Masato SegawaFASHION DESIGNER

Wearing Flower Logo Crew

ファッションは必要か。畑から学んだ新たな価値観

鎌倉の自宅で始めた庭づくりは山梨県の畑へ。ファッションブランドSEEALLのデザイナー瀬川誠人さんは、植物と向き合うことで自身の考えをアップデートしてきた。「自分の使うものは自分で作りたい」洋服から始まったその考えは、庭や食材まで拡張した。その中で生まれたのは本当に必要なものだけを作るというシンプルな考え方。

MASATO SEGAWA
MS
THE NORTH FACE
TNF

(TNF)

ファッションと農業。一見かけ離れているようにも感じるふたつですが、畑を始めた理由を教えてください。

(MS)

家の庭づくりを始めてから、自分の使うものは自分で作りたいと思うようになりました。自分が着る洋服を作り、自分の住む家の庭を作る。自分の食べるものを作ろうと思うのは自然な流れだったと思います。

(TNF)

畑の写真を拝見させていただきましたが、想像していた畑と全く違うところに驚きました。このご自宅の庭にどこか近いような……。

(MS)

僕の畑は自然農という不耕起、不除草、不施肥、無農薬を特徴としている農法で作っています。畑の中には自然そのままの生態系があり、育った作物の4割ぐらいはシカやイノシシに食べられる。それでもいいのが、自然農の考え方です。誰に対しての搾取も起こらないこの農法で、自分にとっては十分な野菜が収穫できることがとても心地いいんです。

(TNF)

畑作業を始めたことによって、ファッションへの向き合い方はどう変わりましたか?

(MS)

自分にとって本当に必要なものかどうかを考えるようになりました。畑や庭だと無駄なものやこの場所に合わないものを作っていくと結局育たなかったり、死んでしまったりします。洋服も同じでそのデザインがあるがゆえに翌年は着れないような、いわば賞味期限があるようなデザインに関しては見直す必要があるのではないかと。

(TNF)

ファッションは産業的にも環境負荷の大きい分野だということは、広く知られています。

(MS)

僕はファッションデザイナーである以上、洋服を作らないわけにはいきません。できる限り環境に負荷がかからない物作りをするために取り組んでいるのは、水の使用量を減らすためウールやヤクなどの動物繊維を無染色で使ったり、ドネーション目的で集まったものの使いきれない洋服をストックしておいてもらって、生地に戻し作り替えたりと。極力あるものを使い、無駄なものを作らないことで、デザイン面でも長く使えるかどうかに重きを置くようになりました。装飾やビビッドな色などの積極的なデザインというよりは着心地やシルエットにこだわる消極的なデザインであることを大切にしています。

(TNF)

近年は権威あるファッションプライズでもデザインだけでなく、どれだけエシカルであるかが選考基準に含まれています。

(MS)

もちろんそういった影響力のある団体がその動きを促進するのはいいことですが、環境配慮がプロモーションに使われることも増えています。本気で向き合っているデザイナーが増えてきている一方で、そうでない人ももちろんたくさんいます。先ほどの無染色の話も安定供給が難しいというリスクがあります。リサイクル素材の場合も、コストや手間が普通に服を作るよりもかかる。しかしそれをやるというのが、どういうことなのか消費者に伝えていくのが僕たちのつとめだと思います。

意味あるものを着たいと言ってくれる方のために続けていきたい

瀬川誠人

(TNF)

SEEALLの洋服の多くは天然素材が使われていますが、その理由やそこにあるこだわりについて教えていただけますか?

(MS)

そもそもウールやコットンなど多くの天然素材はかなり優れた機能素材なんですよね。はるか昔の人が羊毛を刈って紡績して糸にして、そんな苦労をしてまで使おうとした素材なんです。ナイロンやポリエステルなど機能的な化学繊維が出てきた対比で天然素材には機能がないというイメージが広がってしまいましたがそんなことはありません。それに人間が生み出したものではなく、もともとこの世にあったものってところで環境に対しても無理がないんですよね。

(TNF)

今回のプロダクトにも使用されているテンセル™モダールのように環境負荷を減らしつつ、化学繊維の代替品になるようなもののリサーチもしているんですか?

(MS)

とうもろこしから取れる繊維があって、それがナイロンやポリエステルと置き換えられるだろうというムーブメントがあるんです。そのままでは使いにくい色で染色が難しいのでまだあまり使われていないんですが、最近ようやくそれを染める技術ができまして。それは是非使わせてもらいたいと思っています。

(TNF)

日々そこまで環境との向き合い方を考えていると、ファッションは本当に必要なのか、そんなことまで考えてしまいそうですね。

(MS)

常に無駄なものを作り出してしまっているんではないかという自責の念には追われています。畑で作っている野菜は一切無駄になりませんから。それに比べてファッションは必要ないんじゃないかと思ってしまうこともあります。でも幸いなことに喜んでいただける方もいますし、意味あるものを着たいと言ってくれる方のために続けていきたいと思います。

(TNF)

そういった生きる上で直接的に必要ではないものの重要さは、ここ数年のパンデミック禍で改めて感じた人も多いと思います。

(MS)

アートはなくても生きていけるけど、ないと僕たちの生活が味気ないものになってしまう。「ファッションはアート」などとよく言われていますけど、僕は違うと思っています。ただその一方でファッションの役割を考えてみるとアート的だなとも思います。芸術性ってところではなく、たくさんは必要ないんだけど、ないと人の心が貧しくなっていくという意味でアートとファッションは同じだろうなと。

瀬川誠人さんについてもっと知りたい場合はmasationo0714

Product

FLOWER LOGO CREW
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SEEALLというファッションブランドのデザイナーである瀬川誠人さんが着用したのはフラワーロゴクルー。色は、愛猫の毛がついても気にならないグレーだった。撮影日は土曜日。雲ひとつない空から燦燦と降り注ぐ太陽のもと、瀬川さんはゆったりと塩梅のいいシルエットのスウェットにグリーンコーデュロイのパンツ、さらに足元はサボサンダルを合わせた装いで、楽しそうに庭の手入れをしていた。

CO2 Emissions Reduction

本プロダクトから削減できた二酸化炭素の排出量

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