THE NORTH FACE MOUNTAIN

LAYERING THEORIES #10
2022 JUNE

“EMERGENCY JACKET” IMPRESSION

薄手ウインドシェルのように超軽量ながら、荒々しい岩肌や藪こぎでも強靱な強さを持つこの1着は、特殊なダイニーマ素材を採用しています。携行していることすら忘れるほどの軽さながら、いざという時に頼りになるという、文字通りの非常用ジャケット。日頃から愛用している二人のクライマーであり山岳ガイドに話を訊きました。

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薄手ウインドシェルのように超軽量ながら、荒々しい岩肌や藪こぎでも強靱な強さを持つこの1着は、特殊なダイニーマ素材を採用しています。携行していることすら忘れるほどの軽さながら、いざという時に頼りになるという、文字通りの非常用ジャケット。日頃から愛用している二人のクライマーであり山岳ガイドに話を訊きました。

軽量薄手ながら、非常に強靱さを兼ね備えたこのジャケットは、もともとは、マルチピッチルートを登るクライマーが、ハーネスにクリップさせて持ち運べる軽量かつコンパクトな防風&防水ジャケットとして開発されました。

カラビナでハーネスに提げていることを忘れるほど超軽量ながら、荒々しい花崗岩の岩肌と擦れても破れない強靱さと引裂強度を持ち、不意の風や降雨にもしっかり対応する。こうした相反する機能性を実現したのは、薄手ながら高強度なダイニーマという素材です。

この特殊な先端素材は、疎水性、つまり、素材自体が水を含むことなく、極薄でも切り傷や擦れに強い高い耐切創性を持ち、なにより、薄く非常に軽量です。

ちなみに、ダイニーマを使ったコンポジットファイバーにはさまざまな仕様があり、空気をまったく通さないものもありますが、このエマージェンシージャケットに採用した素材には若干の通気性があり、裏地にePTFEメンブレンを採用することで、耐水性と透湿性を発揮する素材になりました。

今回は日頃からこのエマージェンシージャケットを愛用している二人の山岳ガイドでありクライマーのインプレッションです。アルパインクライマーの佐藤裕介さんのホームマウンテンは、本格的なマルチピッチルートの充実度で知られる山梨県の瑞牆山。ヤスリのように荒々しい花崗岩の岩肌は、アウターシェルにはけっして優しくない環境です。

一方、オールラウンドなクライミングに取り組んでいる山岳ガイドの松本省二さんには、沢登りでの使い心地にフォーカスしてもらいました。濡れた岩や泥の斜面に擦れ、藪こぎも多い沢登りもまた、アウターウエアには非常に過酷なアクティビティといえます。

——アルパインクライマー
佐藤裕介さんのインプレッション

佐藤裕介さんはアルパインクライミング、ボルダリング、フリークライミング、沢登りなど、クライミングカテゴリーのすべてに傑出した実績を残してきた日本屈指のクライマーです。現在はクライミングガイドとして甲府周辺や瑞牆山など地元山梨県の岩場を中心に活動しつつ、現役のクライマーとして日々、新たな課題にチャレンジしています。(近況については「ON THE EDGE #21 / #22」もご参照ください)

 

アルパインクライマー佐藤裕介 復活を果たしたモチベーションの怪物

アルパインクライマー佐藤裕介 復活を果たしたモチベーションの怪物 後編

エマージェンシージャケットは、春から秋のクライミングシーズンに欠かせない1着です。

基本的にはメッシュの100 DRYの上にグリッドフリースを着て行動していることが多いのですが、時期によっては、ルートに取り付いて数ピッチ上がると風が出てくるので、ハーネスにぶら下げたスタッフバッグから、このジャケットを取り出して着ます。

まるで和紙のようにペラペラの薄い生地ですが、ウインドシェルのようにしっかり風を止めるし、不意の夕立のときは雨具になるし、見かけによらず、かなり、擦れに強い。

生地自体が硬いわけではないんですが、岩に当てても、擦れにもすごく強い。花崗岩のワイドクラックに腕を突っ込んで、ゴリゴリ擦りながら登ってもぜんぜん平気。

ナイロン素材だったらビリビリ裂けてしまう状況ですよね。だから、シェルとしては信じられないくらいの強度です。

それでいて、165gという超軽量性じゃないですか。もう岩場では唯一無二ですね。

ただ、ダイニーマ素材の特徴ですが、すごく薄くてウインドシェルのように軽いくせに、ゴアテックスよりもゴワゴワしていて、FUTURELIGHTのようなしなやかなストレッチ性もない。着ていて、そこが気になる人もいるかな。

若干の透湿性があるから、着たままクライミングしても蒸れを感じたことはありません。ただし、アプローチのハイクアップで着たまま登ると、さすがに蒸れ感はありますね。

真夏は着ることが少なくなりますが、夕立も多い季節ですし、少しでも雨が降りそうな気配があれば、ハーネスに提げて登り始めます。ポケッタブルではないので、スタッフバッグに入れてカラビナに通してハーネスにぶら下げて、です。

最初はパタゴニアに行くときにいいなと思って使い始めたのですが、日本でも使ってみたら、もうこれ一択です。

真冬はもちろん使いませんが、早ければ3月下旬くらいから使い始めて、だいたい雪が降り出す11月くらいまでは使っていますね。

——山岳ガイド
松本省二さんのインプレッション

山岳ガイドの松本省二さんは、もともとコアなスノーボーダー。富士山ガイドに加わったことをきっかけに山岳ガイドになり、冬はバックカントリーガイド、春から秋は縦走登山やバリエーションルートのガイドとして活動しています。また現在は、より上位資格の山岳ガイドステージII資格取得に向けて、自分自身の登攀実績を重ねながら、クライミングの技術と経験に磨きをかけているところです。

このジャケットは最初に登場した3、4シーズン前から使っています。春から秋の山行では、ナイロンの薄手ウインドシェルを持って行くのですが、クライミングや沢登りのときは、必ずこのエマージェンシージャケットを選んでいます。

もともと、岩場に最適ということでクライミングで使っていたのですが、あるとき、これだけ生地の疎水性が高いのだから沢登りにも向いているかも、と山仲間とそんな話になりました。そこで試しに使ってみたら、最高だったというわけです。

沢では、けっこう水を被りそうなルートや、肌寒い時期には最初から着ることが多いです。

完全防水のウエアではありませんし、ファスナーや首回りから浸水はありますが、生地のダイニーマ自体が水分を保水しないので、緊急時の雨具としても使えると思います。

透湿性が低いので、着たまま行動していると、やはり蒸れて暑くなってくるんですが、沢登りでは水の中や水際を登るので、けっこう体温調整しやすいんです。

とくに、体の前面左右にあるベンチレーションが非常に大きく開くので、暑くなったら開けっぱなしで行動して、それでも足りなければ水をかぶったり、腰近くまで水に浸かって歩けば、一気にクールダウンできます。

写真で見るとゴワゴワと硬そうに見えますが、実際、裏地のサラリとした肌触りはいいですし、着心地は悪くない。

THE NORTH FACEのシェルなら普段はMサイズを着ているのですが、このエマージェンシージャケットではワンサイズ上のLサイズを選んだので、さらに動きに余裕があるのかもしれません。

ストレッチしない生地ですし、雨具として使うなら、少し余裕のあるサイズがいいと思ってLサイズを選んだのですが、Mサイズを着たことがないので、そこは個人差があると思うので、実際に店で試着したほうがいいですね。

一番の良さは、やはり、強さです。沢登りでは行動中に濡れた石や岩、木の根や枝、泥の付いた斜面など、いろいろなものが体に触りながら登りますし、最後はヤブ漕ぎして稜線に抜けることも多くなります。だから、破けてもいいように、あえて使い古した雨具や、安価なビニールの合羽を持ってくる人も少なくありません。

その点、エマージェンシージャケットは非常に破れにくいので、着たまま行動できますし、その点がやはり心強いです。

春は残雪期の山に滑りに行きますし、秋からはクライミングシーズンにシフトしますので、沢登りはだいたい梅雨時期から9月頭くらいまでの蒸し暑い季節です。

その際、沢に入ったらエマージェンシージャケットは着っぱなしで、下にはロンTタイプの化繊シャツを着て、暑い日はタイツにショートパンツ。水温などのコンディションが読めないときや、やや肌寒い日は、ALPINE LIGHT PANTを穿きます。

ガイド中にこのジャケットを着ていると、お客さんから訊かれることも少なくありません。正直なところ、薄手軽量シェルにしては値が張りますが、機能的には間違いないですし、半年以上、頼りになるジャケットです。

なので、クライミングや沢登りの頻度の高い方には、自信を持ってお勧めできます。もしも予算的にゆとりがあるなら、プラスアルファの一着として使っていただけたらと思いますね。

LAYERING ITEMS IN THIS ARTICLE この記事のレイヤリングアイテム

  • Base-layer(佐藤さん)

    100 DRY TANK

  • Mid-Layer(佐藤さん)

    EXPEDITION GRID FLEECE HOODIE

  • Shell Jacket(佐藤さん)

    EMERGENCY JACKET

  • Shell Jacket(松本さん)

    EMERGENCY JACKET

  • Pant(松本さん)

    ALPINE LIGHT PANT

寺倉 力
CHIKARA TERAKURA

ライター+編集者。高校時代に登山に目覚め、大学時代は社会人山岳会でアルパインクライミングに没頭。現在、編集長としてバックカントリーフリーライドマガジン「Fall Line」を手がけつつ、フリーランスとして各メディアで活動中。登山誌「PEAKS」では10年以上人物インタビュー連載を続けている。

2021.10.20
WRITER : CHIKARA TERAKURA
PHOTOGRAPHER : -

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