Geodome 4

New Vision New Landscape

“二十世紀のレオナルド・ダ・ヴィンチ”の異名をとる偉大な発明家リチャード・バックミンスター・フラーが監修を手掛けた、世界初のテンセグリティ構造テントOVAL INTENTION。その誕生から43年。常に進化を重ねてきたTHE NORTH FACEドームテントの歴史に、新たな記憶が刻まれる。天井を高めに設定したことにより、立ち仕事も可能な居住空間を実現。宇宙船を思わせるユニークな外観、耐風性や強度を担保するためのワイヤー補強など、イマジネーションを刺激する機能も多数搭載。これまで見たことのない風景を演出する新形状のドーム型テントGeodome 4。アウトドア新時代の幕が、いま開かれる。

Behind The Scene (The History of Dome)

1975年秋、THE NORTH FACEの製品カタログに、ある見慣れない物体を写した2枚の写真が掲載された。残雪の残る山稜を遠くに眺める草原に屹立する、黄色とベージュの布で構成された半球体。周囲には6本のアルミニウム製ポールが円弧を描くように張られている。「オーバル・インテンション」と名付けられたこの物体の役割を直感的に理解できた人は、当時さほど多くなかったに違いない。なぜなら、それは今までに無い発想と設計によって生み出された、新しい形状のドーム型テントだったからだ。 世界で最初にジオデシック構造を取り入れたこのテントを製品化へと導いたのはTHE NORTH FACEの中核を成す若き3人のスタッフ――創業者ケネス“ハップ”クロップ、プロダクト・デザイナーのマーク・エリクソン、製造部門の責任者ブルース・ハミルトン――だった。 数年前にブランドを立ち上げ、アウトドア活動のための道具づくりに情熱を傾けていた彼らは、当時主流だったAフレーム型テントに代わる新たなテントの形状を模索していた。バックパックに詰めて一人で運ぶことができるほどの軽さと頑丈さを備え、かつ充分な居住空間を作り出せるテントを製品化できさえすれば、当時流行の兆しをみせていたバックパッキングと呼ばれる新種のアクティビティに最適な道具として大勢が買い求めるのではないか。そんな目論見が彼らにはあった。そして試行錯誤の末にたどり着いた答えが、ある偉大な発明家の力を借りて常識を覆す新形状のテントを生み出すことだった。 このテントには真っ直ぐな柱が一本も無かった。通常のテントは複数の直線ポールでテント本体を支える構造だが、オーバル・インテンションは弓状にしなるシャフトタイプのポールをテントの骨組材とするものだった。それによって少ない材で巨大な空間を生み出すと同時に全体の強度も担保できる。この案が具現化できれば、荷物を軽量化させたいバックパッカーの注目を集めるに違いない。そんな彼らの予想は見事に的中、製品化されたオーバル・インテンションはブランドの未来を決定づける大ヒット商品となった。
1960年代から70年代にかけて北米を中心に、ある現象が起こりはじめていた。柱と梁を組み合わせた通常の家とは異なる構造のドーム型の家が、全米のあちこちに姿を現しはじめたのだ。1960年代は、さまざまな異議申し立てのための運動が各地で盛んに展開された時代だった。ベトナム反戦運動、公民権運動、環境保護運動、女性解放運動。社会システムが生み出した様々な矛盾や弊害に疑問を抱きはじめた若者たちは、それぞれの信念にもとづいて様々な運動を繰り広げた。 大量消費型の社会に意義を唱えるために、自分たちの手で生活をゼロから作り直そうとした者も多かった。都会を抜け出し、自然を身近に感じられる場所で簡素な暮らしを始めた彼らが最初に直面したのが、自分たちの住処をどうするかという課題であった。一軒の家を建てるには相当な資金や建築に関する専門知識が求められる。それらを持たざる彼らが目をつけたのが、斬新なアイデアで意匠を次々と取得しては世間の注目を集めていた、ある天才的な発明家が考案したドーム型の建造物だった。 何本かの骨組と簡素な素材を組みわせてつくられたドーム型の建物はジオデシック・ドームと呼ばれた。その構造理論を採用すれば、少ない材料と短い工期で広い住居空間を手にいれることができる。自分らしく生きるために社会の網目から積極的にドロップアウトすることを望んでいた彼らにとってジオデシック・ドームの情報は、まさに福音だった。70年代前後の雑誌や本で盛んに紹介されはじめたドームの記事を参考に、自力でドームをつくりはじめる人々が次々と現れた。ドーム型の家は新しいライフスタイルを実現する上でシンボル的な役割を果たし、「ドームに住むことで簡素な生活で多くを得よう」という考え方が流行した。 THE NORTH FACEのドーム型テントも、こうした動きに呼応して生まれたものではあるが、製品開発の裏には一人の偉大な発明家に対する畏敬の念と、彼の生み出したコンセプトに対する強い共感があった。その人物こそが、世界初のジオデシック・ドームテントの監修者を担った発明家、「二十世紀のレオナルド・ダ・ヴィンチ」の異名をとるリチャード・バックミンスター・フラーであった。
リチャード・バックミンスター・フラーは1895年、アメリカ北部マサチューセッツ州ミルトンで貿易商を営む裕福な家庭の長男として生まれた。生まれつき視力が弱かったせいで不自由な生活を強いられたが、宇宙の原理を把握する天賦の才を備えていた。六歳のとき、幼稚園の授業中に楊枝とえんどう豆を使って正四面体と正八面体を用いた立体を作って周囲の大人を驚かせたというエピソードがある。 フラーは名門ハーバード大学を退学後、海軍時代を経ていくつかの職に就くが、手がけた事業はことごとく失敗してしまう。さらに長女の病死など幾つかの不幸が重なり、絶望と失意から一時期は自分を消し去る決断を下すところまで追い詰められた。しかし、その瀬戸際で「自分は宇宙に属している。自分から、その存在を消すことはできない」という啓示を得たのをきっかけに、のちの人生を全人類の幸福のために捧げようと決意する。 「世界の向上は人間が住む環境を変えることによってのみ実現する」という信念を前提に、フラーは世界の「持たざる人」を「持つ人」へと変えるのに有効な手段は産業であると考え、最新の素材、デザイン、大量生産技術などを応用して、より良い住宅を世界中の多くの人へ提供するための研究に取り組んだ。 フラーが考案し、のちの活動の基軸となったのが「最少のもので最大の効果を得る」ことを意味する「ダイマクション」というコンセプトだった。この考え方に基づいて設計されたのが4Dハウスという建造物である。建築以外の目的のために開発された新素材を使った、軽く強く量産可能な住宅モデル。独立と自由を求めるフラーの考えを反映したこの家は、世界のどこへでも空輸が可能で、着地した時点ですぐに組み立てられ、電力や水源は自給できるよう設計がされていた。 フラーはその後もダイマクション哲学に基づいて行動し、問題に対する解決策を様々な技術として提案した。T型フォードの時代に驚くべき走行特性を実現した流線型の三輪自動車ダイマクション・カー。現在のユニットバスの原型であるダイマクション・バスルーム。全地球の陸地と海をほとんど歪みのない形状と正確な面積比率で平面化した世界地図ダイマクション・マップ。張力統合体としてのテンセグリティ球。地球船宇宙号という概念。問題解決の道具としてのワールド・ゲーム。

Buckminster Fuller’s likeness reproduced with the courtesy of The Estate of R. Buckminster Fuller

フラーが生涯を通じて生み出した数々の技術と発明のなかでも最も多くの人々に知られ、商業的成功を収めたのが、ジオデシック・ドームと呼ばれる半球形の構造物である。「ジオデシック」とは球体上の二点を結ぶ「測地線」を意味する。それらが交わる点を結ぶ直線で作られた、三角形の安定性を応用した球形の構造体がジオデシック・ドームである。この構造体の特許を1950年代半ばに取得したフラーは、大小さまざまなタイプのドームを地球上に数多く残した。 あらゆる形態のなかで最少の表面積で最大の体積を持つのが球体であることは知られているが、この原理を応用して居住空間づくりが実現できることを証明してみせたのが、フラーのジオデシック・ドームであり、最軽量にして最強かつ高い耐久性を持つ構造物であることを、南極や富士山頂などの過酷な環境に置かれたドームによって世に知らしめたのもフラーである。その優れた構造を活かして世界中につくられたジオデシック・ドームの数は20万棟を超えるとも言われる。 1976年、イギリス・カナダ合同隊によるパタゴニア遠征がおこなわれた。このエク スペディションのベースキャンプとして採用されたOVAL INTENSIONは、風速200kmとも伝えられる暴風雪に遭遇するが、従来のテントがことごとく吹き飛ばされていくなかで、唯一強風に耐え生き残り、隊員たちの命を守り抜いたという逸話が残されている。これも「最少のもので最大の効果を得る」というコンセプトが有効であることの、ひとつの証左と言えるだろう。 オーバル・インテンションに加えて、フラーが監修を担ったテントに2METER DOMEがある。1984年に発売された、半径2メートルの大型のドームテント。先に記したジオデシック・ドーム特有の利点が認められ、ヒマラヤ遠征をはじめ現在も多くのエクスペディションに採用されているこのテントもまたフラーの理論を取り入れ誕生したドームであった。 フラーのジオデシック構造理論を継承しながらも根本から設計を再考することによって、このたび誕生したGeodome 4。その広々とした空間に身を置けば、「快適な住環境が幸せを生み出す」というフラーの考えを、きっと理解してもらえるに違いない。宇宙の原理と直感を信じれば、明るい未来は必ずやってくる。偉大な発明家が残したメッセージは、さまざまに進化を遂げながら地球上のあらゆる場所で、現在も生き続けている。

Keywords

  • 1.ICOSIDODECAHEDRON イコシドデカヘドロン

    二十枚の正三角形と十二枚の正五角形から成る立体の名称。Geodome 4は、この準正多面体の形状をベースに設計されている。立体の辺に沿って弧を描くように配置されたポールとテント幕で自立しつつ、強風時にはワイヤーを用いたテンションネットワークが耐風構造として作動し、風の力を分散させる。

  • 2. 天井高210cm

    建築基準法で定められた、居室の最低天井高。アウトドアで使う「ねぐら」で済むものを、あえて一般の住居の天井高にこだわったのは「住居は任意の場所へ移動させることができるべき」という、フラーが描いた理想的な生活スタイルを実現する狙いがあったからだ。従来のドーム型テントは半球形ゆえにフットプリントの半径までしか確保できなかったが、半球以下の部分まで立ち上がらせることによって、より高い天井を設けることに成功した。

  • 3.DYMAXION ダイマクション

    フラーがダイマクションと呼び、4Dタワー住宅をはじめとする多くの発明に活かされたのが「より少ないものでより多くを成す」というコンセプトであった。Geodome4は、強度を担保するために多くのポールを必要としていた従来のドームテントの半数の6本のポールだけで空間を生み出すことが可能な設計となっている。それによって軽量性に優れ、組み立ても容易なテントが生まれた。

  • 4.TENSEGRITY テンセグリティ

    網目状の連続した引っ張り部(張力=テンション)と非連続の圧縮部分(圧力=コンプレッション)の相互作用によって整合性(インテグリティ)を維持する構造を、フラーは「張力統合体」(テンショナル・インテグリティ)球と呼んだ。素人にはテンションの調整は無理である。過度なテンションを加えると強度が低下してしまう。テンセグリティが抱えるこれらの課題をGeodome 4は具体的な実装案で克服し強風時に働いて大幅な耐風性能を高めている。Geodome 4の正五角形の面に設置したワイヤー補強構造は、テンセグリティ理論を実用的な観点から研究した成果物である。

  • 5.GEODESIC ジオデシック

    平面あるいは曲面上の任意の2点を結ぶ最短距離を「測地線」(ジオデシック)という。球面を一周する測地線のなかでも完全な大円*のみからなる球面多面体がジオデシック多面体で、その弧を弦(線分)に置き換えて地面に置いたものがジオデシック・ドームの基本的な形状となる。この構造は高い強度を持ち、最少の表面積で最大の空間をつくることができる。線分で構成される正十二面体型のドーム構造の原理に関する特許を取得したフラーはジオデシック社を設立し、数多くのジオデシック・ドームを製作した。 *大円とは、球の中心を通る平面で球を切ったときの切り口の円周。地球を球と見立てるならば赤道にあたる。

  • 6.SPACESHIP EARTH 宇宙船地球号

    1963年に発表した自著「Operating Manual for Spaceship EARTH」(邦題『宇宙船「地球号」操縦マニュアル』)のなかでフラーは地球を宇宙船に例え、人類が直面している様々な問題解決の方法をデザイン・サイエンスの観点から前向きに提示した。「この地球には資源もエネルギーも充分すぎるほど存在する。ただ使い方が悪いのだ。より少ないもので、より多くのことを成す技術を用いれば、欠乏などということは、まやかしに過ぎないとわかるだろう。考え方を変えるのだ。思考の限界を打ち破るのだ」この考え方は1970年代前後に反体制的な運動に参加した若者たちの共感を集めた。

Specifications プロダクト詳細

  • ◯ バックミンスター・フラーのジオデシック構造とテンセグリティ理論を改善した独自構造。
  • ◯ 2.1メートルの天井高と快適な居住空間、軽量性と耐風性を実現した 4人用ドームテント。
  • 1.大人が直立して快適に活動できる、ゆとりの天井高

    ドームテントには珍しい、半球以下の部分まで立ち上がらせた設計により、4人用のコンパクトなドーム(直径3m)でありながら天井高2.1mを実現。人が立って活動できる居住性を確保した。

  • 2.独創的なデザインと組み立てやすさを両立

    12本のポールを複雑に組み上げる2METER DOMEと比べてGeodome4は格段に設営しやすくなった。 1. スリーブに5本のポールを通す。 2. ドーム型に立ち上げる。 3. 赤道沿いのスリーブに6本目のポールを通し、ポールにフックをかける。 上記手順でテント本体を立ち上げると、あらかじめテント本体に固定されているワイヤーが張られ、センターポストがインナーシートに対して垂直に起立。これによりテンションが程よく効いた状態となり、強風時に全体構造に寄与する仕組み。

  • 3.片手で運べる軽量性とコンパクト性

    ポールの数を6本に抑えることで重量を軽減させ、テンション構造を張り巡らせることで風速約26m/sにも耐えられる強度を獲得した。自重を支えるポール部材を減らし、ワイヤーに置き換えて独自のテンションネットワークを形成したことにより、軽量化と構造合理性も実現。

Geodome 4
NV21800
本体価格 ¥180,000+税

[収容人数]4名 [平均重量]11.07kg [フロアサイズ]230×218cm [フロア面積]4.12m2 [高さ]210cm [出入り口数]1 [ポール本数]6 [収納サイズ]73×26cm [素材] キャノピー/75Dリップストップポリエステル フロア/150Dポリエステルオックス10,000mm PUコーティング フライシート/75Dポリエステルタフタ1,500mm PUコーティング [原産国]中国 [特徴] 半球以上の天井高と独自のワイヤー構造をとり入れた 新しいジオデシック・ドームテント • 6本のポールで設営できるジオデシック構造による球体ドーム • 強度をアップさせる6カ所のワイヤー構造 • ストレス無く行動できる2.1メートルの天井高 • 9角形で防水性も高いバスタブ構造のフロア • 5個のメッシュ付きウィンドウ • 単体でも使用可能な4つのリムーバブルオーガナイザー • 5カ所のメッシュポケット • クイックオープン機能を持つ2カ所のトップベンチレーションウィンドウ • テンショナー付きハンギングライナーコード • フルシームされたフライシート • 大型ダッフルスタイルの収納袋 • DAC製ステーク • ガイライン

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