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フィールドで出合う
動植物のように、
食べることで、
少しでもサイクルの一部に
加わりたい

KOM-I × 山戸ユカ

アウトドアフィールドに囲まれた山梨県北杜市で、地元産の規格外の有機野菜などを積極的に使った循環型レストラン「DILL eat, life.」を営む料理家の山戸ユカさんのもとを訪ねた、現在、北杜市と東京の二拠点生活をしているアーティストのKOM_Iさん。二人が野菜の切れはしをたくさん使った「はしっこ野菜のポタージュ」をつくりながら、アウトドアフィールドと食の関係について語り合います。

市場の流通規格から外れてしまった規格外の食材を扱う「DILL eat, life.」。野菜は北杜市のオーガニック農家「クレイジーファーム」からおまかせで旬のものを仕入れているそう。「届いた野菜を見てから、メニューを考えています」と山戸さん。
市場の流通規格から外れてしまった規格外の食材を扱う「DILL eat, life.」。野菜は北杜市のオーガニック農家「クレイジーファーム」からおまかせで旬のものを仕入れているそう。「届いた野菜を見てから、メニューを考えています」と山戸さん。

食べものが
どこから来て、
どこへいくのか。
環境意識への
発芽は、
モヤモヤを
追うこと。

山戸ユカ(以下、山戸):私は70年代生まれなので、ものを大切にするとか、もったいないという気持ちがあたり前にある中で育ったんです。だから、「ごはん粒を残したらお百姓さんに失礼だからありがたくいただく」といった、昔なら普通だったことを今でも続けているだけで。そうした基本の考え方は、家庭環境の影響が大きいと思います。おばあちゃんが井戸水を汲んで、洗濯やお風呂の水に使っていたのを見ていたので。

「はしっこ野菜のポタージュ」をつくるべく、材料を次々とカットする二人。「エノキのはしっこは旨味がでるんですよ」と菌床部分だけを切り落とす山戸さんに、「いつももう少し手前で切ってしまってました!」とKOM_Iさん。
「はしっこ野菜のポタージュ」をつくるべく、材料を次々とカットする二人。「エノキのはしっこは旨味がでるんですよ」と菌床部分だけを切り落とす山戸さんに、「いつももう少し手前で切ってしまってました!」とKOM_Iさん。

KOM_I:うちは、おばあちゃんが一番ケミカルかもしれません。今、90歳ですけど、その環境意識の薄さも世代的なものなのかなと。

山戸:戦中、戦後は貧しかったけれど、社会人になってお金を稼ぐタイミングでどんどん高度成長して、いろんなものが手に入ることが豊かさだと捉えられた時代ですよね。

KOM_I:体に入るものについてもそこまで気にしてなかったと思います。母親世代から徐々に意識が変わり始めた気がする。私はその影響を受けたのか、子どもの頃に違和感を感じ始めて。ベッドタウンで生まれ育ったんですが、ゴミ出しをする時にふと、このゴミってどこに行くんだろうと思って。そもそも食べものは、どこから来たのだろうと。サイクルになっていない1本線の上に立っているみたいな気持ちの悪さが、ずっと根底にあったんです。山戸さんはそういう感覚、ありました?

左:ブロッコリー、カリフラワーは芯の部分を、ニンジンはヘタの部分とはしっこをカット。右:調理中に出た生ゴミはバケツにまとめて、屋外のコンポストへ。
左:ブロッコリー、カリフラワーは芯の部分を、ニンジンはヘタの部分とはしっこをカット。右:調理中に出た生ゴミはバケツにまとめて、屋外のコンポストへ。

山戸:私が高校の頃に、500mlの清涼飲料用ペットボトル*が発売されたんです。それまでは、リサイクルできずに埋め立てゴミになると言われていたのになぜだろうと思って。同じ頃、フロンガスでオゾン層が破壊されてオゾンホールができたというのが、日本でも大きなニュースになっていたんですね。そういう時代背景も後押しして、環境問題に興味を持って自分なりに図書館で勉強したのが最初だと思います。

KOM_I:さっき、Dillの畑にあるコンポストを見せてもらった時、湯気が立っていて思わず手を入れたら、ほかほかに発酵していてうれしくなりました。コンポストをやり始めたのはいつ頃からですか?

*「容器包装リサイクル法」(1995)によって、容器包装廃棄物のリサイクルシステムが構築され、1996年、それまで大量に廃棄されることを避けるため自主規制されていた500mlのペットボトルの使用が解禁された。
*「容器包装リサイクル法」(1995)によって、容器包装廃棄物のリサイクルシステムが構築され、1996年、それまで大量に廃棄されることを避けるため自主規制されていた500mlのペットボトルの使用が解禁された。
レストランとトレイルフードの調理ででた生ゴミと大量の落ち葉が入ったコンポスト。「落ち葉に自生する菌が発酵を促してくれるんです」と山戸さん。「いい匂いがする! いい菌糸!」と菌糸を手に取るKOM_Iさん。半年ほどかけて堆肥化した土は、自家菜園で使用される。
レストランとトレイルフードの調理ででた生ゴミと大量の落ち葉が入ったコンポスト。「落ち葉に自生する菌が発酵を促してくれるんです」と山戸さん。「いい匂いがする! いい菌糸!」と菌糸を手に取るKOM_Iさん。半年ほどかけて堆肥化した土は、自家菜園で使用される。

山戸:最初は、20歳くらいで一人暮らしをしていた時かな。ダンボールコンポストをやってみたけれど、室内でやると湿気でブヨブヨになって、コバエも湧いたのでやめてしまった(笑)。そこから特に何かをやっていたわけでなはなくて、26歳くらいの時にマクロビオティックと出合ったのがターニングポイントになりました。自然と選ぶ食材がオーガニックになったし、環境意識も変わっていった。今でもマクロビオティックの三原則には共感しているし、実践しています。

*「容器包装リサイクル法」(1995)によって、容器包装廃棄物のリサイクルシステムが構築され、1996年、それまで大量に廃棄されることを避けるため自主規制されていた500mlのペットボトルの使用が解禁された。
*「容器包装リサイクル法」(1995)によって、容器包装廃棄物のリサイクルシステムが構築され、1996年、それまで大量に廃棄されることを避けるため自主規制されていた500mlのペットボトルの使用が解禁された。
山戸さん自作の雨水タンク。貯めた雨水は家庭菜園の水やり、コンポスト用のバケツの洗浄、焚き火の消火などに利用している。
山戸さん自作の雨水タンク。貯めた雨水は家庭菜園の水やり、コンポスト用のバケツの洗浄、焚き火の消火などに利用している。

生態系の循環を
想像しながら、
「食」と
向き合っていく。

KOM_I:マクロビオティックの三原則ってなんですか?

山戸:まず「身土不二」。その土地で採れたものを食べることが、そこで生きていくために必要な栄養源であるということ。次に「一物全体」は、食物は生きていて、そのエネルギーをもらって私たちは生きているので、皮を剥いたりせず、穀物なら精白しないで丸ごと食べることを指します。そして「陰陽」。食物が持つプラスとマイナスの性質をバランスよく調理する。だから、今日一緒につくったスープも、体を温めるために冬野菜のはしっこをたくさん使っています。

「はしっこ野菜のポタージュ」。はしっこ野菜(セロリの葉、ニンジンのヘタ、ブロッコリーとカリフラワーの茎、エノキの軸)をカットし、宿儺カボチャ、カブ、玉ネギ、ニンニクは全体を使用。すべてをカットし、煮込んだら、ミキサーでポタージュに。味つけはこんぶとマスタードシード、塩のみという、野菜の滋味溢れるスープができあがり。
「はしっこ野菜のポタージュ」。はしっこ野菜(セロリの葉、ニンジンのヘタ、ブロッコリーとカリフラワーの茎、エノキの軸)をカットし、宿儺カボチャ、カブ、玉ネギ、ニンニクは全体を使用。すべてをカットし、煮込んだら、ミキサーでポタージュに。味つけはこんぶとマスタードシード、塩のみという、野菜の滋味溢れるスープができあがり。

KOM_I:最近は食への関心が高い人が増えているとは思うけれど、海に流れでたものが最終的には人の体に戻ってくることまでを意識している人もいれば、体に害がないことを優先して、外国から輸入したエコロジカルフットプリントが高い食材でも取り入れるような人もいる。本質的には違う2つの考えが一緒くたにされているんですよね。

山戸:「すべてはつながっている」という実感が持てていないだけなのかもしれないですよね。

北杜市にある欧州基準の動物福祉を目指したケージフリー、フリーレンジの養鶏場「ROOSTER」から届く、サイズも色も異なる規格外の健康的な卵。
北杜市にある欧州基準の動物福祉を目指したケージフリー、フリーレンジの養鶏場「ROOSTER」から届く、サイズも色も異なる規格外の健康的な卵。

KOM_I:確かに。高校3年生で、茨城県石岡市にある「やさと農場」に1カ月ほどファームステイさせてもらった時に、子どもの頃から感じていたモヤモヤが晴れたんです。そこで出た野菜クズを食べた鶏が産んだ卵を拾って、厩舎の中で卵ごはんにして食べて。農場のすべてがサイクルしている!と思ました。

山戸:ジビエの解体もやっていたとか?

KOM_I:畜産の現場で育てる大変さを目の当たりにして、数が増えている野生動物を狩って食べた方がいいんじゃないかと、鹿の狩猟と解体を学んで実践したりもして。食べることがほかの命の上に立っているのだと何度も実感してきました。実際に山梨と東京で二拠点を始めてみると、山の中で暮らしていく上でどうしても虫や植物をたくさん殺さなきゃいけなくて、そうせざるを得ない自分にガーンとなってしまったり。フィールドに近づいていくほど、その葛藤がもっと生々しいものになっていくというか。

山戸さんはInstagramにて、「#環境おばさん」のハッシュタグと共に、コンポストのこと、工業型畜産がもたらす環境への影響、環境にやさしい洗剤やプラスチックフリーなキッチンアイテムなどについて発信している。
山戸さんはInstagramにて、「#環境おばさん」のハッシュタグと共に、コンポストのこと、工業型畜産がもたらす環境への影響、環境にやさしい洗剤やプラスチックフリーなキッチンアイテムなどについて発信している。

山戸:私は、食べるという行為自体、生きものの上に立つという風には考えていないんです。ただ、食べたものが自分のエネルギーになって、本来はトイレから出たものも肥やしになって畑に戻っていくというのがあるべき姿だと思っているから、「できれば死んだ後はコンポストに埋めてください」って言いたい(笑)。

KOM_I:たまにかき混ぜてくださいって(笑)。

左から、コンポストで約2年かけて分解されるという、食物繊維から作られるセルローススポンジ。水分を含む以前のカード状のスポンジ。トウモロコシ等の植物資源からつくられた生分解性繊維の排水溝ネット。現在、ネットがコンポストで分解されるかどうかを実験中だとか。
左から、コンポストで約2年かけて分解されるという、食物繊維から作られるセルローススポンジ。水分を含む以前のカード状のスポンジ。トウモロコシ等の植物資源からつくられた生分解性繊維の排水溝ネット。現在、ネットがコンポストで分解されるかどうかを実験中だとか。

日々の
一つひとつの
選択が、
体と暮らし、
そして地球を作る。

KOM_I:山へ行く前や、山でよい食事を食べることは、地球に恩返しができるチャンスと言えますよね。

山戸:でも、山で食べる用に販売されているものは、ケミカルなものが主流なんです。ここ10年くらい、自然・アウトドアをテーマにした編集ユニット「noyama」の活動を通して、フィールドでもちゃんとした美味しいものを食べようと提案してきたけれど、全然浸透しなくて。それなら自分でつくるしかない!となってできたのが、簡単にできる手づくりのトレイルフード「The Small Twist」です。

化学調味料や保存料を使わずに、旬のオーガニック野菜を使い、山戸さんのひと手間=Small Twistを加えて作られたドライフード「The Small Twist」は、店舗とウェブショップにて販売。 https://smalltwist.theshop.jp/
化学調味料や保存料を使わずに、旬のオーガニック野菜を使い、山戸さんのひと手間=Small Twistを加えて作られたドライフード「The Small Twist」は、店舗とウェブショップにて販売。 https://smalltwist.theshop.jp/

KOM_I:ギアにはお金をかけるけれど、食には無頓着という。でも、これは「荷物を軽くしたい」と「美味しい」の両方を叶えてくれる!

山戸:何を食べるかも含めた一つひとつの選択が自分や自分の暮らし、環境をつくっていると思えれば、おのずとフィールドと食もつながってくるんじゃないかな。

KOM_I:アウトドアフィールドに出るのは、自分の暮らしも自然の一部なんだと気づくすごくいいきっかけになると思う。海に行くと、海岸にはたくさんのゴミが漂着しているし、私たちが流していたものが影響してるんだと知ることができる。

山戸:フィールドの変化に気づいたとしても、何から始めていいのかわからない人も多いだろうし、これだけ情報にあふれた時代だと、何が正解かを見極めるのも難しい。でも、失敗したっていいと思うんです。疑問に感じたり、気持ち悪いなということをまず自分で調べて、小さくてもいいから実践してみることが大事だなと。そこから始まるのかなと思っています。

KOM_I:そうですよね。私もコロナ禍の初めの頃、オフィシャルな情報が毎日コロコロ変わっていくのを見ていて、正解は状況によってゆらぐんだと思ったんです。以前は自分が間違ったことを発言するのが怖かったけれど、みんなが悩んだり迷ったりしている。現実ってそういうものなんだと少し安心しました。だから、環境問題にしても、政治にしても、自分が感じたことをもっとフレキシブルに発言できるようになっていくといいですよね。

山戸ユカ
料理研究家、「DILL eat, life.」オーナーシェフ。東京で料理教室を主宰後、2013年、山梨県北杜市に移住し、季節の野菜やローカル食材をふんだんに使ったレストラン「DILL eat, life」をオープン。玄米菜食とアウトドア料理を得意とし、登山やクライミング、キャンプなどをこよなく愛す。自身のインスタグラムにて、日常に取り入れているさまざまなアクションを投稿中。

KOM_I
歌手・アーティスト。1992年生まれ、神奈川県育ち。音楽グループ「水曜日のカンパネラ」の初代ボーカル(2012〜2021年まで)として、国内外のフェスに出演し、ツアーを行う。2019年、屋久島とのコラボレーションをもとに制作したEP「YAKUSHIMA TREASURE」をリリース。インドの古典音楽やアイヌ民族の歌も学んでいる。モデルや役者などさまざまななジャンルで活動している。

Photo: Yusuke Abe(YARD)
Text: Tomoko Ogawa

LOW
CARBON
EATING

私たちの日々の食事は、
アウトドアフィールドと
つながっている