Workwear Project
みやぎ蔵王白石スキー場
大量に廃棄されがちなワークウエアのロングユースと再資源化を促すことで、スノーアクティビティにまつわる持続可能なプラットフォーム創出を目指す、Goldwinのワークウエア・プロジェクト。このワークウエアを導入した宮城県白石市の「みやぎ蔵王白石スキー場」では、地域のシンボル・不忘山の自然環境と山麓の地域社会を守るため、さまざまな施策が進められていた。
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宮城県白石市の南蔵王・不忘山の中腹に位置する「みやぎ蔵王白石スキー場」(以下、白石スキー場)は、1969年に誕生したスキー場だ。4本のリフトとセンターハウスを擁するコンパクトなスキー場は、圧雪をかけた斜度38度の急斜面から天然パウダーを楽しめる非圧雪コース、初心者の練習に最適な緩斜面までがバランスよくレイアウトされている。
このスキー場がユニークなのは、白石市民が運営する公設民営のスキー場である、という点だ。もともとは民間企業が運営するスキー場だったが、23年前、運営会社の経営悪化により廃業の危機に見舞われた。その際、市民が中心となって存続のための署名活動が行われ、存続が決定したという経緯がある。
「スキー場ができるまでは、農閑期になると働き手が出稼ぎし、家族がばらばらになっていました。冬期の地元の雇用を確保して地域社会を守るという意味で、スキー場は山麓市民に欠かせない存在だったのです」と話すのは、現在、スキー場の運営を担う「NPO法人不忘アザレア」の佐々木徹理事長。「NPO法人不忘アザレア」は、スキー場を守るために地元スキーヤーや一般市民が立ち上げた組織だ。
「現在はNPOの入会金や年会費などが活動資金となっていますが、役員は手弁当で活動を続けており、スキー場でのイベント運営や夏場の草刈りといった維持・管理は会員がボランティアで行っています。市民が作り、守り、運営するという、全国的にも稀有なスキー場だと自負しています」
地元コミュニティの貢献は不忘山、そして「白石スキー場」に欠かせないものだが、そうしたエピソードは不忘山が地域のシンボルとして長く愛されてきた歴史を物語っている。
「たとえば春の種まきは、春先に外輪山に現れる“水引入道(種まき坊主)”という雪形を合図に行われます。山の降雪量が少ないときは山麓も水に恵まれず、農作物の生育に影響することがあります。このように、蔵王山脈は今も昔も白石市の暮らしと密接に関わり合ってきました。『NPO法人不忘アザレア』は不忘山の清掃活動や登山道の整備、登山ガイドの育成・派遣などを通して蔵王の自然を守り、人間と自然が共生できる環境づくりを進めています」
そうした自然環境への取り組みの一つとして今シーズンからスタートしたのが、環境配慮型ワークウエアの導入だった。これを主導したのは、「白石スキー場」の業務マネージャーで索道技術管理者の川村祐介さん。索道のプロフェッショナルであり、30代にして東北索道協会宮城地区部会の事務局長を務めている。
「『白石スキー場』から5分足らずの町で生まれ育ち、幼少時は託児所代わりにここに預けられ、スキーで帰宅していました。高校生、大学生とスキー場でアルバイトし、大学卒業後、そのまま就職。以来、ここの現場仕事に従事しています。地元農家の出稼ぎ対策として存続が決定したスキー場ということもあり、僕以外のスタッフも地元のおじちゃんとその子どもや孫というように山麓出身者で占められており、アットホームな雰囲気でスタッフと常連客との距離が近いことが特徴です。スタッフはまるで親戚のおじさんのように、若いスキーヤー、スノーボーダーの成長を見守っています」
「トイレ詰まりから圧雪車故障まで、なんでも対応します」と本人が言うように、川村さんの仕事は実に幅広い。朝はスキー場とその周辺の除雪、圧雪、リフトの整備。日中はチケット販売、レンタルショップの対応にあたり、夕方にはゲレンデの補修を行う。そればかりか山麓地域に暮らす住民のため、降雪の日は川村さんとスキー場責任者のふたりでスキー場から半径10km程度圏内の除雪を行っているのだ。
「どの家に誰が住んでいるか把握していますし、数日間顔を見ていない高齢者の家には安否確認も兼ねて顔を見に行きます。向こうも僕のことを『川村さんのところのせがれ』とわかっていますから、知らない人が出向くより安心感をもってもらえる。大手のスキー場にはない感覚かもしれませんが、地元密着型スキー場として半径10km以内はうちの施設と思って作業しています」
そんな川村さんが業務マネージャーに就任し、これまで変えたくて変えられなかったスキー場のオペレーション改革に着手できるようになったのはここ数年のことだ。
「うちのスタッフは地元の年配者が多く、彼らのこだわりが強すぎるのか、若いスタッフが長続きしないという問題がありました。僕は23歳のときに就職しましたが、いまだに一番の下っ端です。僕自身は、現場仕事では『経験よりスピードと体力』をモットーにしていますから、スピードと体力がある若い人材はスキー場の未来のためにも、地域の雇用のためにも、ぜひとも確保したいと思っています。そこで、若いスタッフが辞めにくい環境づくりに着手することにしました」
若いスタッフを集めるためには、まずは若い人に白石スキー場を知ってもらい、魅力を感じてもらわなくてはならない。そこで高校生でも気軽にスキーやスノボードを始められ、何度も通ってもらえる施策を導入した。高校生、大学生に向け、レンタルギア&ウエアとリフト券の割引パックを用意したのもその一環だ。高校生、大学生にはスノーボード人気が高いこともあり、スノーボーダー向けにゲレンデレイアウトを変更することも検討している。
「Goldwinのワークウエアも、若いスタッフのやりがいという観点で導入を決めました。自分が学生アルバイトだったころの気持ちを思い出すと、他のスキー場スタッフから『あそこのウエアはかっこいいよね』と言われるようなワークウエアは働くきっかけになり、仕事のモチベーションにもつながります。
もちろん、『かっこいいから』だけでは導入の理由にはなりません。私たち『NPO法人不忘アザレア』が掲げる『不忘山の自然環境の保全』という使命と、このワークウエアが実現するロングユース&リサイクルというサスティナブルな視点が合致するという点も大きかった。コスト面でも、いままでのワークウエアに比べて無駄なコストを大幅に削減できるという現実的な理由もありました。シーズン後にはダメージ箇所のリペアもお願いできます。コストパフォーマンスが良くて機能性にも優れ、環境に配慮した作りになっていてデザインがかっこよかったら、変更しない理由はないと思いませんか?」
実際に導入を決めてみて、川村さんが驚いたのは年配スタッフの反応だった。今までのウエアで十分、満足しているように見えたスタッフから大きな反発があることを予想していたのだ。ところが……
「こちらが拍子抜けするほど、反発の声があがらなかったのです。保温性が高いので厳冬期でも快適なこと、インナーの脱ぎ着で体温調整を手軽にできること、雪を被る作業をしていてもビブパンツから雪が侵入しないこと、などが理由でしょうか。なによりも来場者から『かっこいい』という声をいただけたことが、嬉しかったと思います。
索道の仕事では動きやすさを求めますが、ポケットの数も絞られて無駄が省かれているのもいい。ゆとりのある造りになっているので作業中の動作を妨げません。フードはありませんが、襟が高く設定されているので首周りをきちんとガードできます。僕自身は、ユニフォームのままスーパーに立ち寄っても恥ずかしくないデザインをとても気に入っています。むしろ、腕に貼った『白石スキー場』のワッペンをみんなに見てほしいくらいです」
川村さんはこれからのスキー場のありかたについて思いをめぐらせている。
「僕はグリーンシーズンには不忘山のガイドをしているのですが、山岳ガイドにはお客さんを楽しませる視点が欠かせないと思っています。だって、山好きだけを相手にしていたらこれ以上のパイは望めませんから。ですから自身のガイド業では『山や自然に興味のない人に不忘山を好きになってもらうためには、何が必要なんだろう』という視点を常にもち、花の名前の由来や山にまつわる面白いエピソードを披露するなど、山好きでない人を飽きさせない工夫を凝らしていました」
スキー場も同様だ。第三者の目線、つまり「スキーやスノーボードに興味はあるけれどやったことはない」という、コア層でない視点が必要だと考えている。それでは、どうすればそういう人たちに足を運んでもらえるのか。その鍵を握るのが、若いスタッフだ。
「若いスタッフが元気に働いているスキー場には若いスキーヤー、スノーボーダーが遊びに来たくなるはず。だから、まずは若いスタッフが働きやすい環境を整え、地域の雇用に貢献する。若い世代が集まれば、彼らの感性から自ずと新しいアイデアや視点が生まれるはずです」
次世代から生まれるアイデアを採用して「白石スキー場」を活性化し、この街を元気にする。そして末長く蔵王山麓の自然環境と地域の暮らしを守る。それが「白石スキー場」の使命だと、川村さんやスキー場スタッフは考えている。今回のワークウエアの導入は、その第一歩。まだまだ道のりは長いけれど、一歩の先に未来は拓かれるのである。
みやぎ蔵王白石スキー場
宮城県白石市福岡八宮不忘山
http://nposki.com