車なら一瞬で通り過ぎてしまう景色も、
歩けば体の奥まで染み込むように記憶に残る。
長距離=ロングディスタンスを歩くこと。
それは、まだ見ぬ景色と自分に出会う旅。
全長2900kmにもおよぶ九州自然歩道。
歩いたのはほんの一部分かもしれない。
でも、日を重ねるごとに土地の輪郭は際立ち、
自然のリズムが心に馴染んでいくことに気づく。
トレイルが、人と自然をつないでいくのだろう。
日本には、10もの長距離自然歩道がある。
環境省がその構想を発表したのは1969年。
高度経済成長期のなか自然回帰を目指し、
「歩く旅」に光を当て、長距離自然歩道が整備された。
日本各地の固有の自然を体験できる道として、
山岳地帯だけでなく、里山や海岸、
古い街道などを巡るようにルートがつくられた。
50年以上も前からつづく、日本のロングトレイルだ。
土を踏む感触を確かめながらトレイルを進む。
木漏れ日が揺れる森を抜け、
九千部岳の尾根に上がると
遠くに入り組んだ海岸線と山並みが見えた。
ときには不明瞭になる山道と
ゆるやかに表情を変えていく風景。
心に残るのは、有名な山頂ばかりではない。
ささやかな景色との出会いに嬉しくなるのは、
歩いて旅するからこそなのだと思う。