「答え」を見つけるために
世界を旅するスキーヤーが
日本で得たいものとは。

本国のチリでは普段どのような活動をされていますか?

普段はチリの南部に住んでいて、ときどきアンデス山脈の中心部で過ごしています。チリの中でも転々と旅をしていることが多く、街で過ごすことはほとんどありません。私はアスリートであり登山家でもあるので、チリのさまざまな山岳地帯で高峰、氷河、火山、美しいトレイルを求めて常に新しい冒険をしています。

昨年(2019年)の12月から日本を旅しているそうですね。日本を訪れようと思ったきっかけと、旅の目的について教えてください。

私のなかで今回の旅の目的は2つあります。一つが、世界でも類をみない雪の量と質を誇る日本の山でスキーをすること。そしてもう一つが「禅」のカルチャーについて学ぶこと。禅とは一体何をするのか、その考え方や文化、禅を行う人がどのような日常生活を送っているのかを知りたいと思っています。日本の文化を深く理解するために、できることならまる1年日本に滞在してみたいと数年前からこの旅を決めていました。世界では、日本人は感情のコントロールに優れ、周囲に対して尊敬する心を持ち合わせていると広く知られています。そのような心の美しさを作り出すために、日本人がどのようなライフスタイルを送っているのか、前々からとても興味があったのです。

昨シーズンは長野県でスキーをされたそうですが、初めての日本の山や雪はどう感じましたか?

北アルプスの渓谷とその付近にある村々、そしてアルプスの麓を列車が走る光景など、それはもう美しいものでした。ただ、昨シーズンはここ60年で最も積雪がが少なく、スキーヤーにとって決してベストな状態とは言えなかった。それでも同じザ・ノース・フェイスアスリートである布施智基さんにガイドをしてもらい、いい雪のあるバックカントリーに連れて行ってもらったおかげで、とてもいい時間を過ごすことができました。

日本の山の地形はチリとまったく異なり、とくに急斜面のツリーランは最高でしたね。日本にはまだ知りたい山がたくさんあります。昨シーズンは日本の山に軽く入った程度でなので、次回は雪がたくさん降ることを願いながら、来シーズンも引き続き日本に滞在したいと思っています。

四季を通した
自転車の旅で、
日本の文化を学びたい。

7月から12月にかけては自転車で四国八十八ケ所霊場めぐり、日本縦断をされるそうですね。

スキーシーズン後の4〜7月は岡山県にある洞松寺で禅の修行をしていました。梅雨が明けたので、夏から秋にかけては瀬戸内海国立公園にかかる橋を通って四国に向かう予定です。四国には八十八ケ所のお寺が点在し、それらをつなぐ道は1200年以上の歴史がある巡礼路(=お遍路)として知られています。四国に行く目的は、その1000kmを超えるお遍路を自転車で巡るため。私にとって巡礼はその土地の知識を得るための一つの方法であり、自然と密につながることができる手段なのです。

四国を出たあとは太平洋に沿って北へ向かい、巡礼の旅を続ける予定です。その旅を通じて、日本人が夏の間どのように過ごしているのか、たとえば夏のスポーツ、食べ物や飲み物、夏に着る服などを知りたい。最終的な目的地は北海道。そこでも同じようにあちこちを巡りながら日本の文化に触れたいと思っています。

今回の旅では、何を得たいですか?

この旅をもう少し続けたら、もっと深く知りたいことや求めるものが出でくるかもしれませんが、今はまだハッキリしていません。今の段階でできることは、旅で行き着いた先々で感じたものを逃さず吸収するために、瞑想し、楽しみ、熟考すること。自転車とテントさえあれば自分の直感で自由に動き回ることができるので、今はその直感に従って旅を続けたい。直感力こそ、私の最強のガイドだと思っています。

日本での旅を通して、人々にどのようなことを伝えていきたいですか?

私は常々、自然の中に身を置くことは健康を維持するうえでとても重要なことだと考えています。自然と繋がることで私たち人間は、直感力が最大限に研ぎ澄まされ、その人の中に眠っている能力や知識も呼び起こされる。さらに頭の回転が高まり、共感力、忍耐力、愛情、そして感謝の気持ちも目覚めます。

私はこれまで幾度と自然に助けられてきました。なので、それらの経験や旅を通じて、自然と密に繋がるとることの重要性を伝えていきたいと思っています。なかでも、日頃から人工的な世界に浸されている若い人たちに希望を与えたい。彼らは計り知れない可能性を秘めているにもかかわらず、ロボットのように働き、そこから抜け出せない状態になっています。旅や自然はその可能性を呼び起こし、開花させることができる。私が発信する情報によって彼らがそのことに気付き、アクションを起こす一助となれば嬉しいです。仕事に忙殺される日々のなかで自分を見失わないためにも、旅と自然は私たちにとって不可欠なものなのです。

  • Photo / Claudio Vicuna

PROFILE
ソレダッド・ディアス/SOLEDAD DIAZ

スキーヤー。1985年、チリ・サンディアゴ生まれ。ザ・ノース・フェイス・チリのアスリート。幼い頃から山で過ごし、3歳でスキーを始める。2009年にFreeride World Tourの予選大会で2位になると、すぐさま世界トップの地位を確立。2011年にはチリで開催されたFreeride World Tour優勝、2014年にはアラスカでヘリスキーガイドとして認定される。現在は自身で立ち上げた「Vivir viajando」プロジェクトを通して多くの人にスポーツ、自然、旅の魅力を伝えている。

Instagram @soledelasnieves