「小さな土製品を作るって言うけれど、何を作る?」

小さな土製品を作るワークショップ

  • FEATURE
  • 2022.5.12 THU

2015年から作られ現在12号まで発行されている「縄文ZINE」というちょっと変わったフリーペーパーがあります。縄文時代にハマったグラフィックデザイナーの望月昭秀さんが、縄文の魅力を斬新な角度とテーマ設定で「都会の縄文人のためのマガジン」として制作しています。縄文時代についてあまり知らない=情弱であることを「縄弱」と称したり、何でも縄文絡みで語ることができるすごさとユーモアに溢れた雑誌です。
今回、望月さんが行った、中高生を対象にした土器づくりのワークショップについてその様子を教えてくれました。縄文時代に思い馳せながら、何か思いを”込めて”作られる土器の数々。そこにはどんな意味が隠されているのでしょうか。

「土器」は縄文時代を生きた人たちの良き伴奏者となる

土器は土から作られる。

その灰色の土を手のひらで何度か握る。土は次第に粘り気を帯びその握った指の形を記憶する。これが粘土だ。粘土という土を主たる材料として「土器」は作られる。自然の中に最初からあるものを使い、ゼロから作り出すモノ、その始まりは日本では縄文時代にさかのぼる。

粘土、この土が土器となる

日本で見つかっている最も古い土器の証拠は、青森県外ヶ浜町の大平山元遺跡。実に約16500年前の土器片だ。縄文時代の名前の由来となった縄目文様は未だ施されずシンプルな無文の土器片。たとえ縄文がなくてもこの土器片が縄文時代の最初の産声となる。この後、約10000年以上縄文時代といわれる時代は続いていく。その最初から最後まで「土器」は縄文時代を生きた人たちの良き伴奏者となる。

現代では陶磁器やセラミックと呼ばれ、さまざまな器や素材として使われているこのものづくりの原点を現代の生活の中でどう体験するか、そんな企画を2021年12月某日、青森県八戸市の是川縄文館で開催した。参加者は同じく八戸市の中高生20人(先生や保護者も)、講師に造形家の山内崇嗣さん、ワークショップのタイトルは「小さな土製品を作る」。ここからは、このワークショップはどんな様子だったのかを紹介してみようと思う。

何を作るかは自由でも、必ず何かを土製品に込めてもらった。

小さな土製品を作るって言うけれど、何を作る?

土器作りのワークショップなので技法的なことはもちろんある。しかし、はたと戸惑う人も多いだろう。小さな土製品を作るといっても、一体何を作るべきなのだろうか、と。

「何を作る」かは重要なテーマだ。もちろん縄文時代をテーマにしているんだから縄文土器や土偶を作ってみても良いのだが……、今回のワークショップではまた別の面から縄文時代を追体験してみようと思う。

縄文時代、縄文人は土器や土偶に何かをこめて作っていた。それが「何か」はわからないのだが「何か」を込めていたことは確かだろう。でなければ、煮炊きの道具であるにもかかわらず、こんなにも使い勝手の悪い造形にはしない。また、道具として使い道のない道具を作ったりはしない。

重視したのは小さな土製品に何を込めるかだ。込めるものが決まればおのずと何を作るべきかは見えてくるはずだ。参加者には事前にペーパーを配り、以下のようなことを考えてもらった。何を作るかは自由でも、必ず何かを土製品に込めてもらった。そしてこれから作るもののスケッチも描いてもらっている。

□ 将来の夢/将来こんな仕事をしてみたい。
□ 今一番ほしいもの/いつか手に入れたいもの
□ 自分の好きなもの
□ 自分ってこんな人間/自分をあらわすもの
□ 世界がこうなったらいいな/みんながこうなったらいいな

例えば、プロサッカー選手になりたい夢があれば「サッカーボール」の土製品を作ったり、いつか自分の家を建てたいのであれば「理想の家」。猫を飼ってみたければ「猫」を作っても良い。自分の得意なことなら「スケボー」を作っても良いですし、なんでもいいからお金持ちになりたいのであれば「札束」の土製品を作ったってかまわない、何かの願いを込めたものを作ってもらった。

見たこともない動物や植物でいっぱいになったら楽しい世界になると思う

産科医になりたい中学生、ギターのエフェクターが欲しい高校生

ここからはいくつかの作品を見ていこう。

まず最初に紹介したいのは中学2年生の杉本さんの作った「産科医になった私」。

「保育園に通っていたときから今も変わらず、産科医になりたいという夢があります。土偶には妊婦を模したものが多く、縄文人たちは子宝や子孫繁栄を願っていました。時代が変わった今でも、その思いは変わらないと思います。私はそのお手伝いができるようになりたいです」

杉本さんは将来の夢を土製品に込めた。

事前に描いたスケッチとほとんど変わらない。

高校2年生の伊藤さんは犬を作った。

「将来飼ってみたいと思っている犬(ボルゾイ、ダルメシアン)と私が家で飼っている犬(チワワ)をモチーフにしました。縄文土器や土偶は豊作を願うために作られていたと聞き、その意図にあやかり、将来、大きな犬を飼いたいという夢を願いました」

残念ながら焼成時にボロボロになってしまったが、豊作の祈りと大きな犬を飼いたい気持ちがイコールで結ばれちょっと楽しくなった。

高校2年生の大久保さんの作ったものはセクシー大根。

「セクシー大根は存在感を大切にしました。今まで見たこともない動物や植物などを作ってみたいと思った。可愛らしさ、不思議な感じを表現したいと思った。世界が、見たこともない動物や植物でいっぱいになったら楽しい世界になると思う。人の手でつくられた土製品はいろいろな思いがこもっていると思うので、自分の好きだという気持ちを込めてつくりました」

こちらも焼成時に壊れてしまい、最終的に講師の山内さんがセクシー大根を再現している。

高校2年生の柏山さんは、エフェクター。

「僕は学校のバンドでベース・ギターを弾いていて、音楽が好きなので、それに関係するもの(エフェクター)をつくりました。縄文文様を上面につけています。このようなペダルエフェクターが欲しいという願いも込めました」

柏山さんの作ったものは今欲しいものであって、自分を表すものでもある。

左はマルス像。柏山さんのニックネームからこの像を作った。

高校2年生の関川さんは、筆を握った手を作る。

「私は小さい頃から絵を描くことが大好きで、美術の教師になることが夢です。描く人の感性や個性、生き方を1番表現できるのが美術の良いところだと思います。その美術の楽しさを少しでも多くの人に伝えてあげたいと思い、私は美術の教師を目指しています。今回の作品では、そんな思いを込めました」

そしてもう一つ(三つ)の可愛い土製品も。タイトルは「私の感情」。

「この作品は、私の感情を表しています。一見似ているように見えて全体を見ていると全く異なっている形をしている所や、頭の上についている花やつぼみ、草などで普段は周りに見せていないようにしている弱さや感情を表現しました。羽やしっぽ、尾ひれなど、あえて異なる生物の特徴をとりいれることでそれぞれの感情との違いを分かりやすくできるよう工夫しました」

形の無い自分の感情を三体のキャラクターに分割。自分を紹介する土製品としてとても雄弁な作品。こちらも壊れてしまったけど、別の機会にもう一度チャレンジして欲しい。

もちろん縄文時代に関係するものを作った参加者もいる。中学2年生の蜂屋さんは地元の土偶である合掌土偶を作った。タイトルは「いのるんが立った」。

「いろいろな合掌土偶(いのるん)があったならおもしろいと思い描いた」

きれいに出来上がることと同じくらい壊れたことも願いの形

壊れてしまった小さな土製品

最初に予定したスケッチから大幅に路線変更する参加者もいれば、ほとんど忠実に作る参加者もいる。思い思いの作品はその制作途中も出来上がりを見るのも楽しい。何かしらの思いを込めての土製品作りは、それだけで成功だったのだが、残念ながら今回の土製品作りは焼成段階でかなりのものが壊れてしまった。それは講師の山内崇嗣さんが土製品の表面の質感にこだわるあまり、強度を犠牲にして混和剤(表面をボソボソにするために粘土以外の素材)を多めに混ぜていたことも原因なのだが、こういった土器や土偶、土製品作りにはある程度の失敗がつきもので、土器は、焼き物は常に上手くいくとは限らない。

もちろん願いを込めて作ってくれたものが上手に完成できなかったことは、素直に申し訳なかったと謝りたい。その上でこう考えることにしたいと思う。

縄文時代の土偶は、祈りのためにわざと壊されていた、とは、よく言われていることだ。すべての土偶がわざと壊されていたわけではないにせよ、時代とエリアを限定すれば、土偶を「わざと壊す」ということで願いを成就させる方法は確かにあったのだと思う。その意味や、どんな作法だったのかはもちろんわからない、だけど、壊すということで、何かを成就させるという「考え方」は、「お焚き上げ」や「どんど焼き」の風習が残る現代においてもそれほどの違和感はない。

また、岐阜県にある「飛騨みやがわ考古民俗館」には石棒という男性器を模した石の棒が1074本も収蔵されているのだが、そのほとんどが未完成品。それはすごく不思議なことなのだが、学芸員の三好さんによれば、これらは完成品を作ることだけが目的ではなく、「石棒を作るということ」そのものが目的だったのではないかという。

縄文時代の土偶が「壊す」ことで祈ったように、この壊れた破片もまた一つの祈りの証になる。縄文時代の石棒が「作る」という行為に重きを置いたように、「何を作ろう」と考え、粘土をこね、形を作ったこと、それ自体も一つの「祈り」になる。きれいに出来上がることと同じくらい壊れたことも願いの形であり、それを作ろうと考えたことからもうすでに願いは始まっているのだ。

『土から土器ができるまで/小さな土製品を作る』は二つの表紙を持つ1冊の本

「小さな土製品を作る」このワークショップは5月28日発売の『土から土器ができるまで/小さな土製品を作る』にすべて収録しています。実際にどのように土製品を作るのかヤマウチ式土製品のその技法も。

また、本書の発売に合わせて青森県八戸市の市営の本屋さん、八戸ブックセンターで企画展を開催します。

「紙から本ができるまで/土から土器ができるまで」展
5月21日から8月21日まで

八戸ブックセンター
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八戸市六日町16番地2 GardenTerrace1F
TEL:0178-20-8368  FAX:0178-20-8218
https://8book.jp/

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