Dot」。icebreakerのメリノウールのフリースを着て、「Ventrix Vest」。あまりに天気が良くて無風のときは、フリースの上に「Swallowtail Hoodie」を着て登っています。
もっと暖かくなってくれば、フリースを脱いで、「100DRY」と「Expedition Dry Dot」の上に「Swallowtail Hoodie」の組み合わせです。

LAYERING ITEMS IN THIS ARTICLE この記事のレイヤリングアイテム

WRITER : CHIKARA TERAKURA

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