講談社

地球にちりばめられて

多和田葉子

“恋人は古いコンセプト。
わたしたちは並んで歩く人たち”P296
“恋人は古いコンセプト。
わたしたちは並んで歩く人たち”P296

線を引く人か、なくす人かと問われたら、後者になりたいといつも思っています。

1982年よりドイツで暮らし、日本語とドイツ語で創作を続ける多和田葉子さんの小説『地球にちりばめられて』。主人公は留学中に故郷の島国(どこでしょう?)が消滅してしまった女性Hiruko。彼女が言語学を研究する青年クヌートと出会い、多くの仲間をつくりながら、自分の母語話者を探す小説作品です。

Hirukoは移民として世界各地を流浪してきましたが、「ひとつの言葉を覚えてもまた移動させられると不便だし」と北欧言語を組み合わせた独自の言葉「パンスカ」をつくり出します。そんな個人レベルの最小単位言語を駆使しながら多種多様な人とコミュニケーションを取り、新しい仲間を増やし、母語の外にいる人たちとも共に「並んで歩く」コスモポリタンになっていく冒険譚。

言語は地域コミュニティのシンボルとなる一方で、その外側にいる人を無意識に排除する抑圧性も持ってます。一方で、言葉を用いないことには届かないアイデアや感情も確実にあります。

ボーダレスなのにコミュニケーション不全という矛盾をはらんだ現代で、自身の垣根をどう溶かしていくべきか? 垣根の向こう側にいる人と、どんな風に関わっていくべきなのか? 多くのヒントが潜む物語です。