アートディレクター吉田ユニさんが試み続けた幼少期の再現世界

「子どもの頃、どんなことしてました?」 vol.2

  • FAMILY
  • 2021.11.24 WED

ファッションや広告から、Charaや木村カエラ、星野源などのCDアートワークまで、現実と非現実の間で見たことのない世界のつくりだすアートディレクター吉田ユニさん。見立てや擬態、錯視的など様々な視覚的なトリックで観るものを魅了しています。ディティールを追求し続ける吉田さんの表現の根には、様々な再現にこだわり続けた子ども時代があるのかもしれない。マフィア映画を愛し、心にそのエッセンスを宿す吉田ユニさんの子どもの頃。

吉田ユニさん

近所の駄菓子屋のおじさんがいつも柄ものの靴下を履いていて、その柄も家に帰ってから描いていました

柄が気になる

ーー 子供の頃の記憶はある方ですか?

吉田 断片的ですけど、記憶はあるところはけっこう細かく覚えているかもしれません。

ーー 初期の記憶にはどんなものが?

吉田 昔、父の友だちが家に来た時のシャツの柄をすごく覚えていて、それを後から思い出して描いたのを覚えています。あと、近所の駄菓子屋のおじさんがいつも柄ものの靴下を履いていて、その柄も家に帰ってから描いていましたね。

ーー 柄好き。幼稚園の頃ですか?

吉田 2歳とか3歳とかですね。幼稚園の記憶はけっこうあって。「ここになにが置いてあって」「こういう場面に誰が何か言った」「引き出しを開けた時の匂い」とか覚えています。

ーー 「いい思い出」「いやな思い出」とかじゃなくて、「ただ覚えている」?

吉田 ただ覚えているのもあるし、印象的だったのもあります。幼稚園の休み時間に砂場でおだんごをつくるのに夢中になって、パッって顔を上げたら、休み時間が終わっていて園庭に誰もいなかった。教室に行ったらみんなが輪になって、次の何かがもう始まっていました。その記憶はすごくはっきりありますね。

ーー 幼稚園ではどういう子どもでしたか。

吉田 すごい目立つわけでもなく、“さすらい”っぽい感じというか…

ーー 特定のグループに所属していたわけじゃなかった?

吉田 特定のグループにもいるんだけど、別のグループとも仲良くもしているし。わりとマイペースな感じだったんじゃないかな。「一人でもそんなに気にならないし。でもみんなといても楽しいし」みたいな。

耳掻きの綿のところにベビーパウダーをつけて、家中の指紋を採取しました

まず入れ歯をつくる

ーー いろいろな人と仲良くできるタイプだったんですね。先程、砂のおだんごに夢中になった話がありましたが、「何にハマっていた」とかありましたか?

吉田 鍵っ子だったので一人でよく遊んでいたんですけど、工作がすごく好きでごっこ遊びをする時に、おもちゃの道具を自分でつくって遊んでいました。例えば、「歯医者さんごっこしよう」と一人で決めて、「まず入れ歯を作ろう」と。

ーー まず入れ歯。

吉田 そう、まず入れ歯。ピンクの練り消しで歯茎をつくって、近所にあったちょうど歯くらいの四角い白いキレイな石を拾ってきて並べるんです。小さいのを前歯、大きいやつを奥歯にして。それに黒いマジックで虫歯を描いて、白い絵の具を塗って治療する。入れ歯一つ一つに名前をつけて、治療箇所もイメージのドイツ語でカルテにシャーっと書いたり、勉強机のライトをグッと近づけたりして。けっこうリアルにやっていました。そういう「それっぽく」リアルにつくるのが好きだったんです。警察の鑑識に憧れていた時もあって。

ーー 事件現場を調べる鑑識?

吉田 そうそう。耳掻きの綿のところにベビーパウダーをつけて、家中の指紋を採取しましたね。怒られましたけど。でも、実際にはベビーパウダーでは指紋は取れないじゃないですか。でもどうにか指紋が取りたくて、セロテープを指に貼ると指紋が写ることに気づいて、お母さんの指紋を採取して黒い紙に並べて貼ったり。家にあるものをビニール袋に詰めて、証拠品として並べたりもしてましたね。

ーー 事件は家で起きていたわけですね。

歯医者ごっこで再現したかったのは、音

ーー お姉さんがひとりいるとのことですが、 一緒に遊んだりはしていましたか?

吉田 あんまり一緒に遊んでなくて、お姉ちゃんは習い事をしていたからかも。

ーー お姉ちゃんとは遊びの世界観が違った?

吉田 まったく違いましたね。

大好きなおばあちゃんと

とにかくディティールにこだわってつくるのが好き

ーー 「わたしの世界」はどんなものだったんでしょう。

吉田 とにかくディティールにこだわってつくるのが好きでした。たとえば、音。歯医者さんごっこでもピンセットとか金属の道具を使った後でトレーに置く時の“カチャ”っていう音とか、そういうのを再現したくて。いろいろな器と道具で試しました。あとNHK教育でやっていたノッポさんの『できるかな』もすごい好きだったんですが、ノッポさんがつくるものをマネするというよりは、ノッポさんが静寂の中で何かをつくる時のセロテープの音とかをマネしていました。

ーー 無言のノッポさんがテープを引っ張る音。

吉田 そう。ピッとか、ピッピーィとかのあれ。

ーー もはやSE。

吉田 そう(笑)、SE。

ーー 音が気になって、何回も再現してみたと。

吉田 そう、あの音が好きで。あとはこれもNHK教育ですが、『たんけんぼくのまち』。番組の最後に大きな白い紙に地図を描くんですが、すごいスピードで描くんです。それが早回しだということをよくわかってなくて、実際にあの速さで描くものだと思い、自分でもリアルに早回しのスピードで描くというのをやってました(笑)。

ーー だいぶ無茶。でもいろいろなことを再現するというのが多いですね。

吉田 あ、もうひとつ思い出した。折り紙で“スーパーごっこ”や“八百屋さんごっこ”もやってました。実際のお肉が入っていたトレーにお肉みたいに折り紙でつくってラップかけて並べたり、新聞紙を大きなスイカぐらいに丸めて、緑と黒の折り紙を貼ったり。でもスイカはそれだと全然リアルにならなくて。でもそれをスーパーのビニール袋に入れてみたら、ちょっと透けている感じがリアルで、その袋を下げて近所を散歩して、本物のスイカを持っているかのうように見せて歩きました。

ーー なるほど。「再現が好き」は、ただものをつくってマネをするというより「状況を再現したい」ということなんですね。

ピクセル状のパインが溢れ、こぼれ落ちている。スイカは偽物を本物に見せていたが、こちらでは本物が偽物のように見えてくる
アナログにりんごとバナナがブロック状に組み立てられている

お姉ちゃんの部屋の前でよく死んだふりをしていました

誕生日プレゼントはアルミホイル

ーー 「お姉ちゃんとは世界観が違う」というお話でしたけど、お姉ちゃんやお母さんにつくったものを見せたりはしていなかったんですか?

吉田 たぶんしていたけど、相手にされた記憶がないです(笑)。特に褒められもしなかったですね。

ーー 周りがどう言うかは気にしなかった。

お姉ちゃんと

吉田 お姉ちゃんは真面目に宿題とかをしていて、なかなか遊んでくれなくて。だからお姉ちゃんの部屋の前でよく死んだふりをしていました(笑)。何度も同じことをやっていると「あ、またやってる」となるから、だんだん赤い画用紙を血だまりみたいな形に切って、その上に倒れてるみたいな進化もさせたりしましたけど、だめでしたね(笑)。

ーー お互いの役割に徹した姉妹。

吉田 あとアルミホイルがすごく好きで。お母さんに「誕生日にアルミホイルが欲しい」とお願いして、いろんな種類のアルミホイルをいっぱいもらったこともありました。ロールだけじゃなくてお弁当に入れるカップ型みたいなやつとか。

ーー 素直に応えるお母さんもお母さんですごいですが、アルミホイルは何のために?

吉田 いろんなものに巻き付けたり。音を聴いたりとか。

ーー たしかに独特の音がします。

吉田 あとは皺くちゃになったやつをひたすら伸ばしたり。

ーー そういう自分がこだわっていることに親や他の人が入ってくると、「邪魔しないで!」みたいなこともありました? 

吉田 そんなことないと思いますけど、そもそもあまり人が介入してきた記憶がないです。逆に「こっちが引き入れようとしても誰も入ってくれない」みたいな(笑)。

雑誌「装苑」2021年3月号(文化出版局)のために制作された作品
ジュエリーブランド「e.m.」の25周年ビジュアル

そういう感じで生きている

ホラーやスプラッター以上にとにかく好きなのはマフィアものと刑事もの

ーー 今年の6月から楳図かずおさんの「こわい本」シリーズ(角川書店)の装丁の仕事もやられていますけど、ホラー漫画は昔から好きだったんですよね?

吉田 大好きです。

ーー 子どもの頃から?

吉田 小学生の頃、『学園七不思議』というアニメがやっていて、そのエンドロールに“つのだじろう”という名前を見つけたんです。平仮名で目立っていたので「この人が描いているんだ!」と思っていたら、近所の本屋に行ったらつのだじろうさんの『うしろの百太郎』があったんです。「ハッ!これ!」と思って買って、そこからホラー漫画がずっと好きです。でも私の世代の作品じゃないから、普通の本屋にはなくて、古本屋に一人で通うようになりましたね。

ーー ホラー漫画はどういうところが好きなんですか?

吉田 なんだろう、「わからないことだから知りたい」というか。怖いもの見たさというか。実際観ると怖がるんですけど、ホラー映画やスプラッター映画も大好きです。

ーー ホラーやスプラッター好きがアウトプットするものに影響することもあるんですか?

吉田 あんまりないかも。でも、わたしの作品だけ見ると、ファンタジー映画が好きそうと思われることが多いですね。

ーー そうかもしれません。ミシェル・ゴンドリーとか。

吉田 そうそう。だけど、自分ではつくるものとそういう世界観とはあまり結びついていないんです。ホラーやスプラッター以上にとにかく好きなのはマフィアものと刑事ものですし。

ーー マフィアものと刑事もの。再現の医者の世界もそうですけど、ある種の閉ざされたというか、それぞれのルールで動いている世界が好き?

吉田 なんというか、私の中の「男の血が騒ぐ」というか(笑)。男の世界がすごく好きで、男同士の絆ものにとにかく弱い。マフィアものはまさにですよね。

ーー 「絆しかない」と言ってもいいほどに。

吉田 そこのために観てます。

ーー 好きなものの現れが、“再現”と“絆”という。

吉田 全然別のベクトルですね。

ーー 「女の子の世界にそういうものがあったらいいな」ということでもなく、フィクションとして見ているわけですよね?

吉田 いや、なんというか、自分となにか通じるところがあると(笑)

ーー 「わたしとマフィアの絆に通じるところがある」と。

吉田 「気持ちが理解できる」というか。「そういう感じで生きている」というか。

ーー 心持ちとして。

吉田 はい。

昔から現実的なんです

実際に存在しているんだけど、肉眼で見えないものを見る

吉田 昔から現実的なんです。ファンタジーっぽい話があまり好きじゃなくて。「現実に起こる事の中での奇跡」みたいな方が好き。

ーー なるほど。

吉田 だから実際のリアルなものを再現するのが好きだし、本でもノンフィクションのほうが好きです。あとは歴史物とか図鑑とかも好き。それはたぶん昔も今も変わらずなのかな。顕微鏡で家の中のほこりとかを見るのが好きだったのも、「実際に存在しているんだけど、肉眼で見えないものを見る」ということだから。

ーー 「現実にある隠された何か」に興味がある。

吉田 そうそうそう。そういう方が好きです。

ーー マフィアや刑事ものの香りがしてきますね。ファンタジーだったら「何が起きてもあり」になってしまう。

吉田 それはそれで素敵な世界なんですけどね。

ーー 周りからは「醒めている」「現実的」、もしくは「熱い人」と見えていたりするんでしょうか?

吉田 たぶん誰にも現実的には思われてなかったと思う(笑)。自分は現実的だと思っているんだけど、人からしたら空想に思われていたかも知れない。

ーー なるほど、基準値がそもそもズレている。

化粧品ブランド「ettusais」2021 ettusais winter collection ビジュアル
現実の風景のなかに不意に唇の形が現れたような作品

お医者さんごっこで大切にしたのは物や音

ーー 今のお仕事の作品は、現実の風景を歪めたり、世界を偽装するような感覚のものが多いと思います。再現とはまた違いますが、その頃とつながっている感じはありますか?

吉田 どうなんでしょう。ディティールにこだわる感じはなんかつながってそうな感じはしますね。

ーー 大雑把な再現は“再現”ではないし、世界を違う角度で見せならディティールへのこだわりこそと。

吉田 そうです。好きなところがそこだった。「お医者さんごっこする」するなら、普通は人形を用意して、「どこが痛いんですか」とかそういうことをやりますよね。私は、物や音が気になった。歯医者自体は好きではなかったけど、行くとじろじろ観察して「何が置いてあるんだ」「なんだこの綿は」「なんだこの形は」ってやっていました。

ーー そうして毎回力作が出来上がっていく。

吉田 でも、つくってしまうと特に執着や関心はなかったんですよ。

ーー 次だ、次と。

吉田 うん。親から特に褒められもしませんでしたし(笑)

ーー 子どもは褒められるから続けるということもある気がしますけど、そうじゃなかった。

吉田 自分で満足したんでしょうね。そういえばキョンシーも好きだったんですけど、黄色い折り紙を短冊状に切って、赤いペンでキョンシーのお札をひたすら書いて分厚い束にして持っていて、お母さんに怒られたら、お札をピッって貼るというのをやっていました。

ーー 怒られそう。

吉田 余計に怒られました(笑)

ーー でしょうね(笑)