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What a climber can do for the environment
What a climber
can do for the
environment
クライマーとして環境のためにできること

Alex Honnold

1985年カリフォルニア州サクラメント生まれ。滑り止め用のチョーク粉とシューズ以外の道具を一切使わないフリーソロにおいて数々の記録的な業績を達成し、世界で最も有名なクライマーの1人として名前を連ねている。現在はThe North Faceの契約アスリートとして各地で遠征にチャレンジする傍ら、オノルド基金を設立し、より公平な世界の実現のために太陽光発電事業の支援に取り組んでいる。

Alex Honnold

Summary

数百メートル級の岩壁をロープや安全具を用いずに素手で登る「フリーソロ」。アレックス・オノルドはこの究極のクライミングスタイルにおいて、前人未到の登攀を成し遂げ人類の到達点を引き上げ続けるアスリートである。クライミングのために世界を旅する中で感じる環境の変化やそこから始まった人類の発展と環境保護のための取り組み、理想のサステナブルな社会のあり方を稀代のクライマーが語る。

“登るという行為、
自分の体を使って上昇する感覚……
その動作そのものを愛しています”

あなたがクライミングを始めるようになったきっかけはなんですか

何かに登ることに常に夢中で、小さい頃から木や建物に登っていました。ロッククライミングは10歳くらいの時に、両親が住んでいた街にできたクライミングジムへ連れて行ってくれたことをきっかけに、たちまち魅了され、それ以来ずっと続けています。登るという行為、自分の体を使って上昇する感覚がただ好きなんです。これは走ったり泳ぐのと同じように、一種の根源的なことですが、その動作そのものを愛しています。

フリーソロはどのような経緯で始めたのでしょうか?

私が育ったカリフォルニアにはフリーソロクライミングの豊かな歴史が存在します。なので、フリーソロのことは一種のクライミングスタイルとしてずっと知っていたし、常に興味を持っていました。そして、年齢を重ねるにつれて、フリーソロは同伴者やギアを必要としない驚くほど気楽なクライミング方法であり、いつでも行動に移せて、やりたいと思ったことは何でもできるスタイルだと気がついたのです。さらに、フリーソロはロープクライミングよりも一層大きな達成感と力強い高揚感を得られます。

“登るという行為、自分の体を使って上昇する感覚……その動作そのものを愛しています”
“何億人もの地球上の人たちが
電力を使用
できない生活を送っている
という事実を
目の当たりにし、
忘れがたいほどの衝撃
を受けました”

オノルド基金の設立の経緯や太陽エネルギーに関心を持ったきっかけを教えてください

オノルド基金はより公平な世界のための太陽光発電事業の支援に取り組んでおり、基本的にはサポートを必要としているコミュニティに太陽エネルギーを広める活動をしています。
基金を立ち上げた当初は、自然環境を守ると同時に人々の生活水準を高められるようなプロジェクトに興味を持っていました。その中で、SolarAid(*1)は明確に双方がwin-winの関係を築けるような取り組みを行っていると感じた初めての組織の1つでした。彼らは灯油ランプからソーラーランプへと移行する術を持っていないコミュニティの助けとなり、人々の健康と自然環境の双方に素晴らしい影響を与えています。最終的に基金のミッションステートメントを太陽光事業に特定するまで、私たちは何年にも渡り他の太陽光発電プロジェクトを一貫して支援し続けていました。
こうした最初の関心は、チャドの辺境にある砂岩の新しいルートに挑戦するために行われたThe North Face Expeditionがきっかけでした。その時に初めて、何億人もの地球上の人たちが電力を使用できない生活を送っているという事実を目の当たりにし、忘れがたいほどの衝撃を受けました。

(*1)
タイム誌で「再生可能エネルギーを推める若きリーダー」として評されたジェレミー・レゲットが2006年に設立したアフリカの太陽光社会事業団体。ソーラーランプによって、地域の経済支援と環境負荷の低いエネルギー開発に取り組んでいる。

“何億人もの地球上の人たちが電力を使用できない生活を送っているという事実を目の当たりにし、忘れがたいほどの衝撃を受けました”

基金がコミュニティのような地域社会、
とりわけ発展途上国への支援を行う理由を
お聞かせください

実際にはアメリカ国内でも多くのプロジェクトに取り組んでいるので、海外だけが活動拠点というわけではありません。ですが、基本的には最も理に叶うプロジェクトを支援しているので、海外の方が資金を有効活用できる場合が多いです。例えばSolarAidのような東アフリカでの取り組みでは、アメリカでの同様のプロジェクトと比べても人々に与える影響の大きさは1ドルあたりでも大きく異なります。しかし、人類の発展と環境保護は国際的な問題であり、私たちはこれからも最も意味のある影響を与えられる場所で支援を続けていくでしょう。

“私たち全員が小さな宇宙船に一緒に
乗っているんだということを
想像できるようになればと願っています”

クライミングを行う中で、環境の変化を感じ取ることはありますか

クライミング中に目撃した最も大きな環境の変化は全てパタゴニアやアラスカをはじめとする大規模な山岳地帯で起きているものです。例えば、氷河が年々後退し、安定したアイスクライミングルートと思われていた場所が今では安全ではなくなったりしています。私が最も懸念していることはこうした変化です。トレイルでポイ捨てされたゴミを見かけることも残念ですが、氷河の融解以上に重大なことはありません。氷河は何億人もの人々の飲み水となり、沿岸部には数十億人もの人たちが生活していることは言うまでもありません。

“私たち全員が小さな宇宙船に一緒に乗っているんだということを想像できるようになればと願っています”

持続可能な未来を実現するために、
私たちはどのようなことに自覚的になり、
行動すべきなのでしょうか。

それは難しい問題です。ですが、私たち全員が小さな宇宙船に一緒に乗っているんだということを想像できるようになればと願っています。地球は1つの循環システムとして存在しており、これは宇宙の広大な仕組みの中では比較的小さなものです。なので、その規模を把握した上で、私たちが物事を対処できたらと思っています。例えば、バンや小さなスペースで暮らしている時には、モノを清潔に扱い、整頓しなければいけません。こうした考え方を地球にも当てはめることに苦戦しているのは非常に残念なことです。

将来の世代に、あなたはどんな未来の景色を残したいですか。

はっきりとは思い浮かびませんが、理想としては雄大な自然がそのまま残っていて欲しいと願います。個人的には、もっと未来的な社会の中に多くの自然や原生地が残されている風景が理想です。都市化は進行し続け、より多くの人が都市に住むようになるにつれ、土地は何かしらの使用目的を持って使われるでしょう。しかし、こうした土地をいつの日か元の自然な状態に戻したいと願っています。もし、人類がより効率的にエネルギーや土地を使用できたならば、私たちが地球に与える影響はもっと小さいものにできるでしょう。しかし、私たちはそうせざるを得ない状況にいなかったため、この道を選ばなかったのです。

今後の予定について教えてください。

今住んでいるラスベガス周辺でのクライミングに焦点を当てています。特定のプランはありませんが、ベストを尽くし、上達し続けるために挑戦しています。また、オノルド基金は今年、多くの新しいエキサイティングなプロジェクトに支援を行っています。なので、そのための活動もしています。ただ、私自身は常にクライミングを精一杯続けていきます。これから何が起きようとも。