オフロードバイクや
ハードエンデューロの魅力
人生であれほど辛いレースはない
だからこそ挑戦する意味がある
人生であれほど辛いレースはない
だからこそ挑戦する意味がある
「圧倒的な自由度の高さがオフロードバイクの魅力です。自分の手足の感覚の延長線上にバイクというものが存在していて、大地を三次元的に飛んだり、跳ねたり。時には斜めに走ることもあり、日常では絶対に味わえない感覚の中で時間を過ごすことができるという体験が最大の楽しみだと思います。上手くなればどこへでも行けるようになって、色んな景色を見ることができるんです」。
3歳の頃からオフロードバイクに親しんできたという石戸谷さんは、オフロードバイクの魅力について意気揚々とこう話す。17歳でモトクロス国際B級ライセンスを取得、高校卒業後にはクロスカントリーやエンデューロを主戦場とし、長きに渡って日本を代表するオフロードバイクのトップライダーだ。過去には、TBSの人気番組“クレイジージャーニー”でも特集を組まれるほどオフロードシーンの顔役とも言える人物。そのクレイジージャーニーでも密着取材されたのが、石戸谷さんが出場したハードエンデューロの最高峰であるレース“エルズベルグロデオ”だった。
時には砕石場や鉱山など不整地のオフロードを舞台に、様々な難所を駆け巡る、その名が示す通り攻略困難なバイクレース、ハードエンデューロ。その中でも世界で最も難易度が高いとされ、時には死者すらも出るレースが、オーストリアはアイゼンナーツの鉱山で行われるエルズベルグロデオだ。昨年と一昨年は、新型コロナウイルスの影響によって出場が叶わなかったこのレースだが、2018年と2019年に石戸谷さんが出場。完走率は1%という最早ゴールさせる気がないんじゃないか……といえる難易度が高すぎるエルズベルグロデオ。日本人では過去に田中太一さんが唯一の完走を遂げているが、石戸谷さんも過去のインタビューで、「1度のチャレンジで完走できる程易しいレースではない。3度目で完走を目指したい」と話しているように、トップライダーでさえも達成が難しいレースだ。今、石戸谷さんが主催しているオフロードのイベント“クロスミッション”も、きっかけはエルズベルグロデオへの挑戦によるものだった。
「アスリートがエルズベルグロデオのようなレースに挑戦をしようと思った時に、まず資金面で苦労することになります。クラウドファンディングで資金を調達するケースが多く、最初は目標金額に達成するケースもあります。しかし、2回目、3回目となると達成することが叶わないことが多い。クラウドファンディングは、モノを作る上では有効かもしれませんが、一回で成績を出すことが難しいアスリートの挑戦には実は向いていないんです。持続的に挑戦をしていく上で、応援してくれる皆さんの好意に頼るだけでは無理がある。そんな状況の中で僕にできる事は何かと考えた時に、コンテンツの提供をすることで、皆さんに楽しみを提供できると思ったんです。その代わりに僕は対価を頂く。そして、その対価を持って目標に向かって挑戦をしていくという図式を描きたくてクロスミッションをスタートをしたのがきっかけでした」。
エルズベルグロデオへの参加費はもちろん、会場であるアイゼンナーツまでの渡航費に加え、バイクの輸送費や4日間の日程にかかる滞在費など必要経費だけでもその金額は莫大である。コースだけではなく挑戦すること自体の難易度が高い同大会であるが、石戸谷さんをはじめ、世界中のオフロードファンを魅了し続けているのも事実だ。「コースが怖すぎて、みんな挑戦することすらビビるくらいのイベントなんですけど。自分の今の状況では手が届かないような高い目標を課した方が、自分の能力を伸ばすことになると思います。だからこそ、エルズベルグロデオにこれからも挑戦したい。それにあれほど過酷なレースは、人生経験の中にあると役に立つこともあるんです。これからどんなに辛いことがあろうとも、まあ、あれよりはマシかと思えるようになるので(笑)。レース中に一歩でも間違えたら命を落としていたかも……という瞬間がありますが、そういう経験があると、人前で恥をかくことや挑戦して失敗することで尻込みをする理由なんてないんだと開き直れるんです。エルズベルグロデオよりも辛いことはないと思っているので」。そう石戸谷さんはオフロードやエルズベルグロデオに関して飄々と語るが、その言葉の1つ1つはとても重い。今年こそ挑戦が叶い、完走することに期待が高まる。