Chapter2 氷上わかさぎ釣りに挑戦の巻 WAKASAGI FISHING AT LAKE MATSUBARAChapter2 氷上わかさぎ釣りに挑戦の巻 WAKASAGI FISHING AT LAKE MATSUBARA

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気になる季節の変化

夏は涼しく冬は寒い北東北で育った。親父が釣り好きだったおかげもあって「ワカサギの氷上釣り」という珍しい釣り遊びを、我輩は子供の頃に経験している。だだっ広く真っ平らな凍った湖上で小さな魚を釣るという嗜み。世間的には楽しそうなイメージかも知んない。けれども我輩には「釣れた!」という喜びよりも、「さみーよ〜」って記憶しかない辛い経験だった。

御所湖という、冬になると凍ってしまう家の近所のダム湖に親父に連れていかれ、吹雪の中、湖の真ん中あたりまで歩かされる。大した距離ではないんだけれど、その『歩く』という行為自体が辛すぎるのだ! なぜかっていうと、俺たち兄弟は持ってる中で一番ゴツいスキー靴を履かせられる訳で。プラスチック製のゴツいスキーブーツで歩くことがまず辛い。スキー靴は履くと前傾姿勢になって歩き辛く、百メートル先のポイントまで歩くことさえしんどいのだ。

荷物をプラスチック製のソリに乗っけて引っ張りながら、ロボットみたいにぎこちなく歩く。親父が適当に決めたポイントにやっと辿り着く。さっそく親父はアイスドリルで氷に穴を開ける。ガリガリガリ、シュポッ。穴が貫通し、湖水が穴から浸み上がってくる。氷の厚みは大体25〜30センチほど。このくらい厚みがあれば安全らしい。親父はアイスドリルは危険だからと子供に触らせてくれなかった。今ならその理由も分からなくもないが。

ワカサギ専用の短いリール付きの釣り竿で仕掛けを穴に落とし込む。「オモリが底に着いたらチョコンチョコンと餌が揺れるように上下に竿を動かしてみろ」。言われるがままにやってみる。この単調な作業をひたすら続けるわけだが、釣れないとすぐ飽きてしまうのは、子供だから仕方がない。ただじっと待っているだけなので、当然身体もすぐに寒くなる。でも何が一番辛いかって言えば、足先がめちゃくちゃ冷たくなってしまうことだ。いくらゴツいスキー靴を履いていても指先が凍ってちぎれそうなくらい痛くなるのだ。そんなわけで我輩の記憶には、ワカサギ釣りは「寒すぎる!」って思い出しかなかったのだが、そんな氷上釣りを再び味わいたくなってしまったのだ。

インスタグラムで知り合ったフライフィッシングもプロ級の腕前を持ち軽井沢で喫茶店を営んでいる黒澤さんに「ワカサギ釣りを教えてもらえないか?」と相談するとすぐ返答があった。「松原湖がホームグラウンドだから、そこでやってみようか?」ガイド役を引き受けてくれた。 

黒澤さんとは松原湖で合流することにした。初めての松原湖。真っ白な氷上で久しぶりに釣り糸を垂らす! なんて様子を期待して、松原湖に到着したものの……来てみてびっくり!! 白くない!!

山頂にさえ雪はなく、おまけになんと雨まで降っちまっているではないか! そう言えば我輩の地元のダム湖も年を追うごとにつれ氷が薄くなっていて、親父から「氷上釣りもいつか出来なくなるかもしれない」なんて聞いていた気がする。現在の御所湖の様子を調べてみると、氷は張っても融水&結氷を繰り返し、歩くこともできないほど薄くなってしまい、今年に至っては氷上釣りも出来なくなってしまっているらしい。これもやはり、よく騒がれている『地球温暖化』の影響なのかな?

氷上釣りが出来なくなる?

思えば、我輩が子供の頃は雪も背丈まで積もっていたけれど、高校生の頃には膝下ほども積もらなくなっていた。友達からは「お前の身長が伸びたから雪が少なく見えてるだけだろ?」なんて笑われた記憶もあって納得していた我輩だったが、今にして思えば、あの時すでに大人たちは地球の異変に気づいていたのかもしれない!? 調べてみると『地球温暖化』という言葉は1988年頃から一般に広まったらしい……やっぱり!?

松原湖の氷は水色で美しかった。けれど、ところどころにデカイ水溜まりが出来ており、こんな状態で氷上釣りなんてできるのだろうか!? と不安になった。

奥の方にはテントがいくつか見えている。常連さんらしき人たちが既に釣りを始めているみたいだ。問題ないってことなのだろうか?「こんなテントが子供の頃にあれば寒い思いもせずにさぞ快適だろうなぁ」なんて思いながらリベンジ的釣りの準備を始めた。

水色の氷上を恐る恐る歩いてみる。意外と平気だったけど、強く踏み込むとヒビが入りそうな気がして、ちょっとおっかない。氷面に注意を払いながら黒澤さんにポイントを決めてもらい、とりあえずテントを張ってみる。

遊漁券を購入する時に、レストハウスの店員のお姉さんから「ペグは何を使っているんですか?」と尋ねられた。「ふつーのテントペグですけど」なんて恥ずかしながら答えると「そのペグは使えないと思うんで、ドリル式の専用ペグがオススメですよ。でも今は在庫が無いんで、2本だけでよければお貸ししましょうか?」なんて優しい言葉をかけてもらい、ドキドキした。

風向きを考えながら、お借りした2本のドリル式のペグを氷に打ち込みザ・ノース・フェイスのジオドーム4とボトムレスタイプのホームステッドシェルターテントを張ってみる。

一匹も釣れなかった~(涙)?

黒澤さん「氷に穴空けてみる?」
我輩「え? いいんすか?」

子供の頃はこのアイスドリルを触らせてもらえなかったので、なんだか嬉しい初めての穴空け作業。やっぱり氷が薄いからか、あっさり穴が空いてしまう。空けたら氷の削りカスを、アミアミのオタマみたいな専用道具で掬う。削りカスが溜まって再び凍ってくると仕掛けが引っかかって厄介だからなのだそうだ。思えば、親父も台所にあった網杓子を使っていたっけな。次にリールの使い方と餌のサシ(ウジ虫)の付け方を教わる。エサ付けも親父が全部やってくれてたから、どうもウジ虫のウニョウニョした動きに慣れなくって、ビビりながらも小さな針に引っ掛けるのも一苦労。ミミズは平気だけど、幼虫類は苦手なのだ。

どうにか準備が終わり、やっとこさ釣り開始! 湖底へと仕掛けを落とし込む。そんなタイミングで谷の奥の山頂付近からビュービューと凄い音が鳴り響いてきた!? 黒澤さんが「結構強い突風がやって来そうだから気をつけた方がいいかも〜」なんて呟いた数秒後、とんでもない暴風がブゥオ〜ンと目の前を通った。張ってあったテントから釣具から全てがすっ飛ばされそうになり、みんなで必死に抱きかかえるように抑える。鵜飼さんは飛びそうになったテントポールを見事キャッチしたものの、まるで漫画のように、必死でテントにしがみついていた。我輩も腹ばいになって、散らかった釣り道具が飛ばされないように必死で抑える。数分ほど続いただろうか? ようやく突風は止んだ。

全ての道具がすっ飛ばされそうになって、もう釣りなんてやってる状態ではなくなってしまった。回収しながら、みんな呆然としてる。笑えない状態。止むを得ず、風が落ち着いたタイミングで撤退することとなった。無念! 

結局またしても、ろくすっぽ釣りを堪能することはできなかったのだ。 

こういう突風を山谷風と呼ぶらしい。自然の猛威に晒されてワカサギ一匹すら釣ることができなかった。暖冬で雪もないし、氷もしっかり張っていなくて、更に山谷風にぶっとばされて退散。まったく少しも遊んだ気分になれなかったけれど、地球温暖化しているという事実を体感できたことは有意義だったのかなあ?

最近立て続けに頻発している水害や、異常に暑かったり、冷たい雨が続いて太陽が恋しくなったりするのも「気候変動」からくるものなのか。いつも通りの四季が無くなっている気がしてならない。この感じだと氷上釣りができるところも減ってしまうのだろうか?日本に冬が来なくなっちまったら、どうなるのだろう……?

これまで約100回に渡って外遊び研究所を続けて来たものの、広く浅く遊び呆けてきたから大した研究成果を出せた試しもなかった。でも一つだけ言えるのは、たとえ都会に暮らしていたってやっぱり自然が一番大事だってこと。自然が安定しなければ我々の暮らしもグラグラと不安定になってしまうし、外遊びだって楽しめない。だからってわけじゃないけれど、もしも人間の活動が自然を不安定にしているのならば、それを見直すべきときなのかも知れない。そんな姿勢が大事なのかなって思う。自然に寄り添わないと人間は生きていけない。人間も自然の一部でしかないのだから。

黒澤一進黒澤一進のまさかこんな結果になるなんて……!

岡部君に今回の撮影の話をもらった時には予想もしていなかった記録的な暖冬。近年の地球規模の温暖化の影響なのか? 例年なら年末には湖面が結氷してワカサギ釣りが解禁になる松原湖が1月になっても凍らない。スケジュールを数回変更して迎えた撮影当日も2月だというのに朝から激しい雨……(汗)。

雨が止むのを待って氷上に上がるも、氷の厚さは例年の半分以下で、歩くのがちょっと怖いくらい。撮影の準備を済ませ、釣りを開始したら突然の突風で持参したギアが飛ばされそうに……釣りどころではなくなり、まさかのボーズ‼(涙)

こんなこと、長年のワカサギ釣りでも初めての経験でした。撮影翌日には氷の状態が危険になり、松原湖は禁漁に。ギリギリ撮影が出来ただけでも良かったと思うしかない。あまりにも消化不良なので、次の冬には同じメンバーでリベンジしたいと思います。岡部君、次回こそはワカサギたくさん釣りましょう〜!

ワカサギ釣りの仕掛け

ワカサギ釣りに欠かせない
黒澤さん愛用の道具たち

ユニフレームのヒーター

ユニフレームのヒーター

氷点下20℃以下になる松原湖。ヒーターが無いと寒すぎて仕掛けが凍り釣りができません。これはカセットガスが使えるので手軽でオススメ。換気に気をつけて使用すればポカポカの中で釣りが楽しめます。 

カウンター

カウンター

ワカサギ釣りの楽しみの一つに「数釣り」があります。多い日には500匹以上釣れるのでカウンターで数えます。使いやすいように市販のカウンターに台座を取り付けてます。

ハサミ

ハサミ

エサとなるサシ(ハエの幼虫)を切るのに使用。寒い中、かじかんだ手で使うので和バサミが便利だ。実家の母の裁縫箱から拝借。うっかり落として湖底に奉納しないようワインのコルクをウキがわりに。

仕掛け

仕掛け

松原湖のワカサギは極小でアタリも小さいので一般的な電動竿では釣果が伸びない時があります。そんな時は昔ながらの手バネがオススメ。繊細なアタリもとれて釣果が伸びます。

黒澤一進

黒澤一進(くろさわすすむ)

物心ついた時には既に釣りをしていた根っからの釣り馬鹿。メインは渓流でのフライフィッシングで専門誌などへ記事を書くことも。フライフィッシングのオフシーズンに始めたワカサギ釣りにもハマり、一年を通して釣りを楽しむ。

コーヒーハウス・シェーカー

コーヒーハウス・シェーカー

避暑地として有名な軽井沢にある一軒家カフェ。 観光客や別荘のお客様はもちろん、釣りやキャンプ、スノーボードなど、店主の趣味の仲間が全国から集まる軽井沢のアウトドアベース的なカフェ。
https://cafeshaker.exblog.jp

杉崎勝巳カメラマン杉崎勝巳 a.k.a J太郎の美味しい天麩羅が食べたくて

やったなJ太郎、今回はグルメロケだよ!って聞いたから、喜び勇んで来てみたんだけどさ。早朝、割れそうな湖の上に恐々降りた瞬間に『あ、騙された』って悟ったよね。そもそも、こんなちっこい魚を一体いくつ釣れば俺が食べる分まで回ってくるんだ? 今までの経験からSOTOKENチームの釣果は全く期待できない。頼みの綱は黒澤さんのみ! 心の中で釣りの神様に祈りつつ撮影を続けていたその時。突然の山谷嵐により撮影が不可能になってしまったのだ……。ジーザス、どうして僕に天婦羅を食べさせてくれないんですか!そんな様子を見ていた常連のおじさんが気の毒に思ったのか、自分の釣ったワカサギを分けてくれたのだ!ジーザス イズ バック!! そして、やっと食べれた待望の一匹は極ウマの一言! なるほどね、寒い湖の上で何時間も釣り続ける意味が少しだけ分かったよ。って、もう無いの? おじさんもっと分けてくんない?

ジェリー鵜飼の氷上釣りができなくなる日がくる?

graph

西暦700年から2100年までの
気温変化(観測と予測)

左図が示すように、近代化が進んでから地球の気温は上がり始め2000年から一気に上昇している。
このままではワカサギ釣りどころか普通の暮らしも困難になりそうだ。

  • ※ 2000年までの過去の観測は北半球でのデータ
  • ※ 2000年0以降の予測は地球全体の気温
  • ※ 出典 / IPCC第4次評価報告書(2007)

楽しみにしていた人生初のワカサギ釣り。ところが近年世界的な問題となっている「地球温暖化」を目の当たりにしたような残念な結果となってしまった。白銀の世界で黄色いダウンジャケットを着て釣りをしたらカッコイイんじゃないか? そんな写真を収めたくて撮影に望んだのに氷は青く、雪化粧を期待していた周囲の森は春の様相だった。ソトケンでは過去に100回ほど取材をしてきた。もちろん天候に翻弄されたことは一度や二度じゃない。豪雨でも決行した富士登山や、台風が接近する中でタープを張ったこともある。そんな経験をしてきた僕たちでも、ここ最近の天候の変化は何かおかしいと感じてしまう。

この星は本当にどんどんと温暖化が進んでしまうのだろうか?海の向こうから小さな声で聞こえてた著名な学者によるレポートや警告を今回は目前に突きつけられたような気分だ。ボクはペットボトルの購入をやめた。家庭ゴミを減らす工夫も始めた。こんなことしたって世界を変えられるわけがない……と気が滅入る時もあるが、できることからやらなくてはという思いが強い。だってこれから先も自然の中で遊びたいし、この自然を守りたいと思うから。令和はそんな時代にしたいよね。自然とアウトドアをこよなく愛するボクたちから時代を動かしていこうよ!

リゾートイン立花屋
リゾートイン立花屋

リゾートイン立花屋

長野県南佐久郡に点在する「松原湖」と呼ばれる3つの湖のうちのひとつ「猪名湖(いなこ)」の畔に建つ旅館。冬は氷上のワカサギ釣り、春から秋にかけてはへら鮒釣りや登山を楽しむ客で賑わう。釣り具やボートのレンタル、遊漁券販売、レストラン営業、野鳥観察のガイドも行っている。
長野県南佐久郡小海町大字豊里4253-1
☎ 0267-93-2201