ケゴンベルグとそのレース
ハードなだけじゃなく
観客もハートで繋がる大会を目指して
ハードなだけじゃなく
観客もハートで繋がる大会を
目指して
「エルズベルグロデオのようなハードエンデューロレースを日本で」。そういった思いを胸に石戸谷さんが主催するクロスミッションの企画運営で今年3月27日に神奈川県厚木市で行われたイベント“ケゴンベルグ”。春の嵐が吹き荒れた前日から一転し、穏やかなオフロード日和に迎えたこのイベントでは、200人のライダーに加え約1300人の観客が、舞台となる“人の森 華厳工場”へと集まった。主にコンクリートに使われる素材の砕石場であるこの場所は、今季GOLDWIN MOTORCYCLEシーズンビジュアルのロケ地としても使用したスポットだ。
地形的にも山の斜面であるここは、雄大かつ急な勾配、砂や土、岩場など様々な状況が揃う、ハードエンデューロにとっておあつらえ向きな場所。過去には、愛媛県の砕石場を使用したシコクベルグという大会を2度開催したクロスミッションだが、今回、ケゴンベルグの舞台となった人の森 華厳工場について石戸谷さんはこう話す。「シコクベルグを開催した西日本砕石代表の岡社長からの繋がりで、人の森株式会社の代表を紹介してもらったんです。僕が厚木から近い場所に住んでいることもあり、そういった繋がりのおかげで前向きに開催することが決まりました。一般的には、オフロードバイクレースとなるコースはアクセスが悪い場所が多いです。今回のケゴンベルグに関しては今までにないほど都市部からのアクセスが良好でした」。これまでであれば、移動に3時間以上かかることなど当たり前な場所が多かったオフロードのイベントも、厚木市という東京から車で1時間ほどという立地も相まって、当日は関東のみならず全国から熱心なファンが集まった。イベントの目玉は、もちろんハードエンデューロレースであるのだが、子ども向けのイベントやGOLDWIN MOTORCYCLEをはじめとしたバイク関連メーカーなどのブース、フードの出店も多く一帯はお祭りのような熱気を帯びていた。
午前9時50分。200人のライダーが一堂にスタート地点へ集い、全員がスロットルを捻り、エンジンを温める。ライダーたちの鼻息の荒さを表すかのように、その鼓動は力強く、この大会のファンファーレのよう。そして、午前10時。打ち上げられた花火とともにスタート。最初の難関である限りなく壁に近い急斜面から、筆者を含むオフロードの初心者は圧倒された。スキルや経験のあるライダーは難なく超えられるのだが、それはあくまで極一部。ほとんどは、転ぶ、落ちる、吹っ飛ぶ、といった様子。インタビュー時に石戸谷さんが放った「上からバイクが飛んでくるので気をつけてください」という奇天烈な一言の意味を開始1分で理解した。
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そんな中でも、失敗してもなお果敢に難関へと挑む様子や選手のみならず観客すらも転んだ人を助ける様子が、レース中の至る所で見ることができた本大会。それに加え、コースを達成した時の選手の天にも上るような気持ちの良い表情を見ると、あの完走率1%にも満たないエルズベルグロデオになぜライダーたちは挑み続けるのかが少しわかった。「アクセルを上げるタイミングはここで良いか? 荷重のタイミングは? ライン取りはどうか?。答えは無限大にあって、その中でベストアンサーを見つけられた時にクリアができる。行けなさそうな所を登れちゃった時がたまんないですよね」と石戸谷さんが話すように、達成した時の喜びや最中の楽しさや苦しみは出場している選手が真に味わえるものだろうが、側で応援している仲間や家族などの観客にもその気持ちは存分に伝わっていた。ハードエンデューロは、荒々しいバイクレースということもあり、“危なそう”という印象があるかもしれないが、実際にこのレースでは仲間や家族の助けあいが多々行われ、妻と一緒に父親のバイクを押す子どもの姿や、彼氏の成功を不安げに見つめる彼女の様子などハートウォーミングな場面が多々あったことから、これまで持っていたこのレースに対しての印象が変わった。「バイクを起こす気力も残っていない人、あとちょっとで登れるんだけど体力的に辿り着けない人。そういった人間の限界をこのレースではたくさん見れます。そうした時に、観客も交えた助け合いが必ず発生する。そうしたギリギリの精神状態の時に助けてもらった人は助けてくれた人に対して最大限の感謝をするし、そこには最高のコミュニケーションが生まれます。このハードエンデューロが更に世の中に知れ渡った時、こうしたポジティブな空気感が素晴らしさとして伝わっていけると良いと思っています」。
そして、午後1時。終了を意味する花火の合図とともにレースは幕を閉じる。完走者は約1割の23名。完走すら難しいことが容易にわかるこの数字だが、コースを3周するというトップライダーも3名おり、他の追随を許さないテクニックには誰しもが見惚れていただろう。それでも、「競技性は担保しながらリスクを排除していく工夫をし、なるべく怪我をしないようなコースを作っています」と石戸谷さんが話す通り、大きな怪我なくレースが終了したことは、今後継続的なイベントを行なっていく上で意味を成すはずだ。
僅差で優勝争いを行った1位の山本礼人選手(左)と2位の藤原慎也選手(右)。ゴール地点で力強くお互いの健闘を讃える。
上位10名にはトロフィーを授与。舞台となった人の森 華厳工場で採取した石を使用したこのイベントらしいトロフィーだ。