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        NEW RC4 STORY

        2020年11月公開 取材・執筆: 田草川義雄(REPLAY SKI RACING

        <RC4各モデルのスペックはこちらから>
        RC4 WORLDCUPシリーズ(レース&デモ)
        RC4 GS/SLシリーズ(リアルレーシング)

        フィッシャーはワールドカップの黎明期から現在に至るまで、レーシングシーンにおけるスター選手の活躍とともに成長してきたスキーだ。中でも伝説となっているのがフランツ・クランマー(オーストリア)の活躍。ダウンヒルにおける圧倒的な強さから“カイザー”の異名をとったクランマーは、1976年に地元インスブルックで行なわれた冬季オリンピックで、オーストリア全国民から金メダルを期待されるという重圧の中、見事ダウンヒルで優勝する歴史的な勝利をあげた。

        下の写真がそのワンシーンを捉えたものだが、オーストリアのフィッシャー本社社屋には、もちろん今でもこのパネルが誇らしげに飾られている。ただ、写真でもわかるように、この時代フィッシャーのレーシングモデルは、まだ【C4】だったことを。そう、当時のテストで最速タイムを出したカットにちなんで【C4】、つまり“カット4”がフィッシャーのレーシングモデルの総称となった。そして【RC4】は、その流れをくんだ進化形であるわけだ。

        img_new_rc4-02.jpg

        インスブルック五輪ダウンヒルでのフランツ・クランマー。彼のはくフィッシャー【C4】は、世界中のスキーヤーの憧れとなった。(Photo: Fischer Sports GmbH)

        【RC4】は、レーシングカットNo.4という意味だが、前述の通りカットというのは、もともとはスキーの形状を決めるモールド(金型)を意味する。当時1から4まであったフィッシャースキーのモールドのうち、もっともタイムの出るタイプがカット4だったのだ。

        ただし2021モデルの【RC4】でいうカットとは、サイドカットであると同時に形状そのもの、スキー板の構成要素すべてを表す。もっと言えば、フィッシャーのレーシングプログラムの総称でもあるわけで、その【RC4】の名前が冠せられたスキーには、フィッシャーのすべてが注ぎ込まれていると言っても良いだろう。

        さて、2020/21シーズンの【RC4】シリーズがめざすところは、

        ①あらゆるスキーテストでの競争を勝ち抜く
        ②コマーシャルモデルとリアルレースモデルとのクロスオーバー
        ③サービスマンの専門知識を開発チームに反映する

        だという。

        ここでいうスキーテストとは、ヨーロッパの権威あるスキー雑誌主催のものやコンシューマー向けに開催されるスキーテストのことで、その多くはヨーロッパのスキーヤーからの信頼度が非常に高い。したがってそこで高評価を勝ち得ることは、メーカーにとって大きな目標となるわけだ。

        また2点目に関してだが、コマーシャルモデル(販売数を前提とした市販モデル)とレース(選手を対象とした限定モデル)を比較した場合、後者のスキーが最高でコマーシャルモデルは、それに若干劣るものだというのがこれまでの一般的な認識だった。しかしコマーシャルモデルのレベルを引き上げることで、両者を同等のものにしようというのが今回の【RC4】リニューアルのコンセプト。つまり本気で競技をやろうというスキーヤーはレースモデルをはけばいいし、競技はやらないけれど、でも競技的なシャープでアグレッシブな滑りを求めたいというスキーヤーは新しい【RC4】を使ってほしいというのがフィッシャーの願いなのだ。

        そしてそれを実現するために、最前線に立つサービスマンと開発チームが力を結集して【RC4】を作り上げた。
        レーシングディレクターにかつての名GS選手シーグフリート・フォグルライター、そしてチーフサービスマンにはハンス・クナウスの兄、フランツ・クナウスを擁するフィッシャーのレーシングチーム。余談かもしれないが、ハンス・クナウスは ワールドカップ通算7勝をあげた名選手。まもなく50歳になろうかというのに、未だにワールドカップ男子高速系のPOV(カメラ前走)を余裕で務め、ミヒャエル・フォン・グリュニゲンらとともにフィッシャーの開発チームの主要メンバーでもある人物だ。

        そんなフィッシャーが総力をあげて開発に取り組んだ【RC4】。
        はたしてどんな正体を持っているのだろうか?

        img_new_rc4-02.jpg

        オーストリアの氷河スキー場でのテスト風景。日本のスキーヤーにどのように受け入れられそうかを厳しくチェックする
        左の人物が今回テスターを務めた高瀬慎一(フィッシャーデモチーム)

        2020/21モデルの【RC4】を一言で説明すると「フィッシャーレーシングの系譜を持ち、レーシング部門が開発した日本の基礎スキーヤー向けの新しいスキー」。具体的な性能としては、ターンから抜けるときの加速感、クイックなレスポンスと安定感のバランス、それにスキー中心部から感じられるグリップの良さだという。

        【RC4】シリーズの主要4機種それぞれのキャラクターについて紹介しておこう。【RCプロ】と【SCプロ】は昨シーズンの「カーブブースター」仕様の後継モデル。だが、後述のように中身は一新され、名称にもプロの2文字が加わった。【RCプロ】はGS的なサイドカーブを持つロングターン向きのモデルで【SCプロ】はショートターンに威力を発揮するエキスパートモデルだ。

        面白いのは、今シーズン新たに投入された【SCプロ(Pink)】だ。中身は【SCプロ】と同等のカラーバリーエーションモデルで構造や機能はまったく同じだという。差し色にピンクが採用されているので女性専用モデルかと思いきや、テスト段階では意外にも男性からの支持が高かったという。女性っぽいおしゃれなイメージに目が行きがちだが、実質的にはしっかりとしたショートターンモデルというのが高評価の理由だろう。小さな写真ではわかりにくいかもしれないので、ぜひ店頭でそのデザインを確かめてほしい。

        そして、もうひとつの注目モデルが【RC4 CT】。名称の由来はワールドカップのシティ・レース。つまり大都市近郊で行なわれるパラレル・レース(タイムを競う通常のタイムレースではなく、1対1の勝ち抜きトーナメント)だ。したがって、サイドカーブは、スラロームほど小回りではないが、GSほど大回りでもない中間的なカット。基本サイズは175cmだ。

        RC4 WORLDCUP CTで滑る高瀬慎一。今回オーストリア用意された3機種の中で、これがもっとも気に入ったようだ

        これらのモデルの内部構造としてまず特徴的なのは、ニュー・シェイプドTI。TIというのは、チタニウムのことで、スキーの形状に合わせ、部分的に細くしながら、必要なところに必要な幅でチタニウムのシートが配されている。めざすのはパワー伝達の効率化。トーション(ねじれ強度)とフレックス(柔軟性)のバランスをとり、しなやかさを出しつつ、アグレッシブな感覚を持たせるためだ。

        もうひとつ特筆すべきなのがダイアゴテックスだ。これはカーボン繊維を45度の角度で編み込んだシート。シリーズ4機種のうち【RC4 CT】を除く3機種にはダイアゴテックが1枚、CTには2枚内蔵されている。役割としてはトーションの強化を担い、ハイスピード滑走時の安定性に貢献する。

        外見的にはトップ部分の形状が見直しされた。特徴的な四角いトップ形状は、エッジの有効長を長くしつつ、操作性を高める。その結果、引っかかりなくスムーズなターン導入が可能になるという。

        同様にフィッシャーのレーシングモデルのアイデンティティのひとつでもあるトップ部の穴にも若干の変更がある。時代とともに進化してきたホール(穴)だが、トップのフォルムに合わせてモダンな四角い形状に進化。シリーズでは【RCプロ】と【SCプロ】に採用され、スウィング・ウェイトの軽減につながっている。

        img_new_rc4-04.jpg

        New RC4シリーズの主な特徴(フィッシャーのデジタルカタログから)

        最後に新しいプレートについて説明しておこう。実はプレートの一新こそが、2020/21モデル【RC4】シリーズ最大のトピックと言えるだろう。フィッシャーのプレートは現行モデルの【カーブブースター】で、すでに高い完成度を誇っていたが、そこからさらに前進。セパレート型だった【カーブブースター】から一体型の【M/Oプレート】へと進化した。そのうえで適正なフレックスを出すためにトップ部に可動域を設定。ここをスキーからわずかに浮いた状態にすることで、プレートをプレートの存在を短く感じながらも、その効果を最大限に得られるようになっている。この【M/Oプレート】は、全部で4タイプがあり、【RC4】シリーズには、そのうち【M/Oレースプレート】が搭載されている。その名の通り競技用モデルに搭載されるものだが、さらにトップレーサー向けには【M/Oプレート WC】が用意される。側面に金属が打ち込まれ、見るからにハードな仕上がり。日本ではカンダハー、マウント石井スポーツ・コンペ館、そしてフィッシャー・チューニング・ベース(FTB)の3店舗のみで限定販売される。

        MO レースプレート。

        MO レースプレート。トーピースの部分に可動域があり、安定感としなやかさを両立させる

        僕のテストの評価基準は、基礎系のコンペティションで使ったらどうだろう?という点。シリーズに共通するM/Oプレートの印象からいうと、一体型の特徴としてスキーを踏み込むと、すぐにガツンと返ってくる。でも硬いだけの一体型だとガツンから一気にスキーが縦に走るけれど、このM/Oプレートは、トーピースの下が浮いているのでエッジが噛んでからちょっと動く感じ。反応が時間差で来るセパレート型とちょうど中間的な挙動なので、扱いやすく感じる。

        今回個人的に一番気に入ったのは【WC CT】だ。パラレルレース向けに、どのような味付けがされているか興味があった。ダイアゴテックスが2枚使われている効果で、しっかりした安定感がある、というのが第一印象。限りなくレースモデルに近いと思う。テストしたのは175cmで、長さは165から5cm刻みで180cmまで。175cmは安定感が際立っていたので、乗りこなすにはある程度の技量が必要だと思うけれど、女子選手も含めて長めのサイズならばロング系の種目でいけるんじゃないか。

        次に【SCプロ】は165cmをはいた。足元のしっかり感は伝わってきたが、僕がはくには全体的に柔らかい印象。でも、女子の全日本クラスから岩岳をめざすスキーヤーにおすすめだと思う。M/Oプレートになって明らかにターンの抜けがよくなっているので、スキーの性能が滑りの質を上げてくれる。スキーが乗り手を一段高いステップに上げてくれるというタイプだ。 【RCプロ】は、ハイスピードでロングターンを楽しむスキー。朝一のリフトでゲレンデトップに上がって、長い距離を高速で滑ったら、とても爽快だと思う。また、サイズを選べば、マスターズレーサーやジュニアレーサーが充分にレースで戦えるだろう。

        高瀬慎一プロフィール

        高瀬慎一1977年6月18日生まれ、富山県出身、チームランプジャック所属、フィッシャーデモチームメンバー。
        高校時代にインターハイを制覇し、将来を嘱望されるも突如引退、その後約10年のブランクを経てTOPシーンに復帰。アルペンレースと基礎スキーを中心に活躍し、北陸地域を中心にスキーの普及発展に尽力。18-19シーズンにおいては、国体を目指しトレーニングを重ね見事優勝を飾り、技術選においてもシャープな滑りで8位入賞を果たす。

        [最近の主な戦績]
        2018年 全日本スキー技術選 男子総合16位
        2019年 国民体育大会冬季スキー大会C組優勝
        2019年 全日本スキー技術選 男子総合8位

        資料映像1)使用モデル RC4 WORLDCUP CT M/O-PLATE 20|21モデル

        資料映像2)使用モデル RC4 WORLDCUP CT M/O-PLATE 20|21モデル[スローモーション編集]

        資料映像3)使用モデル RC4 WORLDCUP CT M/O-PLATE 20|21モデル[バックシューティング]

        資料映像4)使用モデル RC4 WORLDCUP CT M/O-PLATE 20|21モデル[バックシューティング・スローモーション編集]

        資料映像5)使用モデル RC4 WORLDCUP RC PRO M/O-PLATE 20|21モデル

        資料映像6)使用モデル RC4 WORLDCUP RC PRO M/O-PLATE20|21モデル[スローモーション編集]

        田草川義雄

        FISスキーワールドカップ アルペンレーシングを長きに渡り精力的に取材を続け、アスリートやレースに関する貴重なインタビューやレポートはもちろん、スキーファンの知識欲を満たしてくれるヒストリカルなレジェンドの紹介、そして世界のアルペンレーシング界の最新トピックスまで、様々な情報や話題をいち早く我々に発信する稀代のスキージャーナリスト、田草川義雄。この記事はフィッシャーが氏に依頼し、田草川氏の知識、経験を通して、新たなるステージに突入する名機「RC4」を、フィッシャーのホームカントリー、オーストリアでの現地取材を通してレポートしたものです。

        田草川氏が主催するWEBマガジン「Replay Ski Racing」はこちらから

        Replay Ski Racing

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