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        interview 02

        「ジェンダー」や「セクシュアリティ」という言葉に出会い、自分の気持ちを消化して表現できるようになった

        TAIRA | タイラ

        モデル/文筆家

        世界を舞台に活躍するモデルのTAIRA。今回のインタビューでは、ファッション撮影で見せるクールなイメージとは異なる自然体で柔らかな表情を見せてくれた。留学先のイギリスの大学院でカルチュラル・スタディーズを学んでいた際にスカウトされ、モデルとしてのキャリアをスタートしたTAIRAは、ジェンダーやアイデンティティをクロスオーバーする期待の新星として高い注目を集め、瞬く間に売れっ子に。現在はモデルとしての活動と並行して、カルチュラル・スタディーズを学ぶ中で得た気づきやファッション業界での経験を元に執筆活動を行い、自らの言葉で発信を続けている。渡英を数日後に控えたTAIRAに、アイデンティティとモデル業、女性について話を聞いた。

        ―カルチュラル・スタディーズは、日本ではあまり知られていない学問領域だと思います。学ぼうと思ったきっかけは何ですか?

        長い間、自分という存在やアイデンティティをうまく説明できる言葉が見つからず、モヤモヤとした思いを抱えながら生きてきました。でもある時、日本の大学でなんとなく選択したカルチュラル・スタディーズの基礎クラスで学んだことが、自己を理解する手助けになると感じたんです。そこで、カルチュラル・スタディーズが派生したイギリスの大学院でさらに学びを深めるために留学を決めました。イギリスで学ぶ中で、新しい言葉やセオリーに出会い、自分の気持ちや考えが整理され、ようやく自分を表現することができたんです。「ジェンダー」や「セクシュアリティ」という言葉も、カルチュラル・スタディーズに出会うまでは知りませんでした。今まで説明できなかったことや腑に落ちなかったことを言語化できるようになったことで自信を得ることができましたし、周囲ともコミュニケーションがとりやすくなりました。

        ―TAIRAさんはご自身のジェンダーを定義せず、あえて境界にいる存在としてメッセージを発信されています。しかし日本社会には、いまだ「女性/男性」という二元論で語ろうとする風潮が強いですね。

        わたし自身は、性別で分けることは重要視していません。ただ、コミュニケーションにおいて言語による分類が必要な時があることも理解できますし、自分のジェンダーアイデンティティを言葉で表現することの大切さもわかります。自分自身、小さい頃は「女性/男性」という二元論から抜け出すことは不可能だと思っていました。今では、人をジェンダーのフィルターで分けて見ることは無くなりましたし、誰もが個人のパーソナリティの中に、多様な形で男性性と女性性が共存しているのではないかとも感じています。

        ―実際にカメラを向けられてモデルとして身体表現をするとき、どんなことを考えていますか?

        クライアントが自分をどんな意図で起用したのか。わたしというパーソナリティにフォーカスしたいのか、クリエイティブチームがイメージしている人物像があるのかなど、その撮影の目的をまず考えます。特に初めて一緒に仕事をするフォトグラファーの場合は、初対面の人とダンスをするように、お互いのリズムを少しづつ調整して息を合わせていく感覚です。フォトグラファーやクライアント、スタッフの反応を感じ取りながら体を動かします。

        ―今回は女性をメインとした企画にご出演いただきましたが、どのような心境で参加されましたか?

        国際女性デーやプライド月間など、女性やマイノリティの人たちがエンパワーされることはとても重要だと思います。ただ、最近は世界的にSDGsやダイバーシティを企業のパーパスとして掲げながら、その実、マーケティングにだけ利用している「ウォッシング」もある。また、当事者ばかりに焦点が当たると、マジョリティとマイノリティとの分断線が補強されてしまいます。社会全体がジェンダーやセクシュアリティの問題について積極的に取り組むことで、個人が考え、対話が増えるきっかけになることを願うばかりです。こうした課題意識が当事者だけの間で共有されるのではなく、メディアや対話を通してさまざまな異なる価値観を持つ人々に理解が広まることに期待したい。自分もそういった動きにコミットできたらという思いで活動を続けています。

        ―今まで生きてきた中で、印象的だった女性像はありますか?

        いちばん身近にいた女性は母でした。わたしは、どちらかというと伝統的な日本の家族の中で育ちました。母が家で子育てをし、父は仕事で忙しく家にいないことが多かった。今ほど言葉で表せなかったとしても、子どもながらに、なぜお母さんだけが家事をやっているのだろうと疑問に思っていたのを覚えています。母の芯の強さや、家庭を支えるために尽くしてくれたことには感謝していますし、尊敬している部分でもあります。日本の家族は、女性といわれる方々が静かに支えてきたから成立していたんだろうと感じます。

        ―5歳のTAIRAさんが目の前に現れたら、どんな言葉をかけたいですか?

        周りの人と違う、と感じることに悩んでいたので、悩む必要はないんだよって伝えてあげたいですね。自分のアイデンティティに対する葛藤を乗り越えた後に、より開かれた人生が待っているよ、と。当時は故郷の北海道は何もない場所だと思っていたから、北海道の自然を十分楽しんでね、とも伝えたい。ありきたりですけど、親に感謝して、友達を大事にしてね、って。