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6:00
クラシカルなフルサイズバンで
今日のポイントへ到着
89年式フォード・クラブワゴンがゆっくりと林道を上がっていく。乗り込んでいるのは杉坂ブラザーズ。兄・友大郎さんと、弟・溪亮さんからなる、プロフライフィッシャーコンビだ。やってきたのは石徹白川の支流。良さそうな入溪ポイントでクルマを寄せ、さっそく準備に取りかかる。クルマのラゲッジスペースには当然フィッシングギアが満載。夜のためのキャンプギアも抜かりない。フルサイズバンだから、2人分のギアを積み込んでもまだまだスペースに余裕がある。
8:00
ロッドを振る2人の姿は
まるで映画のワンシーン
手早く準備を整えた後は、さっそくロッドを振り続ける。
フェルトのハットにワークシャツ。そしてフィルソンのベスト。朝日で輝く川面に立つその姿は、まるで映画のワンシーンだ。じつは友大郎さんのベストはもともとフィッシング用ではない。背中側にDリングを縫いつけて、ランディングネットを取り付けられるようにカスタムしたもの。他にもワッペンカスタムなど、自分の色を出しているあたりはちょっとアメリカの西海岸の匂いがする。
「ここらへんのサカナは結構スレてそうだから、釣れるかなあ……」なんて友大郎さんは言っていたけど、釣りはじめて20分程でイワナをゲットするあたりはさすが。「ありがとう」の言葉とともに、静かに川にリリースする。
10:00
溪の音に包まれて
無心で竿を振る2人
「フライフィッシングの世界って、ハードルが高いと思われがちなんですよ」
溪亮さんが、ラインにフライを付けながら言う。ギアも特殊だし、細かいルールもいろいろとある。杉坂ブラザーズが7年ほど前からYouTubeチャンネルをはじめたのは、そういう敷居を低くしたかったから。自分たちの愛用するギアの紹介や、フライの使い方などが紹介されていて、若い釣り人から人気のチャンネルになっている。自身のオリジナルブランドや、輸入代理店業も手がけていて、この日のロッドはオリジナルブランド「K・BULLET」のもので、ウェーダーはLAに本拠を構える「AQUAZ」をチョイス。
「シルエットがすっきりしていて気に入ってるんですよ」
12:00
釣りの合間の小休止は
淹れ立てのカフェアメリカーノで
「釣りに夢中になっちゃうと、釣りしながらおにぎりを食べたり、割とストイックなんですが、今日はゆったりコーヒーでも淹れましょう」
そう言って友大郎さんが取り出したのは、エスプレッソマシン。「KAMIRA」というイタリアのメーカーのもので、今回のようにガスでもOKだし、焚き火にかけても問題なし。なんとIHにも対応しているという。毎日自家焙煎しているという豆で、手早くエスプレッソを淹れ、そこに氷をドボン。冷たいカフェアメリカーノの出来上がりだ。そそぐカップはまさかのキャンプ用ワイングラス。「かんぱーい」の声ともにうまそうにコーヒーを飲む。
14:00
新たな溪との出会いを求め
次のポイントに移動
「そろそろ別のポイントに移動しますか」そう言って2人はクルマで次なるポイントへと向かう。
「ダメだな、と思ったらけっこうエリア変更しちゃうことは多いです。水量だったり、時間帯なども影響してくるので」
到着したポイントは、さきほどよりもやや川幅が狭く、流れもきつい。人工物のほとんどないワイルドな場所だ。
「フライの醍醐味って、エリアはもちろん、時間帯などでもいる虫が変わるので、食いつくフライも当然変わります。それを自分なりに考えて選んでいく。狙い通りに食ってくれたときがめちゃくちゃ気持ち良い」
溪亮さんは、ふたたびフライを変更して、川に投げ込むが、果たしてその結果は……。
16:00
カーサイドタープを使用し
スピーディな設営&撤収スタイル
日が傾くまでたっぷり釣りを楽しんだ後は、キャンプ場に移動して設営を開始。手早くクルマの横にタープを張っていく。いわゆる後付けのオーニングではなく、タトンカのスクエアタープを、キャプテンスタッグのタープ用クリップで取り付ける。
「オーニングも便利なんですけど、屋根の上で結構な存在感になっちゃいますし、このクルマの雰囲気にも合わないなあと思って」
たしかに全体的にシックかつクラシカルな雰囲気のギアでまとめられたサイトは、2人に良く似合う。
18:00
兄弟2人の男飯
晩ご飯はいきなりステーキ
日が沈んだ頃、WEBERのグリルに炭を熾す。熾きた炭を片側に寄せたら、網の上に前日に仕込んできたというタレに漬かったポークリブと、赤身肉のステーキを置く。
「あとは蓋をして20分待てば完成です」
肉が焼き上がるのを待つ間に、付け合わせのアヒージョを作る。シェラカップにオリーブオイルをたっぷり注いで、冷凍のシーフードミックスとブロッコリーを入れ、最後にアウトドアスパイスほりにしをたっぷり振りかける。これだけで抜群にうまいアヒージョの完成。
20:00
ふたりの想いが詰まった
オリジナルビールで乾杯
「かんぱーい!」とボトルをぶつける2人の手にあるのは、トラウトがラベルにデザインされた、その名もトラウトビール。2人が手がけたクラフトビールで、フライフィッシングの本場であるアイダホ州のホップを使ったもの。このビールの売り上げの一部は、サカナの放流資金などに充填していく予定だ。
「ビール1本でサカナ1匹ってノリですかね(笑)」
2人はそう言って笑うが、そのユルいノリの裏側には、フライフィッシングを愛する心が覗いている。
22:00
後部座席にマットと寝袋で
快適な寝床が瞬時に完成
フライフィッシャーの朝は早い。だから就寝時間も通常のキャンパーよりもやや早め。車中泊だから撤収もあっという間に終わり、荷台をカスタムした寝台に2人で潜り込む。クーラーボックスやギアボックスは2人の間に配置して軽いパーテーションの役割を果たしている。
「いくら兄弟でも、さすがに至近距離に寝顔とかあったら気まずいですもん(笑)」
ランタンに照らされた薄暗い車中の中では、明日の釣りの相談。トラウトビールを片手に、最高の釣りの夢を見るのだ。
00:00
02:00
04:00
太陽がようやく顔を出した頃
次なる釣り場を目指して出発
まだ薄暗い中起き出した2人は、さっそく釣り場へ向かう準備を始める。とはいえ、撤収は昨日の夜のうちに済ませているので、ポイントまで移動するだけ。
「今日はたっぷり寝ましたからね。10時間くらいぶっ続けで、釣り続ける予定です!」
少年のようなワクワク顔を窓から覗かせて、愛車とともに次なるポイントに。
「釣りは、1日として同じ状況がないから、つねに試行錯誤の繰り返しです。でもそれが楽しい。それこそお爺ちゃんになっても成長して行けそうな、一生楽しめる趣味だと思います」
溪亮さんの言葉どおり、きっとこの兄弟は生涯ロッドを振り続けていくのだろう。
独自性と誠実さの同居
杉坂ブラザーズの釣りのスタイルは、日本ではちょっと独特かもしれない。ファッションもしかり、ノリもしかり。いわゆる日本の渓流釣りの堅苦しさが微塵もないのだ。ただ、ルールは厳守するし、締めるところはしっかり締める。自分たちが手がける輸入代理店業では、通関から検品、発送までを自分たちの手で行っているという。その理由はコストを削減することで商品をより安く、お客さんのもとに届けるため。釣り場や放流魚を増やす活動も地道に続けている。YouTubeを積極的に配信しているのも、ビギナーの敷居を下げ、フライフィッシング業界を盛り上げたいと考えたからだ。道具を売り、釣り場を増やし、ノウハウも伝える。そのすべてに独自のフィルターを通してはいるが、その根底にあるのは「フライフィッシング文化を次世代に繋ぎたい」という真摯な思いだ。
- Camper’s Profile
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プロフライフィッシャーマン
杉坂ブラザーズ
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兄・友大郎さんはモンタナ州、弟・溪亮さんはアイダホ州で、アメリカ流のフライフィッシングを経験。愛知県岡崎市でフライフィッシング専門店「World Wide Anglers」を構えている。YouTubeチャンネル「SUGISAKA BROTHERS」の他、テレビをはじめ、メディア出演も多数。