焚火と料理 – マッチ未経験の女の子が焚火で遊ぶようになるまで

焚火がブームとなって久しいですが、焚火をやる人は増えても、どこでも焚火ができるようになったわけではなく、日常の中で火を熾し、火を使うというシーンはなかなか現れません。オール電化の家はコンロに火もなく、タバコを吸う人が減り、仏壇もなくなったことでライターやマッチを使うことも減りました。子どもが日常的に火と接する機会が減ったということでもあります。 そんななか、今年10歳になる子に声をかけ、アウトドアコーディネーターの小雀陣二さんを先生に、火熾しからの焚火と焚火を使った料理を体験してもらいました。火を扱うことになれていない子どもは何を楽しみ、何を手惑い、どう火と付き合うのか。

家のいいところを集約して表現するような焚火

焚火は大人も子どもも惹きつける

 焚火を親しむ大人と同じ場に子どもがいれば、子どもは自然と火に慣れ、自分で火を扱うことの怖さもなくなっていきます。火を熾し、薪へと火を移して、必要に応じて強さをコントロールする。大きな炎を出すことや熾り火のまま火を維持することなど、それぞれに必要な経験や知識、状況を見定める目や手さばきがあります。そうしたことは、実践の中で教わり、やってみるなかで身についていきます。

 料理にとって火は欠かせないものですが、アウトドアにおいて焚火と料理はセットで行われるという意味でも、象徴的、中心的な存在でもあります。焚火のある場所は、リビングのように人が集まってくつろぎ、キッチンとして料理を作り、ダイニングとして振る舞う場所になる。夜になれば、そこは親密で小さな誰かの部屋のようにもなります。ひとつの場所で、家のいいところを集約して表現するような焚火。多くの人がその魅力に取り憑かれるのも納得がいきます。

緊張からはじまる焚火と料理体験

 そんな焚火の魅力を子どもに経験してもらおうと、今年10歳になるももこちゃんに火を熾すところから料理体験をしてもらうことに。90年代からアウトドアコーディネーターとして活動し、様々なアウトドア、焚火料理の本を出されている小雀陣二さんを先生にお迎えしました。初めての火熾しからどんな風に火との距離が縮まっていくか楽しみです。

アウトドアコーディネーターの小雀陣二さん
最初はちょっと不安そうなももこちゃん

 小雀さんはももこちゃんに「小雀だからチュンチュンと呼んで」と自己紹介。ももこちゃんは恥ずかしがってなかなか声を出せないながらも、しっかりやる気は示してくれました。

 今回つくってもらったのは、「オープンサンドイッチ」。ベーコン、レタス、トマトが入ったいわゆるBLTサンド。「なぜこのメニューに?」という質問に、小雀さんは「僕が好きだから!」と言っていました。なるほど。(実際には、段階を追って難易度を上げやすく、見た目にもわかりやすいという意味があります!)。
 火の扱いの難しさと料理の手間の観点で難易度を4段階に分け、順番に挑戦してもらいました。

 普段から家で料理の手伝いをすることもあるというももこちゃん。想像以上に難なく火を扱い、焼いて、切っていく姿に関心しっぱなしでした。

難易度1は、火に慣れるウォーミングアップ

 みんなで手伝いながら焚火と料理をする場所をつくっていきます。

いまハマっているのは「ハリー・ポッター」とスケボー、トム・ホランド版の「スパイダーマン」だそうです。

 最初の難易度「1」は、包丁を使ったことのない5〜6歳でも挑戦できそうなレベルから。すでに火が熾きて、火ができている状態からスキレットでパンを焼いてサンドイッチをつくります。

 ポイントは、スキレットでパンを焼くので火力調節はざっくりで大丈夫というところ。子どもが火を怖がっても、火を弱くして時間をかければ焼けていきます。

思わず火に見入ってしまいます


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【難易度1】
「ベーコン・オープンサンドイッチ」:スキレットでパンとベーコンを焼く

1:パンを両面焼く
2:ベーコンを焼く(大人がカット)
3:パンの上にレタス、焼いたベーコンをのせる
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 家で手伝いもするももこちゃんにとってさすがに簡単すぎたかもしれません。初めてちゃんと焚火を扱うため、パンの焼け具合は何度も確認していましたが、仕上がりはバッチリ。難なくこなしていきます。スキレットは熱くなるので持つときに手袋やミトンが必要になります。ももこちゃんも重さと熱さで扱いにくそうな瞬間もありました。

「おいしい、最高」

卵を割るという力の使い方

 早速、次のステップへ。次は先程の工程に、スキレットに手を近づけて卵を割るという丁寧な作業が加わります。「卵を割って目玉焼きをつくる」という手順には「いい具合の力加減」が必要で、「やったことがない子ややり慣れない子は、火傷に気をつけながら、割り入れるというのが意外とできないんです」と小雀さん。7歳以上、小学生ならできるのではという想定です。

「上手に割れない子はぶつけたまま下に落としちゃうんだよ」と小雀さん


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【難易度2】
「ベーコンエッグ・オープンサンドイッチ」:スキレットでパンとベーコンと卵を焼く

1:パンを両面焼く
2:ベーコンを焼く(大人がカット)
3:卵を割り入れて焼き、目玉焼きをつくる
4:パンの上にレタス。ベーコン、目玉焼きをのせる
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 先程難なくこなした工程に加えた「卵を割り入れる」という作業もサクッとこなすももこちゃん。話しを聞くと、メレンゲのお菓子をつくるのが好きでこれまでたくさん卵を割ってきたとのこと。ときに割りすぎて、今ではお母さんから1回に2個までとルールができてるそう。たしかに黄身だけ大量に残されても大変…。

はじめての火熾し

道具を使いこなす

 ここからは、火をゼロから熾すという難しい工程が加わります。しかも、レベル1と2とは違って直火で食材を焼いていくので、火を調整して熾火にしないと食材はすぐに焦げてしまいます。

 さあ火熾しです。小雀さんが用意してくれた火熾しの道具は、ファイヤースターターと麻紐、現地で拾った杉の葉。薪は細い枝から太いものまで三種類ほど。「火を付けるものとしてまだ新聞紙を使っている人もいますが、新聞紙は焼けカスが飛んでいったりするのでオススメしていません。杉の葉や松ぼっくり、麻ひもなど自然の素材がいいですが、ないときは牛乳とかの紙パックを使ったりもしてます」。

 「マッチを擦ったことがあるとファイヤースターターをすぐ使えることが多いんだけど、ももこちゃんは擦ったことある?」と話す小雀さんに、「マッチは使ったことないです」というももこちゃんが初めてファイヤースターターに挑戦します。ちなみに小雀さん自身は、普段ファイヤースターターは使わず、着火剤を使うそうです。ベテランの余裕と効率のよさ重視。

 マグネシウムの棒(ロッド)を、右手のストライカーと呼ばれる部分で削ってマグネシムの粉をほぐした麻ひもの上に落とします。そこにストライカーでロッドをこすって火花を出して引火させます。今日は麻ひもをほどいて、最初の火種とします。

 ももこちゃん、こするときに支えるロッドがブレてしまったり、こすり方が弱かったりと、最初はなかなか上手に両手の力のバランスが取れません。
 徐々に火花が出る回数が増えてきました。「手首をこう!」「もっと前の方から」「素早く!」と周りの大人たちからの小うるさいアドバイスが響きます。

 何度目かの「惜しい」の後、ついに! 着火! 休憩しながら20分近く諦めずにやり続けた根気もすごい。すぐに杉の葉を加えて、火が消えないようにしていきます。

 着火の練習を無事終え、本番。支えとなる大きな二本の薪を両サイドに置き、川の字のように間に細めの薪を並べます。そこに橋を渡すように細い薪を上に並べます。「こうすると間を空気が通っていくから、火がつきやすいんだよ」と小雀さん。

 息を吹いて酸素を送ると燃えるから吹いてみてと渡された「火吹き棒(ファイヤーブラスター)」。一気に火が燃えて誰もが楽しくなってしまうこれ、ももこちゃんも例にもれず、何度も吹いていきます。小雀さんは団扇派で、火吹き棒は持っていたけどほぼ使ったことはないそう。

 「白く濃い煙が出ている時は酸素が少ないということだから、薪を動かしてすき間をつくってあげて」というアドバイスを聞きながら薪を調整し、火が着いて安定してきたら、全体を川の字になるように渡した薪を並べ替えます。そうすることで空気の通る道を制限して、熾火になっていきます。熾火になったら、直火で料理開始!

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【難易度3】
「薪焼きベーコン・オープンサンドイッチ」:網焼きでパンとベーコンを焼く

1:火を熾して薪を熾火にし、炭のような状態にする
2:網と熾火の距離を調整しながらパンを焼く
3:同様にベーコンも焼く。
4:パンの上にレタス、焼いたベーコンをのせる
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 火熾しの苦労は何だったのか、焼く工程になるとももこちゃんは何の苦もなくこなしていきます。網の焼き目を調整するほどの余裕までありました。

「教えてもらう」から、自分で考えてやってみるへ

最後は自分で考えてやってみる

 最後は、メニューをひとつ増やします。包丁も使いますが、食材の切り方や調理について細かな指示はせず、ちょっとした助言程度にしてももこちゃんに任せてみます。

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【難易度4】
「薪焼きベーコントマト・オープンサンドイッチ」:網焼きでパンとベーコン、トマトを焼く
「(好きな食材を入れた)野菜スープ」:食材を適切な大きさに切り、炒め、茹でながら味をつける

1:トマトを包丁で厚めにスライスする
2:(難易度3の火を使い)熾火でパン、ベーコン、トマトの順に焼く
3:パンの上にレタス、焼いたトマト、ベーコンをのせる。

A:食材の中から、スープをつくるのにふさわしいと思う好きな食材を選ぶ
B:食べたい大きさに切る
C:オリーブオイルでソーセージを炒める
D:水を注ぎ、煮立たせながら他の食材を入れていく
E:塩、胡椒で味付けをする
F:食材の大きさに合わせて火の通りを確認して出来上がり
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 トマトを切り、焼く工程が入ってもサンドイッチはお手の物(トマトは何度かつまみ食い)。何にも問題ないかと思いましたが、火の扱いに慣れてきたところで周りの話しに気を取られてパンを少し焦がしてしまいました。でも大事には至らず。

 スープはたくさん用意された食材の中から使うものを自分で選んでもらいます。ももこちゃんがまず選んだのは、マッシュルーム。迷いなく包丁を入れたら、次にソーセージ、アスパラを手に取り、すごいスピードで切っていきます。アスパラを切る速さは、見ている大人がびっくりするほど。他にもトマトやブロッコリーをチョイス。

 熾火から火力を強めるため薪を追加してもらいます。火遊びを交える余裕も見せながら薪を焚べ、息を吹いて火を強めていくももこちゃん。ソーセージを炒めたら、水を入れて他の野菜も追加し加熱していきます。カットサイズも味付けもバッチリ。これからはひとりで任せられますね。

不安から遊びへ

遊びは安心からはじまる

 後半からは火を怖がることもまったくなく、周囲に落ちている杉の葉や枯れ枝を拾ってきては焚火に焚べて楽しむようにまでなっていました。火吹き棒を使わず、直接息を吹いて火を強くしたり、もう大人がどうこう言わずとも焚火の仕組みを理解している様子。ファイヤースターターの苦戦が嘘のようです。

 口数の少なかった最初からは想像できないほど、長い時間の料理も焚火も笑顔で楽しんでくれました。小雀さんは、手取り足取り全部を教えるのではなく、少しづつアドバイスを入れながらも子どもが自分でやって覚えるように導いていました。楽しみながら自分で考え、失敗するかもしれないチャレンジを続けていく姿から、だんだんと遊んでいる姿が見えてきました。最初の不安が混じった状態から、人に慣れ、火に慣れていくことで、安心が得られて、安全が確認できたということかもしれません。遊びは、安心してリラックスした状態でこそ自発的に生まれてきます。

 ももこちゃんと小雀さんの距離も徐々に縮まり、笑いながら話をしていました。が、残念ながらももこちゃんが子雀さんを「チュンチュン」と呼ぶ声は最後まで確認できませんでした。次なるハードルは料理や焚火ではなく、そこかもしれません。次回最初から「チュンチュン」と呼べたら、そこからすぐに遊びが始まるはずです。




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【協力】
今回の取材は小田原の「RECAMP おだわら」のご協力のもと行いました。

「RECAMP おだわら」
神奈川県小田原市久野4294-1​
https://www.recamp.co.jp/

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