The Creativist

AREA 241 Journal 未来を手づくりする人たち
Chapter 5 Vol.Four
CRAFTSMAN, BUILDER, PLASTERER
Taiki Minakuchi

水口泰基

TEXT & PHOTOGRAPHS by NUMA
モノ余りの時代。できれば新たなゴミを増やさずに、ものづくりを続けたい。
果たして、そんなことが可能なのだろうか? 
答えはアメリカ先住民の暮らしに伝わる教えのなかにあった。
無駄を極力減らしながら空間づくりをおこなうための工夫について話を聞いた。
水口さんは納期の迫った店舗向けの建具を仕上げるために材料の準備をはじめた。
コストを少しでも削減したいという施工主の要望に応えるために、合板と石膏ボードを張り合わせてつくった建具をモルタルで下塗りし、モールテックスで仕上げる。
グレーのモルタル材をたっぷりとコテに乗せては、建具の表面に手際よく塗り込んでいく。
はじめのうちは無機質だったものに不規則な模様が刻まれると、生命の宿ったプロダクトに生まれ変わった。
彼の空間づくりの軸は左官、無垢材、そして鉄だ。
サンゴ礁が長い年月をかけて変化した石灰やプランクトンの化石が海底に堆積してできた珪藻土など、左官材は自然由来のものが多い。
丸太から切り出した無垢材には木特有の風合いが刻まれ、寿命も長い。
鉄は地球を構成する重要な元素のひとつ。

どれも古くから自然界に存在する素材であることから、外に出しておけばやがて土に還るに性質があり、結果としてゴミになりにくい。つまり地球への負担を最小限に留めることができる。
彼はサステナブルな素材にこだわることと同じくらい「使い切る」ことにも執着してきた。
自然が造形した美しい木目をそのまま生かしながら表面を透明の樹脂で埋めたレジンテーブルというプロダクトは、その思いが凝縮されたもののひとつだ。
水口さんはここ数年、このプロダクトの開発に多大な情熱を傾けてきた。
「使い物にならない木材を目にするたびに、何とかして活かせないかと、ずっと考えていたんです。木と樹脂を組み合わせて家具を作るアイデアは漠然と頭の中にあったけど、石油由来の樹脂は環境に対して優しいとは言い難い。
ある時、カナダの企業が開発したEcoPoxyという、大豆油をベースとした植物由来の樹脂の存在を知り、これなら使えると思いました。樹脂はすぐに自然に還る性質の素材ではないけれど、活用しづらかった天然木を無駄に廃棄することなく使えるようになるんです」。
水口さんはさらに、使用済みの足場板に写真プリントを施すという新事業にも着手した。採算を度外視して高額なプリンターを導入し、カットした古材の表面の穴や節をパテで埋めて、そこに写真などの画像を印刷する。

自らが愛してやまない木を余すところなく使い切るために、できることはすべてやる。「ゴミをつくらないこと」に徹したものづくりを、彼は本気で実践しているのだ。

解体現場では驚くほど大量のゴミが出る。
三年前、ぼくの住むマンションの目の前に大手デベロッパーが手がけたタワーマンションが完成した。
ところが、入居者も増え、地域に馴染みはじめた矢先に施工不備が発覚。補修工事を行う必要に迫られ入居者は工事完了まで仮住まいを強いられる羽目になった。
解体工事がはじまってから毎日、ゴミを満載したトラックが絶え間なく出入りする風景を目の当たりにしている。すでに半年くらいは続けられているが、いまだ終わる気配が無い。
建物の規模が大きいだけに出るゴミの量も凄まじい。国土交通省のデータによれば建設廃棄物の九割は再利用されているというけれど、そこにいたる過程でどれだけの資源やエネルギーが使われているかと想像するたびに気分が重たくなる。

三〇〇戸数を超える高層ビルと水口さんが手がける店舗や住宅のリノベーションを比較するのは無意味かもしれないが、T-PLASTERでは現場で出たゴミを、木、石膏ボード、電線、がらなどに仕分けし、細かく砕いて会社に持ち帰り、スタッフ全員でさらに細かく分別している。

家具を製作する過程で出る端材も含め、使えるものは社内で使いまわし、リサイクルに出せるものは、すべて出す。そこまでやりきる工務店に、ぼくは出合ったことがない。

現場で余った古材は、薪として再利用している。仮に釘が刺さっていても、灰になってから分別して鉄のリサイクルに出せばよい。
ストックした薪は知り合いやお客さんにも無料で譲る。使い切れないものは木材チップ工場に運び、それでも余ったものだけを仕方なく捨てていた。

水口さんは最近、薪を販売するビジネスも始めた。
「『焚きつけ用から、中くらいのもの、太いものまで、ソロキャンプの人がポイポイとやって楽しめる用』みたいな感じで箱詰めしています。ひと箱一〇キロで一四〇〇円。激安でしょ(笑)。ぼくらが施工したカフェとかアウトドアショップなどで販売してもらっています。まだ初めて二、三週間だけど三〇箱ぐらい売れた。薪の選別も配送もすべて自分たち。手間と時間ばかりかかる割に、利益はこれっぽっちも出ないけど、『自分たちの思想を伝えていこう!』と動いています」

水口さんは、そこまでして何を成し遂げたいのだろうか。
彼はきっと、大量生産・大量消費・大量破棄を前提として成り立つ資本主義社会の行く末に対してひとつの解決策を提示したいのではないか。

今から20年くらい前にインディアンジュエリーが大流行したことがあった。デザインの素朴さに惹かれた水口さんはアメリカ先住民の暮らしに興味を持ち、一冊の本を手にした。
彼らの名言や教訓をまとめたその書籍を読み進めるうちに、ひとつの言葉がグサリと胸に刺さった。

「私たちは、すべてを八世代先のことまで考えてジャッジする」

進化よりも調和を重視して次世代へたすきをつなぐ尊さ。アメリカ先住民は遠い未来を見据えて資源を守り、捕えたバッファローの皮まで使い尽くす、無駄のない生活を実践した。

「そういうことだよな!」と腑に落ちた水口さんは「彼らの哲学を反映させた仕事の進め方をすれば、世の中のためになる。やがてみんなが同じ考え方を実践できるようになれば、社会は、かなりハッピーになるはず」と確信した。
情報技術と物流システムが進歩して、生産拠点がグローバル化すると、大量生産・大量消費にさらに拍車がかかった。
完成品がいち早く消費者の手元に届き、返品が必要ならワンクリックで宅配業者が集荷に来てくれる。生産する企業は利益を高めるために短いサイクルで新たな商品を生み出して市場に出す。消費する側は消耗品としてそれらを受け止め、ものを大切に長く使う方法は置き去りにされてしまった。

さらに、生産技術の向上によって量産品のデザインもクオリティも上がり、職人が手がけるオーダーメイド品が敬遠されるようになった。
そうやって世界はもので溢れかえったけれど、その分だけ物の価値は下がってしまった。

そうした悪循環に歯止めをかけるためには、必要なものを見極め、生産と消費のパターンを変えるべきだ。

つかわれている素材はホンモノなのか、フェイクなのか。きちんとしたプロセスを踏んでつくられているか。廃棄されたあとにどうなるのか。つくる量と使う量を減らしつつ、ものの価値を上げることが、これからの時代には必要なのではないか。
一日の作業が終わる夕方、彼は、ぼくをバルコニーに誘い出した。
アンティークが並ぶ3階の片隅に「HEAVEN'S DOOR」と書かれた小窓と、質素な梯子がかけてある。
「足元に気をつけてのぼってください」
そう促されて角度のついた段差を慎重にのぼり、重たい窓を開けた。

そこにはルーフバルコニーが設えてあって、横浜都市部の近未来的な風景と丹沢山系が目の前に広がっていた。
太陽が落ちる方角の隅には富士山のシルエットが浮かんでいる。
日が落ちる寸前にだけ現れる淡いピンク色の空が、この上なく美しい。

ヴィンテージのアイアンチェアに深く腰をかけると、水口さんは言った。
「地球の未来を想像しながら、愛するものを大切に使う。つくり手の思いが詰まったものに触れることで、そんな思想が広がれば良いですよね」。

水口泰基/〈T-PLASTER〉代表。レインボー倉庫オーナー。

1982年、静岡県生まれ。自動車整備士、左官職人の見習いを経て、「made with soul.」をコンセプトに自然と人の魂が息づく空間づくりを目指す工務店〈有限会社ティープラスター〉を設立。横浜を拠点に、天然素材を使った建築設計・施工・リノベーション・無垢材を使用した家具の製作販売・シェアスペースの運営など、幅広く事業を展開。
T-PLASTER ホームページ:https://t-plaster.com/
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