OURANOS

STORY

山小屋に惹かれて
北八ヶ岳の森に向かった

次の休暇は北八ヶ岳を歩こうと決めていた。以前から泊まってみたい山小屋があったのだ。森に囲まれた池の畔に佇み、三角屋根の煙突から静かに煙を立ちのぼらせている。その姿は誰もが思い浮かべる絵に描いたような山小屋。それが北八ヶ岳のしらびそ小屋だ。小屋まではゆっくり歩いて1時間半から2時間の距離。翌日は稜線まで登りたいから8時間を越えるはず。1泊2日の行程としては少々バランスが悪いが、そんな登山があってもいいだろう。こうして僕は新しいOuranosに荷物を詰めて、北八ヶ岳の森に向かった。

いつもよりゆっくり歩けば
思いがけない景色にも出会える

まばゆい木漏れ日に、澄み切った空気、梢を揺らす風の音……。靴ヒモを結んで立ち上がると、街から山へとスイッチが切り替わった。Ouranosを背負い、ヒップベルトのバックルを留めてひと呼吸。そうして僕は歩き始めた。今日の目的地までは2時間もかからないから、山慣れた人にはもの足りないかもしれない。それでも急ぐことなく歩みを進めている。余裕がある日だからこそ、山をゆっくり歩きたい。そうすれば、何気ない樹林帯すらいつもと違って見えるはずだ。山道は緩やかな傾斜に沿ってしばらく進み、そこからつづら折りの急登。あとひと踏ん張りと息を切らして登り詰めると、突如、道は平坦になった。池のほとりの山小屋はもうすぐそこだ。

しらびそ小屋に到着のあいさつを済ませると、ミドリ池を正面に眺めるベンチに腰を下ろした。周囲はシラビソの森。その奥には天狗岳が頭をのぞかせている。辺りはマツ科の針葉樹特有のかぐわしい匂いが漂い、標高の高い山に来たという実感を抱かせてくれる。ここから夕刻までのひとときが登山で一番好きな時間だ。1日の行動を終えた達成感と、もうこれ以上歩かなくていいという安堵感。そんな幸福な山気分に満たされながら、刻々と変わり行く情景に身を委ねるのだ。小屋では薪ストーブに火を入れたのか、いつしか煙突から煙がのぼりはじめている。Ouranosを開いて、僕はライトダウンジャケットを取り出した。

この地に山小屋を建てたのは現主人の祖父で、今から50年以上前のことだという。以来、すべてを家族でまかなってきた。大きな小屋ではないからヘリは使わず、必要な荷揚げはキャタピラ付きの小さな運搬車で週に一度。雪の季節は人の背中に頼るほかない。朝は暗い時間に起き出して客の食事をこしらえ、夕食時間が終われば早めに床につく。嵐が過ぎ去った後の登山道を整備したり、寒い季節は薪ストーブの火を絶やさないよう気を配るのも大事な仕事だ。思ったよりも地味で単調、体に厳しい小屋番の暮らし。それをささやかな喜びに変えるのは「ありがとう。また来ますよ」という客の言葉と笑顔。そして毎日が違った景色に見えるほど、四季折々の美しい自然だという。

山に来るといつも、枕元のアラームが鳴る直前に目が覚めるのはなぜだろう。そっと布団から抜け出し、ダウンジャケットを羽織って表に出かけた。グッドタイミングだったようだ。ミドリ池の水面には朝焼けに染まった天狗岳が見事に映り込んでいる。山の世界では朝日で赤くなる山肌を「モルゲンロート」と呼ぶ。つまりモーニング・レッド。山に泊まった人だけが甘受できる早起きのご褒美だ。早朝に風が止むことが多く、その時間帯だけ、鏡のようになる池の水面が周囲の景色を映し出す。そう教えてくれたのは昨晩のご主人だ。ほどよい冷気が肌に心地良く、神秘的にさえ思える山の自然現象を前に、しばし時間を忘れた。

登山はフィジカルな遊びだが
感性を刺激する行為でもある

散歩から戻るとすぐに朝食の時間だった。ミドリ池に向いた窓辺に腰を下ろすと、窓の外にはリスが二匹、三匹。小さな木の実を器用につまんで食べている。ほどなくコーヒーのいい香りとともに厚切りトーストを載せたトレーが運ばれてきた。リスに続いて次は僕の番だ。無骨な山小屋でいただく、カフェメニューのようなワンプレート。そのミスマッチ感が女性登山者に評判なようだ。考えてみれば、厚切りで供する食パンを山の上まで運ぶのは意外とたいへんなはずだ。へこんだり、形が崩たりするから一度に運ぶ量も限られるだろう。ちなみに、無垢の木のトレーと陶器のコーヒーカップはしらびそ小屋のオリジナル。都内の生活雑貨店に置いても見劣りしない一品だった。

出発の時間が近づいてきた。今日は稜線まで登ってピークを踏み、再びしらびそ小屋を経由して、麓まで一気に下山するという長丁場だ。稜線近くの山小屋に泊まっておけば、もっと楽な行程になったはず。いや、むしろそれが登山のセオリーだろう。けれどもお気に入りの場所や景色を優先した登山だってアリだ。山登りはフィジカル要素の強い遊びだが、同時に感性を刺激する文化的な行為でもあるのだ。ともあれ、今日の僕はピークを目指す気満々で、ここからがOuranosの本領発揮でもある。「よかったら、帰りも立ち寄ってお茶でも飲んで行ってください」とご主人。毎朝こうやって登山者を送り出しているのだろう。気がつくと足下は朝露を載せた苔がキラキラと輝き、シラビソの梢からは見事な青空がのぞいていた。

しらびそ小屋

住所
長野県 南佐久郡南牧村海尻400-3
電話番号
0267-96-2165
現地電話
090-4739-5255

営業状況をwebサイトなどでご確認のうえ、

電話またはFAXで事前にご予約ください。

shirabisogoya.com

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