09
表現の力
#SHIZUKA
ISHIBASHI_
ACTOR

身体表現への
飽くなき好奇心と向上心。
次世代俳優の目指す世界とは。

PROFILE
石橋静河 / SHIZUKA ISHIBASHI
女優
1994年、東京都出身。4歳からクラシックバレエをはじめ、09年より米ボストン、カナダ・カルガリーにダンス留学後、13年に帰国し、コンテンポラリーダンサーとして活動を始める。15年より舞台や映画に活動を広げ、16年にNODAMAP舞台「逆鱗」に出演。17年には初主演作『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』(石井裕也監督)などで、第91回キネマ旬報ベスト・テン新人女優賞など数多くの新人賞を受賞。

フィジカルな面から
お芝居を突き詰めていきたい。
身体的なことを追求するってすごいことだから。

石橋さんはずっと踊りを志していたそうですね。

踊りは物心ついた頃にはやっていて、はじめは習い事の延長線でした。でも小学校に入ってから、周りがざわつきだして、「あなたの親って芸能人なんでしょ」って言われるようになって。それが嫌で、自分は女優にはならないぞって、私は踊りでやっていくんだって決めてました。

踊りの中でもバレエを選んだ理由は?

バレエって本当に難しいんです。私はすごく下手くそで、「バレエに向いていない」ってしょっちゅう言われていて、それが悔しくて。うまくなりたいって毎日練習しました。苦手だからこそ、少しずつできるようになることが面白かった。負けず嫌いで続けていたという感じですね。

さらに面白くなって…。

15歳のときに留学しました。まずアメリカ・ボストンのバレエ学校に2年通った後、カナダ・カルガリーの学校に移ったんです。アメリカでは、ジョージ・バランシンという振付家の「バランシンメソッド」を採用しているところが多いんですが、私が思うにそのメソッドは、顔が小さくて、足が子鹿のように細くて長い人が身につけて成立するもので、日本人体型の自分は限界を感じました。それでカナダの学校に入り直して。そこには、服部有吉さんというダンサーのレッスンを受けたいという、明確な目的を持って行きました。

服部有吉さんは、どういう方なのでしょうか。

服部さんは13歳のときからハンブルグのバレエ学校に1人で行ってずっと勉強して、ヨーロッパでソリストになった方なんですけれど。初めて会ったのは私が13歳くらいのとき。「そのままじゃプロになれないよ」とはっきり言われたのが衝撃的だった。そこから、バレエに向き合う姿勢が変わった。わたしの人生のキーパーソンです。彼はバレエダンサーとしては身長も高くないんですが、その身長を補う以上のテクニックでソリストになったんです。だからこそ、“体を使う”ということに意識的な人で「本当の意味で体をちゃんと動かすことができたら、バレエに限らずコンテンポラリーもヒップホップもできるよ」ということを教えてもらって。それで世界が広がって、ますます踊りって面白いなって。さらには「演技も身体表現だよ。顔だって体の一部なんだから片方だけ動かすとか、トレーニングすればできるようになる。フィジカルを突き詰めるという意味で芝居を捉えれば、きっと面白いんじゃないの」と言ってくれました。そうやってコンテンポラリーダンスに目覚めつつ、ちょっとずつ演技にも惹かれている自分がいました。男性ですが、彼はわたしの中の#shemovesmountainsですね。

そこから、どのように演技の世界に足を踏み入れたのでしょうか。

留学を終えて18歳で日本に帰ってきて、アルバイトをしながらコンテンポラリーダンスを2年くらい続けてたんです。でもバレエには型があって、「バレエに身を捧げる」という感覚で、やることも明確。一方でコンテンポラリーダンスは、自分自身が表現していくことが強く求められます。すごく孤独な作業でした。公演に出るようにもなっていたんですが、自分の中にまだ何もないことに気がついた。そして、自分がどう動きたいのか、何を表したいのかという内面は、1人で続けているだけだと広がっていかない。色々な人の人生を知るようにしないと、このまま踊りだけ続けていても意味ないかもしれないって。一方でお芝居には、脚本家の台詞があり、監督からの指示や、カメラのポジションなど、いろんな視点がある。そう考えていた時にちょうど事務所から誘っていただいて、演技の世界に飛び込むことにしました。

ダンスを豊かにしたいという思いから演技を始めたんですね。

ダンスを辞めようとは一切思わなかったですね。プロのダンサーは毎日踊って体を研ぎ澄ませすことが求められますが、そうじゃない踊りの道もあるんじゃないかって。例えば私は、芝居をしていても、自分の中で踊りの感覚が大きく占めている部分があって、止めようと思っても止められない。だったら私はもっとフィジカルな面からお芝居を突き詰めていけるのかな、と思いました。頭で考えたことを正確に体で表現するのが、「体を使う」ということ。例えば「二回転したい」と思ったら即座に確実に二回転ができる。それって実はすごいことだし、いろんな道につながると思うんです。

ボーダレスに人と会って面白いことがしたい。
そのためには、自分からもっと
アクションを起こさないとなって。

映画だけでなく、舞台にも挑戦されていますね。

2019年は、舞台に出演させていただく機会に恵まれました。舞台だと「日本語だとうまく伝えれない」という私のコンプレックスを気にしている余裕もない。演出の指示通り、とにかくいろいろ考えずにとにかくおなかからわーって声を出したら、自分の固まっていた部分がほぐれていったんです。すごくいい経験になりました。でも、セリフに対してはまだコンプレックスがあります。英語って「私はこれが好き。なぜならこうだから」とか、まず先に結論を言うじゃないですか。だから頭の中がすごくクリアなんですよ。それが日本語になった途端に、すごいもじもじしちゃうところがあって。あとは演技の中のセリフって普通は声に出して言わないこともあるから、説得力を持たせて言うためにはテクニックも必要だとも思っています。すごく難しいですね。

今一番、心がmoveすることは何ですか。動かされているものって何ですか。

実は歌うことが好きなんです。過去に家を出られないくらい、立ち止まってしまった時期が1年程あり、そのときに初めて歌を作りました。自分の中の何かを消化するための作業だったんですけれど、すごく息抜きになって。ダンスはずっと続けてきたことだから自分に対して批評的になってしまう。でも歌はどんなに下手でも構わない。気楽なのかもしれません。あとダンスは全く声を発さないから、芝居を始めて自分の声について知るようになり、歌うのがさらに楽しくなりました。

未来でmoveしていきたいものはありますか。

先日、オランダ人の方と仕事する機会があって、同世代の女優さんとすごく仲良くなりました。身体能力も高くて、芝居に対してフィジカルな姿勢にも共感できて、一緒に仕事したいと思った。そして彼女は何に対しても自分の意見をはっきり言う人で。喧嘩をするわけじゃなくて、私はこう思うってはっきり言い合える。それって実は、相手の言うことをすごくよく聞いているんですよ。だからこそ意見の交換ができる。でもそれをしようとすると、生意気だなって日本だと思われちゃうことがあって……。だからと言って、海外に行きたいとか、日本を変えたいとかじゃなくて、単純にボーダレスに人と会って面白いことがしたい。それには自分から、もっとアクションを起こさないといけないと思っています。もしかしたらこっちにもっと違う理由があって。もっと面白い答えが出てくるんじゃないかって。それを見ないまま結論を出したくない。


  • Photo / Chikashi Suzuki
  • Movie / Yu Nakajima
  • Illustration / Ran Miyazaki
  • Interview / Miwako Hosokawa